第49話 招待状

文字数 2,513文字

 あれから数日間、孝蔵と周磨が学校に来ない日が続いた。困ることは無いが不可解だった。
 いつもの放課後を部室で送っていると、窓ガラスを何か軽いもので叩く音が聞こえる。みんなが揃って見つめる先に映るものは折り紙でできた小鳥だった。紙の羽をバタバタと羽ばたかせ、しきりに窓をつつく。
「何だアレ」
 皆の気持ちを代弁してくれるようにカイトはつぶやく。
 一番近くの窓にいた夏希は、ロックを解除し窓を開いた。
 その小鳥は部屋の中に入ると、部室の真ん中にある机の上で動きを止め、いきなりバサッと落ちた。それから動く様子もない折り紙だが、何か分からない折り紙に恐れ、誰も近付こうとはしなかった。
 痺れを切らしたかのように青薔が近づき、折り紙を手のひらへと乗せる。
「すごーいよくできてるぅぅぅううう⁉」
 青薔の声と重なるように、紙の鳥は複雑に動き出し、一枚の紙へと戻った。その紙はゆっくりと青薔の手のひらにに舞い戻る。
「す、すごいね!」
 珍しく驚いてる様子の青薔に、うっすらと立ち込めていた緊張がほぐれる。それから、黙って広がった折り紙を見つめていた。
「何だったんだ?」
 青薔の隣に移動するカイトは、覗き込むように紙を見る。
 紙には短くこう書かれていた。

北室孝蔵だ。今夜十時に東京大神宮に来い。もし来なかったらどうなるか分かってるだろうな。

「なによ、なんて書いいてあるの?」
 夏希の言葉でふと我に返ったカイトは戸惑いながらその紙を青薔の手から取り皆に見えるように真ん中に置いた。
 青薔とカイトだけは、覗き込んで見る全員に配慮して紙から離れるように身を一歩引いた。
「何これ……誰に向けて?」
「ここにわざわざ送ってきたってことを考えると私たち全員ってことでしょうか……」
 夏希と紗香は顔を見合わせて行った。
「めんどくせえ奴らだなー」
「そうですよね」
 どこか他人行儀な藍の言葉に、深く同意するように駿は頷く。
「で……どうする」
 カイトは夏希を目を合わせながら言うと、二人して藍の方を見た。このメンバーのリーダーであったことを完全に忘れてしまっていた藍は一瞬戸惑った。
「絶対わなですよね」
 そんな藍を見つめながら駿は細くするように言う。
「ああ、そうだろーな」
 紙を見つめながら駿に返事を返す藍を、気付けば紗香と青薔までもが見つめていた。
「乗ってあげようか」
 藍はこの時、所詮は素人のたわごとだと高を括っていた。

六芒塔会議。
 闇市の中で選ばれた五人に、総塔からこの会議への招待状が送られる。どこにいたとしても、何をしていたとしても、何らの形で会議への招待状が送られる。
 六芒塔として認められるその招待状こそ、闇市の皆が抱く大きな目標となっていた。しかし、六芒塔に入れる基準を決めるのは全て、第一塔のゼティスによってきめられていた。
 六芒塔に選ばれたものを待ち受けるのはさらなる階級。誰もが上を目指すがその基準は不明で、尚且つ総塔がすべての権限を持ちその総統が第一塔である限り第一塔を降りることがあるのかどうかも不明。
 第四塔の座で招待されたアービスは、自室でパソコンからその会議に出席する。
3「遅いわね」
2「しかたないだろう、年なのだから」
5「四番じ、何してた」
4「ちょっとした準備をな」
6「騒がしい」
3「あらあら、第六塔のディアンちゃん」
6「魔女が」
3「あ?潰されたいの」
5「うるせぇ、ゼティスさっさと来いよ」
 第五塔の荒々しい言葉をまるで聞いていたかのように、六芒塔会議に総塔第一塔のゼティス入室した。
6「総塔様、お待ちしておりました」
1「それでは始める」
 ゼティスの加工された空疎な声が重々しく会議の中に響く。
 他の物は皆言葉を慎み、次のゼティスの言葉を待った。

 コズーフ一団と戦闘をしたあの日以来、小町七瀬はSTCO本部で暮らしていた。
 オペレーター室のパソコンとにらめっこし、雑務をこなす日々。その合間にフードの男の情報を探していた。
 命の恩人ではあるものの藍の命を狙う以上、敵として裁かなければならない。しかし、傭兵としても、闇市としても情報が見つからない。それどころか、名前すら何一つとして情報が見つかってはいない。
 そんなことがあり得るはずが二のだが、現に存在している。
「ゼティスみたい」
 自然と独り言を口にする七瀬に一つの連絡が届く。それは東京大神宮からかなり高濃度のパワポ反応の報告。
 ドローンを送りあたり映像をモニターに映す。
「なに、これ……」
 東京大神宮全体を覆うかのように上空三十メートル程に浮き出る光の模様。あまりに巨大で複雑な魔法陣に、一瞬魔法であることを忘れてしまいそうになる。
「こんな巨大な魔法陣……どうやって」
 そこで我に返った七瀬は急いで上層部に命令を仰ぐ。
 するとすぐに返事が返ってきた、如何やら上層部でも問題になっているようだ。
 それと同時に藍からも連絡が来ていることに驚いた。すぐにマイクを繋ぎ話を聞く。
「どうかした?」
「あ、ええ。東京大神宮の上空に巨大な魔法陣が」
「どうしてそれを?」
「どうしってて、今東京大神宮にいるからですよ」
 その言葉を聞き思い出したように報告してきている藍のGPSを確認する。たしかに、東京大神宮にいた。
「闇市につながりのある生徒のいざこざに巻き込まれている状態です」
「ありがとう……ってことは、テロではなく闇市側なのね」
「おそらくは」
「となるとあまり大きな部隊は動かせないわね……それにしてもこの規模からして六芒塔のどこかは間違いないわね。ところで、もし先頭になったらどうするつもり?井坂、壁を破られた以来まともに能力使えなくなってるじゃない」
「ええ、わかってます」
「何度も言ってるけど、能力を使えないのはあの男の能力ではないはずよ。貴方の精神の問題」
 唐突に切れた藍の連絡に七瀬は不安を隠せなかった。今までは仕事の関係としてすぐに終わると思っていたが、長く続いてしまったせいで情が芽生えてきてしまっていた。
 そして、もう一つ七瀬の長年の感覚から堂垣直樹が今回の件に深く関わっているのではないかと直感で感じていた。藍ががもうすでに東京大神宮にいる事を考えると余計にその思いが強くなる。
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