第59話 告白

文字数 3,068文字

「藍‼」
  青薔の震えた声に目を開くと涙を流し祈るように藍を見つめている姿が映る。
 『ブレない何かは、誰かから貰ったものだっていいの。自分自身で作るんじゃなくて、自分の中で持ち続けられるもの』そんな彼女の言葉をなぜか思い出す。
 後悔……なんてたいそうな物はないだろうけど、ただ一つ青薔には死んで欲しくないなぁ……。
 そう思っていると無謀にも助けに来ようとするカイトが少年に横腹を切られている光景がかすかに見えた。
 『怖くて逃げだしたっていい。でも、誰かを守りたい、助けたいという気持ちは持ちなさい。その気持ちが自分を何倍にも強くしてくれる』って、カイトの言葉だっけ……。
 自分らしくない考えを抱いていることに、首を絞められ苦しいのにもかかわらず、笑いがこみ上げ頬が上がってしまう。
 カイトみたいに何でもかんでも守りたいって気持ちは抱けないし、危険度外視で馬鹿みたいには動けない。でも、今気が付いた。俺の中でただ譲れない何か……。
 それは、青薔が好きな事、青薔を誰よりも守りたいと思っていることだ!
 服の中にあるネックレスの赤い石を服ごと掴み大きく目を見開きながら咆哮を上げる。今まで三つまでしか作れなかった見えない壁を自分の体を囲うように六面創り出す。伸びていた光の靄は消え解放され首元を摩る。
 大きく息を吸い込んでから右手に見えない棒を作り出し謎の男に向かって飛び出した。
「バアルペオルウ‼」
「うぉぉぉおお‼」
 フードの中からまたも聞こえる言葉と憎悪に咆哮を迸りながら飛び込む。
 光の霧で感知しているのか見えない壁で作ったものをすぐに感知把握し狂乱しているものの確に対処してくる。恐らく戦闘経験や修羅場をくぐって来た回数は藍よりも明らかにうえ、実力もそう。
 だが、ひかない、引けるはずもない!
 創り出した槍は男の攻撃を防ぐように使えば一回で壊れてしまったが、突くように使えば五回は絶えれた。
 何度も打ち合い壊れ作り直すたびに長さは短くなり、自分の中で使いやすい長さを把握し始めた。そもそも、この時代にナイフではなく、刀や剣のような小回りの利かない武器を使うものはほぼいない。なぜなら戦闘では不向きだからだ。しかし、この男は完全に長物を使いこなしていた。さらに慣れない武器相手に大きく苦戦を強いられていた。だが、藍も長物の武器と戦うのはこれで二回目だ、それに武器の扱いにも慣れ、戦い方にもなれ、そして武器の扱いやすい形も分かり始めた。
 謎の男との戦いは藍の不利から均衡し始める。
 刺された横腹を抑えているカイトは、本物の殺意と殺意のぶつかりあい、命のやり取りに痛みも忘れ息をのんだ。藍から感じていた強さの秘密を改めて思い知らされる。間違いなく藍は殺し合いの中で生きて来た人間だと理解せざるを得ない。
 しかし、変化しているのは藍だけではなかった。
 鞭のようにしなる霧が見えない剣に当たりそのまま藍の体を襲う。勢いとは裏腹にその打撃は藍の体を簡単に吹き飛ばす。地面を滑り停止する藍はもうすでに限界を迎えようとしていた。
 そこで追撃することなく急に動きを止めた男は少年に命令を下す。
「くそ、ここまでだ引くぞ」
 その言葉を最後にバラバラな方向へ駆けて行く。あっという間に姿を消すと入れ替わるように大きな車が三台も到着し中から次々へと同じような服装の大人の人が出てきた。
 中には見覚えのある七瀬さんの姿があり皆の顔に安心が戻る。それと同時に藍がただ物ではなく、それも政府関係者であると察することができた。
 藍は保護され治療を受ける皆を見届け、小町さんと同じ車に乗る。
「荷物も全部こちらで回収しておいたわ」
「ありがとうございます」
「ごめんなさい、遅れて。例のフードの男に襲われたのね。把握しきれなかったわ」
「いいえ、大丈夫です」
「今回私たちの存在も知られ、敵の存在やクラスメートの死を目の前で見てしまったから、記憶の改ざんをさせて貰うけど、いいわよね。ついでに、この震災の真実を知らせないでおくためにも、彼らの安全のためにも知らない方がいいことはあるから」
「はい、問題な記憶はなるべく残してあげてください。お願いします」
「あら、なんか変わった?超能力も戻ったみたいだし、なんか吹っ切れたみたいね。分かったわ伝えて置く」
「ええ、たぶんそんな感じです」
 車の外をぼーっと見つめながら藍は答えた。
 
