第14話 魔法と超能力です。

文字数 2,312文字

 今から数年前、加藤という学者がノーベル物理化学賞を受賞した。
 それは新たな粒子の発見だった。その粒子の名はパワーポイント、略してパワポと呼び、すべてのエネルギーの源であると仮定された。そして、人々は新たな粒子と共に新しい力を手に入れた。それが 魔法と超能力。ちらも、エネルギーの源は同じ。
 魔法は、パワポをコントロールし、それぞれの魔法陣と言う名の化学反応式に当てはめ発動させる。魔法陣が複雑なものになればなるほど発動までに時間がかかり、習得にも時間がかかる。魔法は習得すれば誰でも発動できるが、誰が発動しようが同じ魔法陣であれば威力が変わることはない。
 超能力は、生まれつき決まった反応を起こす魔法陣が体に備わっているものである。生れ付きなものであるため、決まった能力しか使えない。しかし、魔法とは違い発動までの時間が短く、威力も練習により向上する。
 現代社会の戦闘に置いて、基本的には超能力は魔法の上位互換であると考えられている。代わりに、武器や道具に魔法が組み込まれるようになってきている。そう言った道具を魔法機具や魔導機具などと呼ばれている。国や地域によって読み方は多少異なる。
 パワポの発見から裏社会は全国にものすごい広がりを見せ、俺のいる学校にも手が伸びるようになった。それから、その世界を六芒塔と言う組織が支配し、裏社会改め闇市と言われるようになった。俺はその闇市に飲み込まれる形となった。それは必然なのだと思われる。
 闇市に関わる僕の名前は赤崎駿。僕の目にはある力が宿っている。それは、普通の超能力とはでき方が違った。
 この目は…すべての元凶はあの男から始まった。

 ある日、成瀬は久しいぶりに実家へ帰省した。成瀬と書かれた看板のすぐ上にある郵便受けには、溢れんばかりにはがきや手紙、チラシなどが入れられていた。誰も住んでいない家に入ってから、成瀬はポスターに詰まっている紙を鷲掴みリビングのゴミ箱に捨てる。今捨てた箱の中に目に入る名前があった。その封筒をボミ箱からだしテーブルの上に置いた。一通り整理を終えた成瀬はリビングの上に置いておいた封筒に手を伸ばす。送り先には加藤純也と書かれている。数年前にノーベル物理化学賞を受賞したあの加藤からだった。純也とは小中高大を同じ学校で過ごした、親友のような仲だった。当時の思い出をほんのりと思い出しながら封を切った。手紙とメモリーカードが出てきた。成瀬は手紙を読み終えた後、パソコンを起動しメモリカードを読み込む。すると、成瀬が研究していた大量のパワポの資料が出てくる。懐かしい分野の資料に目が奪われ、吸い込まれるようにその資料にのめり込んだ。
 数時間かけ純也のくれた資料をすべて頭に叩き込んだ。成瀬は自分の大学時代の研究資料にも目を向ける。
以前は純也と同じように物理を学んでいたが、医学に興味を持ち始めた成瀬は物理を辞め医学の道を進んだ。パワポを発見した天才純也が認めていたもう一人の天才が成瀬だった。
 それから数日が立った。成瀬はあるアイデアが浮かんだ。それは人工的な超能力者を作ることだった。それから成瀬は自分の研究を始めた。闇医者として働いていた成瀬は、人体実験を繰り返した。成瀬にとって。人道的か、非人道的か、倫理的か、非倫理的か、などどうでも良かった。それからと言うもの人体実験を繰り返し失敗した。その数だけ死体が増えた。麻酔が切れても、体を固定し人体実験を続けた。痛みに耐えられず絶叫し絶命するものは多かったが少しずつ研究は進んでいった。
 そんなある日のこと、材料を調達するために川辺を歩いていた。成瀬はそこで一人の女性と出会った。成瀬はその女性を材料にしようと近づき話しかけた。その女性の言葉はとても優しく、まるで心を浄化してくれている様な存在だった。成瀬はいつの間にか人体実験のことなど忘れ、その女性に恋してしまっていた。
 その女性は赤崎日葵と言った。日葵の言葉はとても暖かかった。それは声や言葉ではなく一種の力のようなものを感じた。しかし、そんなことなど成瀬の中ではどうでも良くなっていた。日葵の言葉は途方もない成瀬の闇を包み込んでいた。

 それから五年後。
「ただいま」
 玄関の扉が開くと同時に少年は小さく通る声で挨拶をする。
「おかえりなさい」
 お母さんの優しい声が返ってきた。お父さんも家にいるけど返事が返ってくることはない。リビングまで歩いてからお母さんと目が合う。そこで僕は改めてお母さんに聞いた。
「お父さんは?」
「いつもの仕事部屋よ」
 僕はお母さんの言葉に流されるように薄暗い扉に目を向ける。部屋の中でも中央にあるその扉は両側が壁に挟まれていて、扉の前は薄暗い。また、成瀬には絶対入らないようにと言われているせいで、余計に無気味に感じる。家の中でも唯一行きたくない所だった。
昔の成瀬は外でお仕事をしていて、いつも朝に家を出て夕方に帰ってくる。そんな生活を送っていた。お母さんみたいにいつも笑顔で笑っていて、僕の遊び相手や勉強にも付き合ってくれていた。
 僕は天才だったらしく、なんとなくだけど物理学と医学を理解した。それも成瀬がわかりやすく熱心に教えてくれたおかげだった。それぐらいから成瀬は家の真ん中にある無気味な自室にこもるようになってしまった。以前のように遊びや勉強にも付き合ってくれず、ほとんど口も聞いてくれなくなってしまった。
 そう、誰も知らないあの時の成瀬に戻ってしまっていたのだ。この時はまだ誰も気が付くことはなかった。
 僕はさっさとリビングを後にして和室に移動した。そして、いつもの様にトランプで遊ぶ。
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