第7話 燃やします。

文字数 1,845文字

 私はなぜこんな状況で戦っているのだろうか。普段なら勝ち目が薄いと分かった瞬間に離脱する。自分に不利な状況では戦わない。それにも関わらず何故こんなバカな事をしているのだろうか。最近の私はおかしい。いつからだろうか。……あの時だ、あの子を拾った時からだ。なぜ拾った。いつもなら無視していただろう。自分に問いかけても答えなど返っては来ない。ただ一つ可能性があったのだとしたら、憧れていたのかもしれない。普通の生活を、家族のいる温かい家庭を、味わってみたかったのかもしれない。自分と少し似た境遇にいた誠に自分の過去の姿を照らし合わせていたのかもしれない。
 男は振り回す腕を止め、腕を高く上げ私を持ち上げる。ぐったりしている私に声をかけた。
「おーい、生きてるか―」
 私は朦朧とする意識の中で思った。理由なんてどうでもいい。考えたってわからないのだから。私は誠の笑った顔が見たい。誠が『待ってるね』と言ってくれた。ただ、それだけだ。
 私は掴まれてない方の足で、男の顎を蹴り上げた。近付いていてくれたおかげで、蹴りを入れることができた。男はよろけ、手を離した。私は落ちていく体を両手で着地し、逆立ち状態になる。そのまま手の力だけで、飛び上がり男に追い打ちをかける。私は男に絡まった状態で地面に倒れると馬乗りになって、顔と脇腹をひたすら殴った。
「な、なぜ…き、起ど、しない…うはっ」
 試作機である魔導アーマーⅤⅢは力の粒子に反応し、障壁を起動させる。それも、アーマーから一メートル離れた場所で感知した時のみ、その攻撃を防ぐため魔法障壁が現れる。一メートル以内では発動されない。男はアーマーの性能に溺れたために、判断が怠り戦闘スタイルを蔑ろにしていた。
 しかし、男もその自覚があったのかこぶしの軌道を逸らし、足を動かした。私は咄嗟に後ろに跳躍し、掴んでいた砂を男の目に投げつける。
 男は目に手を当てながら、距離を取った私を睨んでいる。
「てめー小癪な真似しやがって…くそ」
 そう言って、ハンドガンを取り出した男は私に狙いを定め発砲する。しかし、目に砂を入れられたせいか、なかなか弾は当たらない。私はポケットからボタンを取り出し押した。
 それに反応して、男の足元に落ちていた青色のガラスのようなものでできた3センチほどの球体が光を放つ。
 男は咄嗟に後ろへと飛んだ。
ビリビリ 
 起動式小型電流砲圧爆弾の爆発で電気が飛び散った。男の脇腹に入れた攻撃でアーマーを、直接傷つけることができていた。そこに電流が流れれば、あるは…。電気の柱がアーマーの傷ついた横腹に吸い寄せられるように飛んで行く。しかし、直前で軌道は変わり、腹部にあたり消えた。
「くそ。あぶねーな。一定の距離置かねーと防いでくれねーみてだな」
 男は着地と同時に足を滑らせ、尻もちをついた。
「ああん?なんだこれ…」
 男の体を囲う様に円形の魔法障壁ができる。足元にもできた魔法障壁のせいでバランスが取れない。
 私は、警戒しながらもゆっくりと男に近づいた。男は、近づいた私に襲い掛かろうとするがその足取りはおぼつかない。全体に展開された魔法障壁のせいで、私の攻撃は聞かないが男の攻撃も私に届くことはなかった。
「おい!何をした!」
 男から籠った声が聞こえてくる。男はひどく焦っているようだった。密閉空間に耐性がないのか。いや、違う。酸素が足りなくなっているのだ。男からは尋常ではない冷や汗をかき始め、動きが鈍っていく。大きく口を開け目から涙、鼻からは鼻水、そして、口からは唾液を垂らしながら胸をひっかいて暴れた。それから少しして、男は動かなくなり倒れた。しかし、魔法障壁はなかなか消えない。力の粒子でチャージされていた、魔法機具VF—807を取り出し魔法障壁を撃つ。しばらく撃ち続けていると、魔法障壁が亡くなり男の胴体に穴をあける。アーマーのエネルギーが切れたのか、故障か攻撃の蓄積により壊れたのかはわからない。
 男の荷物を物色したが、無線機などの通信機器またチームを組んでいたような痕跡は見当たらなかった。おおむね、この男は一人で生きてきたものと考えて間違いないだろう。もともと、この界隈にチームを組んで行動しているものなど滅多にいない。
 魔導アーマーⅤⅢは完全に壊れてしまっていた。あんなものを見せられてしまっては、正直もう使う気は起きない。タグだけ一応回収し、火焔魔導グレネードを男の遺体に投げた。高熱の炎があたりを包み焼き払う。私は息子のもとへ向かった。
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