第30話 絶対に助ける‼

文字数 3,261文字

 森に戻っていく藍を見届けてから俺は藍のことを皆に伝え先に進むことにする。青薔が嫌がったけど藍の気持ちを尊重し連れてった。少しすると道路の山側の固められているコンクリートにもたれかかっている二人の男子生徒がいた。二人の男子生徒は俺たちに気が付くと道を塞ぐように移動しながら言う。
「ほんとに来たよ」
「冗談だと思ってたけどな」
 その二人は北室孝蔵と光信周磨だった。二人は笑いながら言う。
「なんで俺らがここにいると思う?わかんねーよな」
「あれ、おいあいつ」
 孝蔵の言葉を遮るように周磨が紗香を指さして言う。二人はまじまじと紗香を見てから、大笑いして言った。
「お前成瀬か?」
「あのボロ雑巾かよ!」
 俺は心配で紗香を見るが紗香は笑顔で大丈夫だと言った。しかし、紗香の手ははひどく震えていた。ひどく傷ついた心の傷はそんな簡単に癒えたりはしない。
「おい、黙れ!」
 そんな俺の言葉を無視して孝蔵と周磨は続ける。
「見た目が少し変わったところで中身は何にも変わらないんだぜ」
「おーい聞こえてますかー。また楽しいことする」
「相手にするだけ無駄です、紗香さん行きましょう」
 震えている紗香を駿が連れて行こうとする。しかしその道を塞ぎながら孝蔵と周磨は続ける。
「おいおい駿、そんな雑巾連れてどこ行くんだよ。ボロ雑巾の使い方知ってるか?」
「なあ、俺たち友達だろ?まさか、そいつのいつのこと好きなのかよ」
 笑いながら好き放題言われる駿と紗香を見ているととてもいたたまれない。二人とも気が強くないから余計見ていられなかった。
 俺は駿と紗香に近づきながら孝蔵と周磨に言った。
「おい、いい加減に…」
「好きだよ。僕は紗香さんのことが好きだ」
 孝蔵と周磨の瞳を強く見つめ言い返した駿の言葉に俺は思はず口を紡ぐ。駿は言い終えると紗香の腕を掴み俺に向かって一言言ってから走り出した。
「お願い」
 その短い言葉が俺に何倍もの力を与えてくれる。何よりも駿の強い意志が俺の心を高揚させた。
「あったりめーよ!」
 俺はそう駿に返す。
「何勝手に通ろうとしてんだよ!」
 しかし周磨がそういいながら、通ろうとする紗香に向かって容赦なく殴りかかる。俺はすかさず周磨の腕を掴み強引に押し返した。周磨は体勢を崩し後ろに下がり夏希はその隙に駿と紗香の方に回る。流石夏希だ、状況をよく理解してる。夏希のおかげで孝蔵と周磨を後ろと前から囲う様に立てた。
 孝蔵はなおも二人に聞こえる大きな声で言う。
「おい知ってるのかよボロ雑巾の秘密。汚たね―中身をよ!おい、ボロ雑巾、お仲間がやられたくないなら、知られたくないなら戻って来い!」
「ほんっとーにクズね!」
 夏希が思わず声を漏らす。戦いになった時感情を取り乱すことが隙を作ることになる。それは夏希も十分知っているだろうがそれでも耐えられない程胸糞が悪いのは同感だ。
 孝蔵の言葉を聞いた紗香は止まり震えながらもゆっくりと来た道を戻り始める。
「ああ、いい子だ!先輩の言う事はしっかり聞くもんだからな!」
 駿は紗香の手をもう一度強く握り紗香の隣に立って孝蔵と周磨に向かって言った。
「初めから全部知ってる…そのうえで僕は紗香さんが好きだ!」
 駿の言葉を聞いた紗香は勢いよく顔を上げて駿を見る。紗香は顔を赤くし涙目になっていた。そんな紗香に駿は優しく言う。
「行こ」
 紗香は黙って頷くと手をつなぎながら一緒に走っていった。
「くそが!この二人がどうなってもいいのかあ!」
 孝蔵はそう叫ぶが駿と紗香の足が止まることはなかった。ああ、なんてかっこいいんだよ、あんな所見せられた俺たちもまけてらんねーな!