 病院に着くとカイトは直ぐに集中治療室に連れていかれ、他のみんなは手術室に連れていかれた。魔法で眠らされたみんながタンカーで運ばれ、超能力者が頭に手を当て能力を発動させる。ガラス越しからその光景を藍は見つめる。どうしても自然と青薔の方に注目が言ってしまう自分がいた。
 一人ずつ順番に進み駿が最後だった。駿の記憶を改ざんしている超能力者がボソッと言った『この子、一度記憶を消された跡がある』
 皆の目を覚めてから一緒に手術を終えたカイトの元に向かった。
 おなかに包帯を巻かれ点滴をしているカイトだがいつも通り元気に声をかけてくる。
「よ!」
「もー私たちを車から守るために飛び出すなんて」
「夏希ちゃん落ち着いて、一応手術を割ったばかりなんですから」
「でも、ほんとうにたすかったよ~。ありがとう」
「ええ、ありがとうカイト。それにしても、あんたしょっちゅうこんな感じね」
 それからは楽しかった思い出を話した。
「青薔、ちょっといいかな」
 きりがいい所で藍は少し赤くしながら緊張を含む声で青葉を呼び出す。
「うん、いいよ!」
 部屋を出て置く二人の背中を夏希はいやらしい目で見つめる。
「ははーん、あれは告白ね。さっ着いて行きましょ」
「え、でもー」
「体を出さなければいいんです」
 そう言って後をついて行く三人に一人残されたカイトが声をかける。
「おい、俺は?」

 人気のない場所で青薔と向き合う藍は珍しく顔を真っ赤にしていた。
「顔御赤くした藍初めて見たかも知んねーな」
 右手に点滴スタンドを持ちみんなと同じように藍と青薔を覗き込むカイトが小さな声を漏らす。その言葉でカイトが来たことに気が付く駿が声をかけた。
「これたんですね」
「しー!」
 何を言っているか聞こえないという意思を伝えるために夏希がジェスチャーで静かにするように伝える。紗香はそんな夏希の大きな息にナチュラルに突っ込んだ。
「夏希ちゃんも大きいですよ!」

「あのさ」
 藍は服の中に入れていた赤い石のネックレスを皆に見えるように内側に出しながら言った。そんなカイトの様子を気にする様子もなく、いつも通り元気よく返事をする青薔。
「うん!」
「あの夜の言葉を聞いて、この気持ちが恋だってはっきりわかった。…………付き合ってくれないか?」
 その言葉にわかりやすく顔を真っ赤にする青薔。
「……はい」
 顔を隠すように藍の体にうずくめる青薔は耳まで真っ赤に染めていた。藍はそっと青薔の体を抱きしめる。
「藍おーまーえー‼」「やったわね!」「お似合いです!」「おめでとうございます」
 いきなり飛び出してきたカイト、夏希、紗香、駿がそれぞれバラバラの言葉を添えながら祝福してくれる。
 それでも伝えたいことがあった藍は思わず突っ込んだ。
「何のぞいてんだよ」
 カイトは一切気にする様子もなく藍の頭をわしわししながら笑って答える。
「いいじゃねーか、いいじゃねーか」
 皆の笑顔、駿もどこか笑顔になっていなくもないような表情にとても大切な仲間たちに出合えたんだ、と藍はこの時はじめてはっきりと実感した。
 そして、藍はみんなとおなじように満面の笑みで笑った。
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