第12話 反抗です。

文字数 1,915文字

 僕がトイレを終えた後、海未はいつも以上に僕にくっついてくるようになった。そこに合流する颯太とまさと。さっきよりも僕と距離を縮めている海未の態度に驚いてるみたい。僕も同じ。
 海未は僕の腕に抱きつくと、颯太とまさとを見ながら言った。
「私たち二人だけの秘密できちゃったもんねー」
 そう言い終わると僕の方を見て笑う。
「え~なんだよ~教えろよ~」
 僕も少しだけ興味があって海未の言葉を待つが、うへへへっと笑うだけで何も言わない。
 海未は思い出したように口を開いた。
「あ!そういえば明日この町恒例の行事のお祭りがあるの!一緒にまわろー!」
 海未は僕の腕から離れると、颯太とまさと同じように僕に前に立って言った。
「祭りはね、年に一度しかない、今までと比べ物にならないくらい、とっても楽しい遊びだよ」
 颯太も海未に続いて言う。
「めっちゃくちゃ楽しいからな」
「期待していいから」
 まさともそう言った。別に皆を信じていない訳ではないが、まさとが言うと本当なんだなと思えた。
 空を見るとオレンジ色に染まっていた。今日はこれでお別れみたい。突然、海未は僕の小指に小指をかける。何をしているんだろう。僕はただその指を見つめた。
「明日、この時間にこの公園に来て。絶対に来てね。私との約束、指切った」
 海未はそう言って小指を離した。指切った?僕は自分の小指を見つめると、海未が続けて説明してくれる。
「誓?みたいなものだよ」
「じゃあ、また明日なー」
「じゃあね」
 颯太とまさとは僕に手を振り公園の外へ歩きはじめる。
「また」
 僕も二人に短く返事を返した。
「完全に負けてるね」
 颯太に対してまさとが言った。
「別に競ってねーし」
「そうかな~」
 笑って言うまさとは颯太から逃げる。颯太は逃げるまさとを追いかけた。海未も遅れて二人の背中を追いかけながら大きな声で聞く。
「ねー何の話~」
「海未には関係ねーよ」
 追いかけている颯太は海未の方を向いて大きな答える。すると、まさとは笑いながら大きな声で言う。
「えっとね~」
「おい!まさと」
 三人はあっという間に僕の視界から消え、声も聞こえなくなった。
 僕は潜水艦に戻ると、いつもの様に今日の話をお父さんにした。でも、その日のお父さんは何か考え事をしている様で何も返事をしてはくれなかった。いつもの「そうか」という返事もなかった。

 次の日、いつもより遅く潜水艦から出ようとする。
 しかし、ボートがある部屋はロックされていた。僕はお父さんの部屋に行く。部屋の前に着いた僕はドアの窓越しからお父さんを見る。お父さんは空中に浮いている複数のパネルを操作しているけど、僕には何をしているかさっぱりわからなかった。ドアをノックすると、お父さんが振り返り僕を見る。そして、部屋の扉を開けてくれた。
「どうした…」
「ボートの部屋がロックされてたから、開けてもらおうと思って」
 お父さんは僕に背を向けると、またパネルを開きながら答えた。
「だめだ」
 想定もしていなかったお父さんの言葉、驚きを隠せなかった。お父さんの命令は絶対で、異論を唱えることなど僕の中ではありえなかった。正しいか、間違っているか、なんて関係なく、お父さんの命令に背く考えなど抱いたこともなかった。でも、僕は納得できなかった。自分でもこんな感情を抱いてることに混乱していた。ただ間違いなく言えるのは、今の僕は冷静になれない。思ったことを飲み込まず、そのまま口に出した。
「なんで?」
「駄目だ、これは命令だ」
 お父さんの『命令』という言葉が胸に突き刺さり、動けなくなってしまう。時が止まったように思考が固まってしまう。しかし、チクチクしたモヤモヤが胸から消えることはなかった。そのモヤモヤが胸からあふれ出し、止まっていた僕を感情のまま動かした。
「納得できない!」
 お父さんは作業を止め驚いたように僕を見た。でも一向に口を開こうとしない。理由を口にしない。
 僕はまたお父さんい怒鳴る。
「ねえ!なんで!お父さんは知ってるよね!約束したの!いかないといけないの……」
 お父さんの命令は絶対だ。ここまで僕を育ててくれた。我がままなんてほとんど言ったつもりはない。感謝してる、僕のためだって分かってる。なんで僕は反抗してるの。なんで僕はこんなに皆の元に行きたいの。なんで二つの感情が同時にわくの。なんで僕はこんなに我がままなの。
 僕の感情はぐちゃぐちゃになっていた。怒鳴っていた僕の声はなぜか震え、涙が視界をぼやけさせていた。
「……行きたいの…行かせて…お願い…」
「無理だ」
 僕はその言葉を聞いてお父さんの部屋を飛び出した。自分の部屋に駆け込んだ僕は、布団に入って僕は大きな声を上げて泣き続けた。
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