第18話 東京都立星川高校です。

文字数 3,474文字

「藍~」
 手を振りながら近づいてくる石原先輩。名前は石原颯来、Ⅽランカーの四十三位。石原先輩の超能力は自分と相手の場所を瞬時に入れ変えることができる。
「お疲れ様です」
 俺はそう言葉を返す。俺の名前は井坂藍、Ⅾランカー七位。超能力はとても固い見えない壁を作り出すこと。普段は拳の前に十センチ程の正方形の壁を作り出し、打撃攻撃をメインとしている。大きさにもよるが壁はまだ二つまでしか作れない。
「おお。……今回は運が悪かった。こんな子供と当たるなんて」
 目の前に来た石原先輩は近くに落ちている死体を見ていった。
「いえ、充分人を殺せる力は持ってましたよ。特にあの誠は」
 そこへ割り込むように通信機から女性の声が声を挟む。彼女の名前は小町七瀬、非戦闘員で僕らの部隊のオペレーターを務めてる。
「もう敵は居ないはずよ、さっさと戻ってきなさい。それと颯来、あんた誰と入れ替わったか分かってるの?ちゃんと説明してなかったでしょ」
「石原先輩?」
 俺は遠い目で石原先輩を見た。石原先輩は頭をかき苦笑いしながら言った。
「いや~早く戻りたかったし、ついいつもの感覚で……」
「今回は俺、何も悪くないですからね」
 そう言って同時にビルの方へ顔を向ける。次の瞬間、ビルに対して凄い衝撃波と爆発音が響き、粉砕した。その中から、こちらに向かって一直線に飛来してくる人が見える。
 近くにある廃墟ビルへ向かって全力疾走で走り出した。同じように石原先輩も僕の隣を走る。
「なんでついてくるんですか!」
「お前がついてきてるだけだろ!」
「怒らせたの石原先輩ですよね!」
 すると無線機からもう一人の女性の声が聞こえる。
「七瀬さん、向かいのビルに人はいる?」
「いえ……いませんが、ほどほどに」
「了解」
 その女性は七瀬さんの言葉に短く返す。無線のやり取りを聞いた俺たち背筋を凍らせ、ビルの入り口の前で立ち止まった。
 すると後ろから飛来してきた女性は物凄いスピードで俺たちの間を通り抜け、廃墟ビルの一階に激突する。そして、その女性は何事もなかったように立ち上がりこちらに向かってゆっくり歩いてきた。女性の後ろにあるビルは崩壊を始めるが何も気にしている様子はない。女性が石原先輩の前に来ると、石原先輩は飛来してきた女性に負けない程の速度で土下座をし謝った。
「カナすまん!いつもの癖で」
「藍くんの元に走って向かってたらいきなり八階に飛ばされたんだからね!しかも壁もないし」
 彼女の名前は殿草カナ、この部隊のリーダーを務めている。A~Eランカーで分けられる戦闘員の中で十人しかいないAランカーのうちの一人。そして、順位は堂々の一位、俺の知る限り事実上STCO最強の戦闘員である。
 石原先輩に怒っていた殿草先輩は、俺の方を見るとにっこりと笑って聞いてくる。
「藍くん怪我とか大丈夫?ちょっと力入れすぎちゃったかも」
「ええ…」
 隠すこともなく目の前で表情変えられのはすごい。ただ改めて絶対に逆らえないなと感じた。俺が戸惑いながらも殿草先輩に返事をすると、隣で正座している石原先輩は小さな声で言った。
「ちょっとでビル二つも壊すとかどんだけだよ」
「颯来?」
 そう言って殿草先輩は石原先輩を怒り始めた。

 任務を終えた僕たちの部隊は大阪本部に帰還する。そして次の任務を待った。しかし、それ以降次の任務が入ってくることはなく完全に終焉のルインは終わりを告げたことを実感する。
 俺の部隊KSAの会議室で石原先輩と適当に座り話していた。因みに部隊KSAはカナ、颯来、藍の頭文字を取っただけ。
「それにしても本当に平穏になったよな」
「そうなんですね」
「そっか、藍は知らないのか。ルイン前を」
「ルインまっただ中で入ったんで…」
「それは気の毒だったな」
「それが当たり前で、逆に今はすることなくて暇ですよ」
 会議室の扉が開くとパネルを持った殿草先輩が入ってきた。そして、席に座ると話始める。
「もう、ここに滞在してなくもいいみたい。ルインは完全に終わり」
 その言葉を聞いた石原先輩は嬉しそうに席を立ちながら言った。
「おお、完全に終わったのか!それに、大学生活戻れるのかー。嬉しいけどレポートめんどくせぇー」
 石原先輩の言葉に殿草先輩も賛同する。
「そうね、最近は全く大学行けてなかったもんね」
「先輩は同じ大学?」
 俺の質問に殿草先輩が答えてくれた。
「そうよ、東京の大学で学部も同じ。あ、で藍くんには東京の高校に入学することになったから会えるかもね」
「お、それはいいな!会えるかもしれないし、何より学校はいいぞぉ~退屈しない!」
 石原先輩の言葉をよそに殿草先輩が高校の詳細が書かれたパネルを見せてくれる。俺はパネルのをスライドさせ、その高校の詳細を確認した。名前は東京都立星川高校。
「それじゃあ、しばらく会えなくなるわね。またね」
「元気にしてろよ」
 殿草先輩と石原先輩が俺の方を見ながら言った。俺も返事を返す。
「元気で」