 今までの怒りが嘘のように吹き飛ぶ自然と笑顔になっている自分がいた。
「俺たちの強さを認め、信頼してるってことだよ!」
 俺はそう言いながら周磨に攻撃を仕掛けた。慢心してはいけないが孝蔵と周磨は俺と夏希よりも弱い。
「くそ、近くに砂さえあれば」
 孝蔵が言葉を漏らす。すると周磨が孝蔵に叫びながら道路の隅に移動する。俺たちは駿と紗香の後を追わせないように道を塞ぎながら距離を詰める。すると、孝蔵と周磨はお互いに道路の隅の地面を見つめながら何か強く念じるように体に力を入れていた。バスの中で駿からパワポの説明を受けていた俺は咄嗟に超能力を使うのではないかと直感した。
 その直後、孝蔵が両腕を上げると道路の隅にあった砂が浮き上がる。
「おらぁ」
 周磨の声と同時に砂が俺たちの顔に向かって飛んできた。目は入ったらヤバイと感じ咄嗟に目をつむる。その隙を狙って孝蔵が俺に向かって殴りかかってきた。俺は攻撃されている気配を感じかすかに目を開くが、すでに目の前まで拳は迫ってきていた。男は的確に俺の顎を狙っている。流石にかわしきれない。そう思った時、すっと目の前に手が現れこぶしを受け止めた。それは夏希の手だった。夏希は砂を飛ばされている中、相手の行動を予想し目を開き攻撃をかばってくれる。しかし、夏希の目には砂が入り目を明けられず、ひどく痛がった。
孝蔵が少し息を切らしながらいう。
「はっ、ざまーねーな」
 周磨は呼吸を整えるためか何も言わなかった。
俺をかばい自分が負傷したら意味がない…けど、ありがとう。俺は夏希を後ろに引かせ容赦なくぶっ飛ばすことを決めた。俺は改めて駿の言っていたパワポの力を体の内側に意識を向けながら攻撃をした。すると不思議と体は軽く、動きが少し早くなっているような気がする。この感覚を俺は知っていた。昔空手の試合の時にたまに感じるゾーンに近いような感覚。思い通りに気持ちよく体が動く感覚だ。体に流れるパワポの力を意識することで最善の動きができるということを俺は感じながら、孝蔵と周磨を殴りけり体にダメージを与えた。二対一で一撃で倒せるほどの実力差は俺は持っていない。が、中々に孝蔵と周磨はしぶとかった。それはパワポの扱いが慣れているほど攻撃を受け流すことにたけるのかもしれない。俺のスタミナが先に尽きる可能性を感じ始めた時、爆発音に似た衝撃波と音が体を伝いみんなの動きが止まる。
「まさかこれか」
「かもな」
孝蔵と周磨はそう言うと駿や紗香とは逆方向へ走って逃げて行く。どういうことだ?逃げる理由とこの爆発が何か関係しているの?
俺はひとまず夏希の目を心配を先にすることにした。夏希は地面に座って片手にはペットボトルを持っている。俺は夏希に顔を近づけるために目の前でしゃがみ顔を近づけて聞く。
「目、大丈夫か?」
「ええ、さっきペットボトルの水で洗い流したから」
「ちょっと、ペットボトルどけて良く見せろ」
 俺の言葉に夏希は口を閉じながら「うん」と返事をする。俺は夏希の顔に両手を当てしっかりと確認しながら言った。
「少し目が赤くなってるが大丈夫そうだ……。夏希…本当にありがとう」
目を赤くさせ頬も少し赤くなっている。身長の差もあるが地面に座っている夏希としゃがんでいる俺とでは顔の高さ違った。夏希なぜか何もしゃべらず黙ったまま上目遣いで俺を見つめている。その姿に愛おしく可愛らしく感じた俺は自然と夏希の頭に手を乗せ優しくなでていた。
 その時だった。続けて何度も、更にさっきよりも明らかに近くの、いや隣の崖上から連続して爆発音と衝撃が伝わる。それと連動するように崖上が崩れ、大小さまざま岩が道路に落ちていくのが見える。幸い俺たちの少し先から道に進むようにして岩が崩れ落ちていているだけなので日が言わない。
 しかし、夏希がひきつった顔で言葉を漏らした。
「紗香と駿が…」
 俺はとても重要なことを忘れていた。もしこのまま道に沿うように崖が崩れて行ったら、その先にいる駿や紗香がまきもまれる。助けないと、早く助けないと。
俺は必死に走り出した、しかし爆発音に連動するように崩れる岩は人の足では到底追いつけない程の速度で崩れていき、爆発音はあっというまに遠のいていく。少し離れた所から夏希が言う。
「むりだよ、間に合わない。助からないよ…」
 俺は怒りにも似た表情で夏希を見ていった。
「絶対に助ける‼」
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