第55話 立ち入り禁止区域

文字数 2,227文字

 駿は次の日さっそく、西条さんのクラスの会長に声をかけた。彼女の名前は石橋りっか、とても正義感の強く優しい女子生徒。
「初めまして?」
「はい、僕は隣のクラスの赤崎駿です」
「はじめまして、私は石橋りっかです。ところでどうしたんですか?」
「西条さんわかりますか?」
「ええ、もちろん。とてもやさしい子」
「何か普段と違ってるなって感じることありませんか?」
「そんなに普段見てないからわからないけど、特に何も感じないけど……どうしてそれを?」
「西条さんの最近の様子が明らかにおかしいからです、それにこの教室の雰囲気も」
 どこか心当たりがあるのだろうか、急に真剣な眼差しになった石橋さんが小さな声で囁いた。
「ええ、実は私もそれを……。少し場所を変えませんか?」
 体育館倉庫裏に着いた駿と石橋さんは協力関係を結び情報交換し現状を整理した。その際に、西条さんと孝蔵と周磨殿事件も簡単に説明する。
 石橋さんに協力を仰いでよかった、同じクラスメートの方が状況を理解しやすく、正義感も強いお陰で行動に迷いがなくスムーズに話が進む。
 それから夏休みまでの短い間にお互い情報を集め、話し合いにより今回の相手が誰かがだいたい把握できた。
 今回の相手は先輩の女子二人、目つきの鋭い吉村芽瑠と気の弱そうな中山コノハ。孝蔵と周磨にお盆をぶつけてしまった生徒と同じクラスで、そのクラスの上位カースト。完全にそのクラスでは彼女たちの独壇場になっている。そして、そのクラスには生徒会会計のメガネをかけた地味な女性は高里リンがいる。明らかに二人の標的にされそうな雰囲気のある高里先輩だが、生徒会長や副生徒会長が高里先輩の教室によく訪れていた。恐らく、生徒会と芽瑠とコノハの間には暗黙の了解があると思われる。
 要するに高里先輩が人質のような存在となっており、生徒会はそう簡単に二人に手出しできない。
 また、石橋さんが持ってきた女子の間の噂によると、去年芽瑠とコノハと揉めた相手クラスが学級崩壊を起こしたという噂もあるという。
 西条さんの事は同じクラスで女子である石原さんにかなり任せていたがおかげさまで夏休みに入る前にここまでの情報を集めることができた。

「ねえ、あの子らどうする?私たちの事嗅ぎまわってるみたいだけど、めんどくさいし消す?」
 窓から駿と石橋さんの話し合っている姿を見つめている芽瑠はコノハに聞いた。対するコノハは本を読んだまま興味なさそうに、空疎な声を漏らす。
「それだとつまらない」
「ならどーするのよ」
「あの駿って男の子、孝蔵と周磨を倒してた」
「あーあの子が。やるわね、ならさっさと消したほうがいいんじゃない?」
「頭いいけど、少し私たちに似てる……気がする」
「こっち側になる素質があるってことね、で、もう一人の女はどうするの」
「いらない」
「私たちの邪魔をしようとしているわけだしね、今の間にこっちから」
「私に……任せて」
 表情のないコノハが本を閉じ芽瑠の目を見て目ながらか細い声で言った。

「準備できた?」
「うん、できましたよー」
「俺はバッチしだぜ」
 待ち合わせの公園で荷物を持っている夏希と紗香とカイトは、持ち物確認をしながらたわいのない会話を楽しんでいた。
 そこに遠くから駿と青薔が二人並んでゆっくりと歩いてくる。
 元気に八茶けている青薔とは違い凄く冷静な駿、熱量の差がすごい。
「よっ、そろそろだと思うぜ」
「青薔朝っぱらからほんと元気ね」「燃え尽きないでくださいよー」
 カイトは駿に、夏希と紗香は青薔に声をかけ、それぞれ無言の頷きと盛大な刃具が返事として帰ってくる。
「うん!」
「うわ!」
 青薔に飛びつかれた夏希は情けない声を上げながら尻餅をつき、そんないつも通りの光景を紗香は優しく見つめながら微笑んだ。
「いらない心配でしたねー」
 その光景にカイトは笑い声を漏らし駿は無意識に頬を緩めた。
プッ‼
 突然ならされた車のクラクションの音に反応すると黒のミニバンから藍が降りて来た。皆が車の方へ向かうと、藍は車の後ろに向かいクランクを開けた。
 藍に荷物を渡し、皆は車に乗り込む。運転席の女性は小町七瀬というらしく、自治団体に所属していると言っていた。藍とはどういう経由で知り合ったかははぐらかされてしまった。協力させていただいてる側が変な詮索も良くないと思いそれ以上は踏み込まなかった。
七瀬さんに睨まれている藍の姿を見て聞くのを辞めた。
「何か流す?最近の若い子たちは何聞くのか気になるの」
 七瀬さんの言葉に同時に目を合わせた皆は声をそろえて言った。
「「「キセキ!」」」
 長い間車に揺られながら付いたその場所には、昔ながらの立派な日本家屋あった。
「あ、お爺ちゃんにお婆ちゃん」
 そう声を上げながら車から降りて駆けて行く夏希の先には、二人の老夫婦が佇んでいる。夏希に負けない程のとびっきりな笑顔が夫婦からこぼれ、こっちまで自然と笑顔になれた。
 部屋に案内してくれる夏希の後にみんなはぞろぞろと続き、荷物を整理の整理後、少しの休憩をはさみまた夏希の実家を出た。
 近付けば近づくにつれ、荒れ果てた廃墟の街が姿を現す。福島県都市をすっぽり覆っている金網フェンスがうっすらと目え始めた。
 高さ三メートルほどの簡易的な金網フェンスだったが、改めて近くで見るとどこまでも永遠に続くのではないかと思えるほど、左右に伸びている策に圧巻される。
「この先が立ち入り禁止区域」
 青薔の言葉にみんなは改めて唾を飲んだ。
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