第36話 強力な傭兵部隊

文字数 2,297文字

 三人が同時に殿草先輩へ飛び掛かる。先ほどと同じように地面に振動を流し動きを止めようとするが、ほぼ同じタイミングで大きく地面から足を離した。予知での命令しか考えられない。超能力のために込めた力をそのまま地面を蹴り上げる力へと変換する。先にコズーフを殺さないとやっかいなことに……。
 閃光の如く突進する殿草先輩に傭兵の三人は触れることすら出来なかった。
「くそっ」
 三人の傭兵のうちの一人が吐き捨ては言葉は一瞬で遠のく。
「はああっ!」
 力を込めて打ち放つ右腕に、短い咆哮がもれでる。うねりを上げた殿草先輩の右腕は吸い込まれるようにコズーフへと飛んで行く。
 しかし、その攻撃が当たることは無かった。
 予知されていた殿草先輩の攻撃は、もう一人の傭兵に受けて止められた。両手で拳を受け止めた傭兵だが、圧倒的な力の前になすすべなく、まるで小石のように体を浮かせ飛ばされる。
 殿草先輩は地面に足を付けるのと同時に振動を伝える。
 しかし、それもまた読んでいるコズーフの足は地面にはついていなかった。かわりに殿草先輩の顎へ向かって、その足が打ちあげられる。
 ギリギリ左腕ではじき返すが、コズーフの攻撃がここで終わることは無かった。
 フェイント⁉
 そう気が付いった時には遅かった。体を捻り、うねりを上げて飛び出す蹴りは殿草先輩の横顔に飛んで行く。肘を曲げ右腕で何とか受け止めるが勢いを相殺することはできない。溢れんばかりに込められた力が、殿草先輩の体を押し返した。
 飛ばされた体を綺麗に地面へと着地支えるが力を逃がすために、五メートル程地面を滑った。ただここで止まるわけにはいかない、体力勝負となっては些か不利になる。ましてや、相手に考える時間を与えるなど愚の骨頂。
 まるで水流が如く流れるように腰を落とし、十メートルほど先にいるコズーフを狙う――その時だ。
 テレポ―トしたかのように目の前に現れたコズーフは、とても巨大で悪魔のような姿へと変わっていた。
 それは一瞬の事だった。すぐに元通りの視界へと戻る。これは、幻惑。最強の幻術使いにしごかれた経験があった殿草先輩は」すぐに振り払うことができた。
「クソ、パワポの壁が厚すぎて数秒しか幻惑が気かねー」
 一人の傭兵が殿草先輩の判断があっていたことを告げる。
「それで十分だ‼」
 その通りだ。一瞬の硬直が戦場では生死を分ける。
 殿草先輩の前に幻惑を見る前までにはなかった、丸いガラスで包まれた三センチほどの筒が空中を飛んでいた。どこかからか投げ込まれたその小さな筒が、爆弾であるということを疑う余地などなかった。
 第五世代の近代魔導兵器、魔導爆弾ⅭR―86。
 筒の中にある液体が赤く染まると中心から気泡がぶくぶくと浮き上がる。流石にこの至近距離で当たるのはまずい。そう体が勝手に動き前へ踏み込もうとしていた、体を無理やり横へ倒す。
「撃て!」
 鋭く発せられた一言。
 その言葉を聞いたもう一人の傭兵が銃を構え、素早く打ち込んだ。
 十メートル以上離れた場所から空中に浮いている大きさ三センチほどの筒に当てるなど至難な技。しっかり狙いを定める躊躇など当て得られてはいなかった。
 その刹那を殿草先輩は見逃さなかった。地面を強く蹴り上げ、その場から回避しながら振動で相手の狙いを逸らす――――⁉
 その思いは裏切られた。
 構えるやいなやすぐ撃ち込まれた弾は、まるで吸い込まれるように魔導爆弾ⅭR―86と飛んで行く。
 筒を打ち抜き。殿塞先輩のすぐ近くで爆発した。
 対比することはおろか、受け身を取ることすら出来ない。爆風で吹き飛ばされた殿草先輩は背中から地面逃げ刺突し、体を数メートル引きずった。
 しかし、止まっている暇などなかった。続けざまに発砲された弾丸が降り注ぐ。振動を発動しているにもかかわらず、その弾の軌道は限りなく殿草先輩へと飛んでいた。的確な身のこなしで殿草先輩は回避する。そんな、芸当を見せられても驚くものなど誰もいなかった。
 的確に相手を追い詰め、殺す――相手に勝利する。その覚悟と集中力が傭兵たちの絆を現している様でもあった。
 殿草先輩があの時殴り飛ばした方向から、見覚えのあるガラスの筒、魔導爆弾ⅭR―86が放り投げられたかのように飛んでくる。そこまで早くない投的攻撃を、殿草先輩はを軽い身のこなしで回避し、すぐ後ろに広がる森の中に姿を隠すように溶け込んだ。
森に最も近い敵は――あの、銃を使っていた男。殿草先輩は気配を殺し一瞬で回り込む。
 しかし、仲間の傭兵がそれを阻害する。
「後ろです」
「っ……」
 ギリギリの所で殿草先輩の攻撃は回避されていた。もし当たっていたら、充分即死していただろう。
 銃使いの男は、殿草先輩から逃げるように大きく離れる。もちろん、そんなことを許すはずがなかった。しかし、その足は踏みとどまり銃使いの男を追うことは無かった。銃使いの男は振り返りざまに一だけ発砲すると空中を浮いていた魔導爆弾ⅭR―86にあたり、殿草先輩の前で爆発する。
 飛んできていた魔導爆弾ⅭR―86に気が付いていた為に、殿草先輩は足を踏み込まなかった。
 森から、先ほど殴る飛ばしかなりの重傷を負った者とコズーフの二人が歩いてやってくる。
 コズーフ含む傭兵たち五人と殿草先輩は、今一度立ち並ぶ形となった。最初の立ち並びの時とは大きく違う。それは相手の覚悟。
 唐突に、イヤホンから七瀬の報告が入った。その内容に引きつった笑みを隠せない。
 殿草先輩の相手をしている傭兵たち全員が超能力者であり、それぞれ、《未来予知》《空間把握》《精密射撃》《万有引力》《幻惑虚像》を有していた。
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