第31話 新たなる超能力者

文字数 2,024文字

 藍はひたすら必死にただ逃げるために走った。それが最善の選択だと考えたから。死から逃げるように全力で走っている藍は不思議とある会話を思い出した。今この現実から逃げるように、その思い出に浸った。
 STCO本部の会議室でいつもの三人で話していた時の事、その内容は自分がどのタイミングで超能力者であると気が付いたかのというものだった。いつもどこからともなく情報を仕入れてくる殿草先輩が教えてくれる。
「超能力は生得的だけど、そのほとんどの人が自分が超能力者であると気づけないらしいの。だからパワポを操作して自分が超能力者であると気づけた時点で才能はあるということ」
「まじか、俺才能あったのかよ」
 殿草先輩は石原先輩に微笑みながら続けた。
「みんな最初は全く使いこなせないのよ」
「と言う事はまだまだ強くなるってことですね。石原先輩を抜かすのも時間の問題なんですねー」
「おいおい!俺も強くなるからな?」
「そう、あの最強の超能力者トム・ユーイング・ルーズベルトでさえ最初はまともに超能力なんて使えなかったって言われてるのよ。二人とも、もっともっと強くなって私を越してね」
「いやいやいや、最後のは無理だろ」
「いや、ほんとですよね…。ところではじめて超能力を使った時から実践的に使いこなせるぐらいの力を発揮する人はいないんですか?」
「もしそんなことができる人がいるとしたら、それは正真正銘の天才ね」

 駿と紗香を助けるために俺はもう一度前を向き直った。走ろうと足を踏み出した時、背筋に骨を伝うような電撃が走る。そして、その後すぐに背筋を激痛が襲った。理由話分からない、ただすごく痛い……でも気にしてなんていられない、助けるんだ助けるんだ助けるんだ。……絶対に助けるんだ‼
 俺はその強い意志でもう一歩とまた前足を地面に踏みつける。それと同時に足の骨を伝うように電撃が走り、またすぐ後に激痛が走る。そして俺は意識が飛ぶような感覚に襲われ体が前に倒れていくのを感じていた。両手で着地しようと腕を前に出すがなかなか地面に手が触れない。俺はだんだんとはっきり見えてきた視界で状況を理解した。落ちてくる岩がゆっくり動き世界がゆっくり進んでいる。次に自分の体に意識を向けると、体がすごく軽くなり溢れんばかりのパワポが体をめぐっているのを感じた。俺は意識をはっきりと戻し地面と体が激突する直前で地面を蹴り走り出した。それ同時に世界は今まで通り動き出す。俺は一瞬で落ちてくる岩を判断しかわしながら物凄い速度で進んだ。遠くで駿が紗香をかばうように抱いている姿が見えた。その姿を見た瞬間俺はさらに加速し一瞬で駿のもとまでたどり着く。そして、上から落ちてきた五メートルにもなる大岩に向かってこぶしを突き出す。落ちて来ていた岩は空中で一瞬停止した後真ん中から砕け、押し返されるように空へと粉々に吹き飛んで行った。

「あん?」
 唐突な男のその言葉に藍の意識は現実へと引き戻された。そしてその時、男の攻撃がやんでいることに気が付いた。しかし、足を止めることはできない。あの言葉が明らかに自分に向かって言った言葉ではないことも分かった。だが考えても仕方がない、藍はただひたすらに走り続けた。それからと言うもの一切攻撃されることはなかった。いったい何があったのだろうか。考えても何も答えは出なかった、ただ生き延びることができてよかったと思い、考えるのはやめた。
 しばらくしても通信はいまだに回復せず、藍はひとまずバーベキュー場へ向かうことにした。何とかつくと、さっきの爆発音は何だとか、ネットにつながらないだとかで、混乱が起きていた。他のみんなはまだついていないのか探していると、青薔が手を振りながらやってきて状況を説明してくれる。カイト、駿、夏希、紗香は土砂崩れに巻き込まれて警察に保護された様だった。この混乱はやっぱりあの爆発だったみたい。少ししてから自衛隊や警察官そして、STCOがここへきて臨時バスで皆を非難させた。藍は笠間小町さんの車にのり事情徴収をされながらその場を後にした。せっかく生徒会が企画した最初の行事がぐちゃぐちゃになってしまったことへの同情や罪悪感のようなものを心のどこかに感じていたような気がした。

「やはり連絡は付かないか、この作戦は失敗という事か…」
 潜水艦の中、直樹は独り言を言う。その声は静かに船内に消えていった。少し前まであった確かなぬくもりは完全に冷え切ってしまっていた。
 その寂しさをかき消すように直樹は言葉を紡ぐ。
「二つ目の傭兵への依頼は完了している。残りは神降ろしだ……東京大神宮での交渉は済ませてあるからな、後は伊勢神宮か」
 直樹の目線の先に映る標的の一枚の顔写真。その顔をおもむろに見つめながら、伊勢神宮で取引した巻物を開き中身を確認する。
「ああ、完璧だ。……それでは、殴り込みに行くとするか」
 戦闘準備を整えた直樹は、確かな決意を胸に秘め、力強く踏み出した。
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