第14話 5人のSランカー

文字数 3,117文字

 STCO 大阪本部
 総監督指令室
 STCO最高責任者の津崎雅龍は誰もいない部屋の中、モニターの前で対談していた。
 その相手は闇市の六芒塔、第二塔ヴァジル。STCOの魔導機具のほとんどは第二塔から買っている。
 だが、問題が起きた。建物の移転の際に大量のトラックが移送を開始したのだが、大量のトラックの中から魔導機具を運んでいる運搬車だけが狙われた。
「知っての通り今在庫がなくてな」
「そんな前置きはいい。ゼティスからとっくに情報は仕入れてる。貯蔵してある武器、その値段は」
 無言の睨みは腹の探り合いはそんなに長く続かなかった。
 第二塔とSTCOのつながりは長い。六芒塔の第二塔と強みはそこにあった。日本最大の企業、その一部の軍事開発。そこで開発された武器の取引先は主に日本政府。もっと厳密に言うならばSTCOである。
 その信頼関係からかすぐに資料が津崎雅龍に送られる。
 その内容に席を立ち声を荒げる。
「ふざけているのか!何だこの破格の金額は!」
 落ち着きをとりも出したのか、咳ばらいをしながら腰を下ろす。
「……すまない。ここ最近立て込んでいてな」
「ルインの悪魔の復活となれば仕方ありませんよ」
「で、これだけじゃないんだろ」
「ええ。キサラギに物資をとられたことにより、戦力増強となりましたがあまりある情報を手に入れました」
「ほう」
「ルインの悪魔とキサラギ、ディアンが手を組んでいるの存じていますよね。この気にSTCO最大の失態である彼らを消しましょう。今回動くのはキサラギだけみたいです。ディアンはキサラギと違いかなり利口なので準備が整っていない今、そしてこの均衡状態の中、勢力差がはっきりしていない状況ではまだ動かない。今回相手にするのはルインの悪魔率いるキサラギだが、その動きは突発的ですぐに情報が漏れ出ている。これだ」
 次に送られるデータの深いうねり声をあげる。
「第五塔の既存のデータと照らし合わせてみたが、……人まずこれが真実だとして、奴は本気で第二塔をつぶそうとしているんだな」
「ええ。こちらとしてもだいぶ大変で。良くても共倒れか」
 どこまで本気で言っているのかわからないが、第二塔が過去もっとも危ない状態であることは間違いない。
「そこで取引です。今回の武器提供はタダで、第五塔の息の根を止めましょう。もう既に全て敵組織の拠点情報は把握しています。今回キサラギを捕らえることが出来れば貴方がたの失態のうち一つは解消できます、そちら側としてもかなりおいしい。日本のヤクザ・不良・暴走族の大掃除と行きましょう。あちらが量で来るのなら、こちらは質で」
 STCOはヴァジルとの交渉を飲み、全面的な協力体制を築いた。
 そしてこの後すぐ、全てのSランカーに招集命令が下った。