 朝、目を覚ました俺は目をこすりながらベッドから降りた。まだ、重たい目蓋を持ち上げながら、窓の方に向かってゆっくり歩いて行く。そして、閉め切られていたカーテンを思いっきり開いた。
 太陽の光が俺の顔をピカッと照らし目を細めるが、すぐ日差しには慣れ窓を開ける。すると、朝の冷たい風が部屋の中へ勢いよく吹き込んできた。俺はその風にあたりながら、両手を上で組みグッと背伸びをする。今日もとても気持ちがいい朝だ。
 俺はトレーニング用の服に着替えて部屋を出た。玄関に向かう途中で奥の部屋から おはよう と言う母の声が聞こえた。俺は おはよう、ランニングに行ってくる と、返事を返しランニング用シューズを履いて家を出た。家を出てからまず右に曲がり走り出した。俺の名前は菅崎カイト、東京都立星川高校の二年だ。成績はと言うと、下の上ではなく中の下だ。けして、下の上ではない。
 しばらく走っているといつも寄っている、コンビニが見えてきた。そして、コンビニの前を通り過ぎる時、昨日の事を思い出した。
それはいつもの用にランニングの後、休憩代わりにコンビニに立ち寄った時だった。中へ入り、窓側にある雑誌を手に取り読んでいた。そして、雑誌から目を離し外を見ると道路挟んだ向こう側で、一人の男が複数の男達に囲まれている所を目にした。絡まれたのか?そう思ったが、彼は嫌な顔一つせず男達に囲まれる様にして路地裏に入っていく。俺は始め勘違いかと思ったが、なぜか嫌な予感は止まらなかった。
 しばらくたっても戻って来ないので、コンビニを飛び出し信号が変わると同時に渡り路地裏へと走った。間に合ってくれ!俺はそう願いながら、突き当たりを右に曲がる。しかし、その願いは叶わず服がボロボロになって、口からは血を出していた彼が倒れていた。さっきの男たちはもういなかった。俺がもう少し早く来ていれば大丈夫だったかもしれない。俺は彼の肩に両手を置き体を優しくさすりながら聞いた。
「おい!大丈夫か」
 すると、彼は無言で俺の手を払いのけ立ち上がると、何も言わず歩いて行った。俺は彼になんと言葉をかけていいかわからず黙り込んだまま、後姿を見続けた。
 彼が心配だ。そんな昨日の事を思い出しながら走っていると。
「カイト」
 後から名前を呼ばれた。そして、すぐに隣に並んで走り挨拶してくる。
「おはよ」
「おはよ」
 ショートヘアーで、明らかに体育会系の彼女の名前は相川夏希。同じ東京都立星川高校二年の友達以上恋人未満の幼なじみだ。
 そんな夏希は俺に聞いてしてきた。
「どうしてこんなところまで来てるの」
 夏希の家はこの近くだが俺の家はだいぶ離れているのだ。しかしいつもものように朝、並んでランニングをしているため、この質問の意味が理解出来なかった。
 すると、実由は困惑している俺に何かを察したのか、いやな笑みを浮かべてこう言った。
「ははーん。さてはカイト、今日が何の日かおぼえてないな~」
「今日が何の日かだって?そんなのなぁー、そんなのなぁー」
 そう言いながら必死になって考えた。すると、案外すぐに答えがわかった。それと同時に、大変な事を忘れている事に気がついた。
「あ、今日学校じゃねーか!」
 俺は大声を上げるとクルッと、向きを変え家に向かってダッシュした。走っていると、ちょうど家から出てきた一人の女性が挨拶してくる。
「カイトくん、おはよう」
「紗香、おはよう」
 俺は足を止めることなく、ものすごいスピードで挨拶し走り去っていった。家についた俺は、勢い良く玄関の扉を開け叫ぶ。
「母さん、今日学校‼」
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