第57話 告白

文字数 2,311文字

 夏希の祖父母の家にかえってきた俺たちを出迎えていたのはBBQセットだった。
 家の前に広がる大きな駐車場には大きな鉄板と金網が用意され、たくさんのお肉と野菜を祖父母が二人で持って来ているところだった。
 祖父母に駆け寄る夏希は手を差し伸べながら小さな声で言う。
「あ、いいのにー私だしとくから休んでていいよ」
 そのうしろ姿と用意されているセットを見て小さく笑った。
「またバーベキューなんですね」
 無理やりに肩を組むカイトは駿の乾いた声に覆いかぶせる。
「いいじゃねーか。この暑い夏休みの夜に食べるバーベキューこそ至高だろ」
「まだ夜になってませんけど、僕じゃなくて藍くんと肩組んでくださいよ」
「いや、熱いのと冷たいのでちょうどいいって」
 紗香は戯れていた男子三人組に注目して貰うため手を一叩きしてから優しく声をかける。まるで子供たちをまとめる親のように。
「はいはーい、カイトくんと藍くんは椅子の用意てづだってー」
「お、おう……」「は、はい……」
「青薔ちゃんは私と一緒に料理のお手伝いに行きましょー……駿くんは皆の荷物は混んどいて貰えますか?」
「大丈夫ですよ」
 おばあさんに教わりながら台所で夕ご飯の準備をする紗香と青薔。その料理をつまみ食いにきた夏希を紗香が注意しようとするが、目の前で同じように青薔もつまみ食いをした。
 カイトと藍がそれぞれどちらが先に火を起こせるか勝負をし思いっきり煙を吸い込んだカイトがむせている間にさっさと藍がつけてしまった。なかなか火を付けれないカイトにかわり駿が魔法を使い手伝った。
 あっという間に今日という一日が過ぎ日は暮れ始めた。夕食の準備を終えた皆は、大きな声で合掌し綺麗な夕日を見つめながらご飯を食べ始めた。
 ご飯を食べ終わったのを見計らって夏希の祖父母がたくさんの手持ち花時を持って来てくれた。
 夏希は受け取り持って来る。
さっそく皆で袋を受け取り開封して種類ごとに分けていくといっても線香花火とそうでない花時を分けるだけ。
みんなそれぞれ花火を持ってから日がないことに気が付くと、駿が魔法で小さな炎を地べたに出してくれた。
「ほんと、魔法って便利ね」
 夏希の言葉にみんなが深く同意しながら、それぞれ花火に火をつけ始めた。
 カイトと夏希がなんだかんだ中よさそうにふざけ合い、カイトのせいで藍が巻き込まれる。元気な三人の戯れに、自ら飛び込んでいく青薔。
 その様子を穏やかに見つめるのはいつだって紗香と駿だった。
 最後は皆で定番の線香花火。最後まで生き残ったのは魔法という荒業を使った駿だった。
「魔法便利だな」
 カイトの言葉にやはりみんなが大きく頷く。
 楽しい時間はあっという間に時間が過ぎていき皆で始めた後片付けもすぐに終わった。お風呂を済ませた後、大部屋で六人分の布団を敷きみんなで枕投げをしてから就寝した。
 皆が寝てからひとりでに部屋を出て屋根に上った藍は、夜空に広がる綺麗な星を見つめながら、似つかないため息を漏らした。
 こんなにも夜が綺麗なのは町がほぼ全壊したからだろう。以前の俺なら星を見ても何も感じなかっただろうとふとそう思った。この街にも俺たちの班と同じようにたわいなない平凡な生活を笑って暮らしていた者たちがいたのだろうと、自分でも似つかないことを考えてしまう。
 星に手を伸ばしながら見えない壁を作ろうとするがやはりうまく生成できない。
「寝れないの?」
 優しく声をかけてきたのは青薔だった。真夜中だから周りを気遣ったのか俺自身の意識が呆けていたのか、声を掛けられるまで全く気付けなかった。
「ああ、そんなかんじ」
「そっか」
 そう言いながら体をくっつけて座ってくる青薔に少しドキッとしてしまう。初めての感情に戸惑いつつも、わざわざ離れる理由がなかった藍はそのままその場に居座った。
「綺麗だね」
「ああ」
「色んな感情に振り回されてるって感じでしょ」
 小悪魔の様に顔の近くで笑っていう青薔は夜空を見つめながら言った。
「感情って自分のものだけど自分勝手に動き回るから一番厄介なの。でも……その分、綺麗なんだって。ブレない何かは、誰かから貰ったものだっていいの。自分自身で作るんじゃなくて、自分の中で持ち続けられるもの」
 こんなことを言うようなキャラだと思っていなかった藍は驚いたように青薔を見つめると、わかっていたかのようにこちらの顔を見て舌を出して笑った。
「よくわかんなくなっちゃった」
「大切なものを守りたいものがあれば何だってできるって的なことがいいたいんだろ」
「そ、そんなかん……じ?」
「いや、こっちに聞かれても分かんないよ」
「あ、私渡したいものがあったんだ」
 そう言ってどこからか取り出してきたのは綺麗な赤い宝石のネックレスだった。三センチ近い大きさの石は見た目とは裏腹にかなりの重量感がある。恐らく本物の宝石なのだろうが、藍はこういうものに疎く何かは分からなかった。
「何でこれを」
「なんでって……」
 珍しく戸惑った様子の青薔だったが、少しの静寂後藍の瞳をしっかりと見つめ、夜中でもわかるほど頬を真っ赤に染め恥ずかしそうに言った。
「藍の事が……好きだから」
 思いもよらない言葉に何を言われたか分からなかったが、その言葉の意味を徐々に理解し始めた。またそれに比例するように赤面していく自分の顔を感じる。
 青薔の言った言葉、青薔の気持ち、なによりも自分自身に一番驚いた。
俺は青薔が好き?自分にしかわからないはずのその疑問を何度も思い起こした。
「じゃあ、私先に寝るね」
 そう言うと、さっさと藍の前から消えてしまう。
 隣からいなくなった青薔の事をなおも考え続け、気づけば彼女の事ばかり考えていた。
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