「来たか」
 総統の言葉に綺麗な一礼をする男と興味なさそうに佇む女。
「ご命令とあれば」
「……」
 始めに現れたのは蓮と加恵奈。
 礼儀正しく一礼をした蓮はまっすぐ長い長髪を首の後ろでまとめた中華服の27の男。表情は穏やかで優しく、まるでSランカーの雰囲気は感じられない。
 対する加恵奈は最高責任者の前で一礼もせずただ無言を貫く。無口の彼女の髪は短く切りそろえられ、あまりにも体の露出が激しかった。はっきり見える太ももにまかれたベルトには拳銃がしまわれ、よく見れば体のいたるところに武器が仕込まれている。加恵奈は蓮と同じ27歳。
 そしてしばらくすると横暴な態度で入ってくる暑苦しい男がいた。
「何の要件だ」
 入って早々、津崎に小さく威圧する竜命。
「全員そろってから説明する」
 めったにないSランカー全員の招集命令のこともあり、今回は素直に引き下がった。
「お久しぶりです」
 蓮が優しく微笑み竜命を手招きする。加恵奈は竜命を一目見るだけで直ぐに視線を逸らし退屈そうに会議の始まりを待っていた。
「ああ」
 竜命は仕方なく、蓮の隣に移動し二人と同様に皆が集まるのを待つ。竜命はSランカーの中で一番の新人で蓮とは歴が全然違う。蓮の性格も相まって彼には強く出れなかった。
 少しすると三日月に連れられた翠が部屋に着いた。
「翠様をお連れいたしました。」
「三日月、ご苦労だ。翠、こちらに来なさい」
「はい。お父様」
 三日月から手を離したぬいぐるみを持った幼女が津崎雅龍の元にかけていく。
 翠を持ち上げた津崎雅龍は自分の目の前にあるテーブルに座らせる。
 この部屋に集まった翠、三日月、竜命、蓮、加恵奈。それぞれが互いに顔を見合わせる。それは言うまでもなく、現状5人全てのSランカーが集うこと滅多にない起こりえない光景だからだ。
 だからこそ、皆ただごとではないことを察している。
「結論から言う。お前たちにはキサラギを殺してもらう」
 総統の言葉に竜命が確認をとる。
「キサラギか。ここを抜けてご立腹に六芒塔の第五塔の頭張ってる奴だな」
 新人の竜命にとってキサラギとの接点はない。彼が入る前にキサラギはSTCOを抜けていた。
 竜命は宮横丁事件に関わっておりキサラギ事件の概要も知らない。それを知っている先輩の蓮が声をかける。
「キサラギ。元Sタンカーの彼はね武力最強とはうたわれていたものの性格に少し難があってね、自由を求めてた彼には政府の圧力が気に食わなかったんだろうね。彼には協調性というものがなかったから」
「話を戻すぞ。六芒塔の第五塔キサラギが第二塔、ヴァジルに宣戦布告した。その際、ルインの悪魔がキサラギについていること、そして、第六塔のディアンも協力関係であることがわかっている。キサラギは本気だ」
 その言葉と同時に大きなパネルが空中に現れ、キサラギの用意した大量の勢力に皆が息をのむ。
「これは第二塔ヴァジルのデータだが加恵奈に協力して確認してもらった」
 津崎雅龍の言葉に一歩前に出た加恵奈がデータを照らし合わせる。
「確認した限りではこのデータは本物」
 ずっと沈黙を保っていた加恵奈の言葉に皆が目を合わせた。
「有象無象の雑魚だけど、厄介。半分が不良や暴走族。ほとんどが一般人の域を超えない軽犯罪者だから殺せない。その中に混じっているヤクザは殺せるから簡単だけど、その分少し手ごわい」
「第二塔がつぶれるなら適当にやりあせてればいいだろ」
 竜命の言葉に津崎雅龍は素直に答える。
「そうしたいのはやまやまだが、第二塔と既存の武器などビジネス的に取引している中だからな」
 三日月が言葉を付けくわえる。
「闇市という大きな裏社会の中で六某塔の更に第二位との有効関係は内部事情を知るためにも切らないほうがいいのです。第二塔より上となればゼティスですが、こちらからの交渉は不可能。目的も不明。それに第二塔である以上、他の塔への抑止力を考えればこれほどいい相手はいません。今まで築いてきた関係性を考えても、ここで第二塔を失うのは惜しいでしょう」
「そうだ。今回の戦いでは先にこちらが総力を使って、各拠点を制圧していく。そして、お前たちにはキサラギを殺してもらう」
「私がキサラギお兄ちゃんを連れてくるの?」
 かわいい声で問いかけてくる翠に津崎雅龍は首を横に振った。
「その必要はない。今回キサラギをおびき出すために使うのはカイド株式会社本社だ」
 皆が少し動揺する。それは第二塔も本気で迎え撃つつもりなのだと感じられたからだ。
「蓮、加恵奈、三日月、竜命にはここで戦ってもらう。かなり土地は広い、かつ当たりいったいも閉鎖しておく。何をしてもいい、絶対に勝て」
 蓮、加恵奈、三日月、竜命の四人は短く頷いた。
「翠は残ってもらう。ディアンがキサラギと手を組んでいる以上な、それに本部を殻にするわけにはい。決行は三日後だ。準備にかかれ!」
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