18. 超人
文字数 1,749文字
ブルグはいくらかホッとした様子で身を引いた。だがそれは、ただ場所を空けただけに過ぎなかった。気になって仕方がないブルグは、挑戦者が立つ位置の真横に佇んだ。
リューイは踏み出した。
その姿は素晴らしく堂々としていた。歩調に微 かなためらいさえもない。
リューイは、360キロのバーベルと向かい合った。少しも竦 み上がる様子もなく、これまでと同じ態度で位置についた。そのまま少し目を閉じて、精神的に、人の不可能を可能にする ―― 今必要なだけでなく、それ以上もの ―― 力を発揮できる準備を整えた。
「本領発揮したことは?」
ギルがレッドにきいた。
「いや・・・今まで暴れたそうなのを無理に止めてきたから。」と、レッドは答えた。
二人も会話をそこまでにして、リューイに注目。
人々も手に汗握った。そしてつい、まだ若い金髪碧眼の美青年が新チャンピオンとなった場面を想像した。それは間違いなく伝説となるだろう。
吹き過ぎた風が冷たくなり始めたのにも気付かない。
彼らの視線は一つだ。
「ああ、何だかこっちが緊張しちゃう・・・。」
リューイとはまだ何の関わりもないシャナイアだったが、彼女もこの場の空気に呑まれてそう呟 いていた。
観衆はそろって身を乗り出した。
軽く深呼吸をしたリューイは、両膝を曲げて、バーベルをしっかりと握りしめた。それからスッと立ち上がって、ひょいと腕を上げた。
彼は、ワン、ツー、スリーのテンポで、それをやってのけた。
「ひっ!」
ブルグなどは、たまげて尻餅をついた。だって人間には限界がある。いくら筋力を鍛 えても、体を支える骨が耐えられなくなる(はず)。なのに、この男は・・・。
ほかの人々にとっても、先ほどのブルグを見ているだけに、誰もが目を疑いそうになる信じられない光景だ。本当に同じものかと。
だが、たちまち湧き起こった大歓声の嵐で、会場は揺れた。興奮して大騒ぎし、激しく手を打ち鳴らす大音響が辺りに響き渡っている。
その中で、一部始終を見守っていた旅仲間たちだけは、拍手も喝采 もなく、無言でただ目を見合っていた。恐らく、リューイの実力はあれが一杯一杯ではないだろう。そら恐ろしい仲間を得た・・・。
エミリオ、ギル、レッドの三人は、これからの旅路に、彼のその実力が試されることがあるだろうか・・・と何となく思ってぞっとした。それが吉と出るか凶と出るかは分からないが、直感で不安を覚えた。なにしろ、本来のリューイは気が短かそうだった。ちょっと喧嘩をふっかけられただけでも、カッとなったらむやみやたらに相手を殺しかねない気がした。特にレッドは、あの精神年齢一桁 の凶器を迂闊 に怒らせたらとんでもないことになる・・・と恐怖にかられた。この先、そんな厄介事 が起こりませんように・・・。
「やった!」
「わああ!」
そんな怒涛 の喝采と拍手に取り巻かれると、リューイはまた嬉しそうに笑った。そしていよいよ力を奮い起こし、そのままバーベルをぐるぐると回し始めたのである。
ひいいいっ!
そばにいるブルグは、頭の上で180キロ(二つ)がぶんぶんと唸 りをあげて回転しているさまを、慄 きながら見つめた。
リューイはいつまでもニコニコと愛想のいい笑顔を振り撒いている。
「すごく楽しそう・・・。」と、シャナイアがつぶやき、「囃 されて調子に乗るなんて・・・。」と、ギルが呆れると、「まるで子供なんだよ・・・。」と、レッドが教えた。
すると、いつまでも止みそうになかった歓声が、舞台をはさんだ一行の向かい側で、突然、悲鳴に一変した。いきなり騒ぎだしたそこでは、観衆が逃げ惑うようにして左右に分かれたのである。
リューイも気付いて手を止めると、腰を抜かしているブルグのすぐ足元にバーベルを投げ降ろした。
理由はたちまち判明した。
そこから響いてきたのは、馬の蹄 の音と、荒々しい叫び声。複数いるその正体は、人々が避けてできた通路から、はばかりなく会場の中へ飛び込んできたからだ。
リューイは踏み出した。
その姿は素晴らしく堂々としていた。歩調に
リューイは、360キロのバーベルと向かい合った。少しも
「本領発揮したことは?」
ギルがレッドにきいた。
「いや・・・今まで暴れたそうなのを無理に止めてきたから。」と、レッドは答えた。
二人も会話をそこまでにして、リューイに注目。
人々も手に汗握った。そしてつい、まだ若い金髪碧眼の美青年が新チャンピオンとなった場面を想像した。それは間違いなく伝説となるだろう。
吹き過ぎた風が冷たくなり始めたのにも気付かない。
彼らの視線は一つだ。
「ああ、何だかこっちが緊張しちゃう・・・。」
リューイとはまだ何の関わりもないシャナイアだったが、彼女もこの場の空気に呑まれてそう
観衆はそろって身を乗り出した。
軽く深呼吸をしたリューイは、両膝を曲げて、バーベルをしっかりと握りしめた。それからスッと立ち上がって、ひょいと腕を上げた。
彼は、ワン、ツー、スリーのテンポで、それをやってのけた。
「ひっ!」
ブルグなどは、たまげて尻餅をついた。だって人間には限界がある。いくら筋力を
ほかの人々にとっても、先ほどのブルグを見ているだけに、誰もが目を疑いそうになる信じられない光景だ。本当に同じものかと。
だが、たちまち湧き起こった大歓声の嵐で、会場は揺れた。興奮して大騒ぎし、激しく手を打ち鳴らす大音響が辺りに響き渡っている。
その中で、一部始終を見守っていた旅仲間たちだけは、拍手も
エミリオ、ギル、レッドの三人は、これからの旅路に、彼のその実力が試されることがあるだろうか・・・と何となく思ってぞっとした。それが吉と出るか凶と出るかは分からないが、直感で不安を覚えた。なにしろ、本来のリューイは気が短かそうだった。ちょっと喧嘩をふっかけられただけでも、カッとなったらむやみやたらに相手を殺しかねない気がした。特にレッドは、あの精神年齢
「やった!」
「わああ!」
そんな
ひいいいっ!
そばにいるブルグは、頭の上で180キロ(二つ)がぶんぶんと
リューイはいつまでもニコニコと愛想のいい笑顔を振り撒いている。
「すごく楽しそう・・・。」と、シャナイアがつぶやき、「
すると、いつまでも止みそうになかった歓声が、舞台をはさんだ一行の向かい側で、突然、悲鳴に一変した。いきなり騒ぎだしたそこでは、観衆が逃げ惑うようにして左右に分かれたのである。
リューイも気付いて手を止めると、腰を抜かしているブルグのすぐ足元にバーベルを投げ降ろした。
理由はたちまち判明した。
そこから響いてきたのは、馬の
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