第51話 天照戦

文字数 2,385文字

 あまりにも眩しい光に瞼を閉じるが、強烈な閃光が瞼の裏から襲ってくる。目を覆うように手を置きなるべく光を遮った。
 すぐ隣から皆のうめき声が聞こえる。
「なに……これ」
 夏希の声と同時に、激しい風と轟音が体を襲う。なんとかその場に耐え忍ぶと、やがて風も音も光もどこ変え消えた。
 恐る恐る開いた視界の先に映るものは、思いもよらないものだった。
 立っている孝蔵と地面に寝ているように倒れ、一切動くようすのない周磨。カイトの目には死んでいるようにも見えるが、その思考を体全身が拒絶していた。
 隣に立っている孝蔵もまた異様だった。
 真っ黒な目は、まるでくり抜かれてしまったかのように赤い血の涙を流し固まっている。
 現状を掴めず同じように硬直してしまっていた六人だったが、その中で真っ先に動こうとしたのはカイトだった。
「おい……大丈夫か?」
 逡巡した声に反応したのは、孝蔵だけだった。
 やはり死んでしまっているのか、そんな嫌な考えをカイトは抱いてしまうが亡霊のような不安定な足取りで、ゆっくりと迫ってくる孝蔵に意識を持っていかれる。
「あ……う……。倒す、この力で、倒ス。……タ、オス……コノチカラデ、コロス。チカラ、手に入れた。コロスコロス。やっと……手に入れた力」
 以前の声と重なるように、甲高くノイズの混ざっているような音が聞こえてくる。何かに取り疲れてしまったように見えるカイトには見えた。
 必死になって手に入れた力の代償なのだろうか、余りにもいたたまれない光景にカイトは唇を噛む。
 ふと、周りの様子を確認しようとカイトは注意を払った。カイトの瞳に映る皆の姿は、同じように孝蔵と周磨の成れの果てを静視していた。
 しかし、そこで二人だけ様子が違うことに気が付いた。それは、藍と駿だった。
 尋常ではない様子で大きく目を見開き、体を低く保ち臨戦態勢に入っていることが伺えた。それほど、今の孝蔵は恐ろしい力を持っているという事なのだろうか、以前の面影は完全に消え去ってしまっている孝蔵に向き直る。
「コロス」
 孝蔵から発せられた言葉と同時に、三メートルほどの巨大で空疎な女性の上半身が、孝蔵の体を囲う様に浮かび上がる。
 昔ながらの和服を着ている女性の体は、小さな光の塊が連なり大雑把な人としての形を成していた。以前の話から、カイトにもそれが天照大御神であることは容易に想像することができる。
「あれはまずい、逃げた方がいい」
 藍の緊張感のある声に戦慄が走る。
「あれが、おそらく本物の天照大御神です。あの体をうっすらと体を精製している光がパワーポイント、力の粒子です」
 駿の解説に夏希が疑問を投げかける。
「でもパワポって本来肉眼で見える物じゃないって」
「夏希ちゃん。小さくて見えないだけで、実際に見えない訳じゃないです」
 紗香の開設に続いて青薔が続く。
「魔法陣が光って見える時とかだよね!」
「そうです。パワポ自体が放ち、反応を示す時さらに強い光を放ちます。ですから、魔法陣は光って見え、発動する時さらに強い光を放ちます」
 カイトは今までのみんなの言葉を聞いた上で再確認するように駿に問かける。
「って言う事は、あのアマテラスの体を作っている光は全てパワポか?」
「ああ、おそらくはそれかそれ以上」
 食って掛かるように短く言い捨てる藍に続き、駿はカイトの方を見たまま黙って頷いた。
「タタ、カエ……タ、スケテ……」
 切れ切れな言葉の中に確かに助けを求める声をカイトは聞き逃さなかった。
 孝蔵の元へ駆け出したカイトは、孝蔵へと右手をのまず。同じように孝蔵も光の幕の中から、右手を伸ばす。
 すると孝蔵の動きに連動したかのように、アマテラスの右腕がカイトに突き伸ばされる。ギリギリで勢いを殺し受け身を取るが、平手打ちされたように大きく後ろへと吹き飛ばされた。
 まるで石ころか何かのように東京大神宮の外hと簡単に吹き飛ばされたカイトの姿に、皆は動けなくなった。
 そんな中、この場に立ち込める緊張と硬直を裂くように夏希だった
「はあああっ‼」
 短い咆哮を迸りながら、大きく飛び出した夏希は、初めからさっきと同じように突き出される平手打ちを予想しその攻撃に備えるように身構えていた。
 この東京大神宮に来る直前、夏希は駿からパワポをコントロールし、身体能力を向上させるコツを教わっていた。
 その教えを上手く活かせているのを夏希は肌で感じ、何も知らない皆は驚くようにその動きを目で追った。
 目にもとまらぬ速度で打ち込まれる平手打ちを、夏希の突き出したこぶしが相殺させる。夏希の顔にかすかな笑みがこぼれる。
「凄い!」
「夏希ちゃん」
 青薔と紗香の歓声を遮るように、高速で打ち出された続く二発目を夏希は打ちとめることはできなかった。
 カイトと同じように東京大神宮の外へと物凄い速度で二人の間を飛んで行く。
希望の光を現実へと叩き落されたように皆は完全に固まってしまった。



六芒塔会議が終わりを迎えようとしていた時、会議の中に一つのノイズが入った。
3「何今の」
2「何か外が騒がしいようだな」
5「あ、んなわけあるかよ」
4「それは物騒な」
6「なに……東京大神宮?」
1「そろそろお開きに……アービスが忙しそうだから」
 第一塔はそれだけを言い残しこの会議から抜けた。まるで、全てを知っているかのような言動に、アービスはパソコン越しに引きつった笑みを見せる。
5「お、おい、どういうことだよ!おい、総統」
3「うるさいわね、馬鹿は黙ってなさい。それより何を企んでいるのじじい」
4「ひっひっひ。ただの下準備じゃ」
 その言葉を最後にアービスは会議を抜けた。それにすぐ続き第二塔も会議を抜ける。
3「あのじじい、さっさとくたばりな」
5「おいおい三番じ、ぬかされるのも時間の問題だな!」
そこで第三塔も会議を抜け、残りの塔も次々に抜け会議は終わりとなった。
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