第15話 人工的超能力です。

文字数 2,443文字

「まだかなー」
 ボソッとつぶやいた僕は畳の上で横になっていた体を起こしリビングに向かった。
「お母さん?」
 リビングにも台所にもお母さんの姿はなかった。どこにいるのだろう。
 僕はお母さんを探して、家中を回った。しかし、どこにもお母さんの姿はない。何度か繰り返し名前を呼んでもお母さんから返事が返ってくることはなかった。家出たのかな?そう思い玄関を確認したけど、お母さんの靴はちゃんと置いてあった。他にどこにいるのだろうか。不可解な状況に嫌な予感が止まらない。
 お母さんを探すために視線を動かしていると、一つの扉の前で目線が止まった。それは、家の真ん中にある薄暗い気味の悪い扉。
「家の中で唯一行ってない場所…」
 僕は小さく声を漏らすと、扉の方に向かってゆっくり歩いた。目の前にある扉は近づくにつれ、無気味さを増しているような気がする。意識が遠のくように扉が大きくなっていくような感覚に襲われる。
 僕は頭を振って無理やり気持ちを切り替え、ドアノブに手をかける。垂れ下がっている手に力を入れ握りこぶしを作り勇気を出す。扉を押すとキーっと気がきしむ音が鳴る。何か悲鳴のようにも聞こえ、無気味さが増していく。普段しまっている扉の鍵が開いていることにも違和感を感じた。扉の前には、地下につながる薄暗い急な階段が続いていた。そして、鼻を突くような激臭もする。
その場に立ち尽くしていても仕方がないので、勇気を持って前に進んだ。下に降りれば降りるほど刺激臭は強くなっていったけど、だんだん慣れてくる。階段を下りた先に少し開いた扉があった。その扉からは明かりがこぼれている。薄暗い廊下にいたくなかった僕は、さっさと明るい部屋の中に入る。
 中はいると、一際大きいテーブルが置いてあり、周りの棚にはたくさんの紙とビンと道具が置いてあった。あたりにはシミができていて、汚いと感じた。それから少し進むと赤い水たまりが床に広がっているのが見えた。その先を追うように顔を上げると、椅子に何かが座っている様だった。暗くてよく見えない。
 僕はよく目を凝らすと、その物体がだんだんしっかりと見えてくる。椅子には人が座っていた。腰まで垂れ下がった髪は黄金色をしている。裸の女性は谷間からおへそまで切り開かれており、内臓が垂れ下がっていた。その内臓を伝って床に血が滴り落ちている。まだ死んでから全然時間がたってないようだった
 僕は悲鳴を上げた。呼吸の仕方も分からなくなるくらい大きく心臓が鳴る。
「丁度いい」
 聞き覚えのあるその声に僕は振り返った。そこには成瀬の姿があった。いつもよりもすごく嫌な雰囲気をかもち出す成瀬は、歩み寄り僕の肩に手を添えて言った。
「お母さんには感謝しないとな」
 僕は成瀬がそう言って向ける視線の先を見た。そこにはさっき見た椅子に座っている女性の姿がある。僕は見覚えのあるその女性に絶叫した。そう、僕のお母さんの変わり果てた姿だった。さっきまでご飯を作っていたお母さんがあんなグロテスクな姿になっていることに夢だと、そう感じることしかできなかった。しかし、成瀬が右手に持っている鋭い銀色の針が僕を現実へと引き戻す。僕はゆっくりと成瀬から後ずさり離れようとした。しかし、素早く伸ばされた腕につかまり、地面に無理やり倒されてしまう。僕の上に馬乗りになったな成瀬は左手で僕の顔を抑えつける。
「やっと完成したんだ。お前にはその被験者になって貰う。」
 成瀬は無気味な笑みを浮かべながら右手に持っている注射器を見る。
 次の瞬間、成瀬は僕の右目に注射器を突き刺した。
「あああああああああああ」
 あまりの激痛に絶叫しながら必死に暴れた。近くにあったテーブルに足があたり、テーブルの上からいろいろなものが床に落ちる。その中に甲高い金属音がした。僕は、手探りで探し、掴んだ金属を成瀬の体に押し込んだ。ぶすっと言う鈍い音と感触が僕の腕に伝わり、成瀬は動きを止めた。成瀬は自分の体を確認する。胸には綺麗にメスが刺さっていた。僕はどうやらメスを拾ったみたいだった。成瀬は動かなくなると、そのまま打つむせで倒れてくる。僕は成瀬の体を横に倒し、立ち上がり成瀬を見た。体からは血が流れだし、動き出す様子はなかった。成瀬は死んだみたいだった。お母さんの死体と成瀬の死体が転がる地下室に僕はただ一人立ち尽くす。右目を右手で抑えながら、改めてこの部屋の光景を目に焼き付けた。

 能力の源になる粒子を見ることが出来る、それが俺の能力だ。成瀬とは俺の父で、母が高崎日葵。
 そう、成瀬の最後の実験は成功したのだ。俺は右目を赤く光らせて見せた。



「ねぇ、お父さん。次はどこに行くの?」
「お前のような子供が集まる傭兵所だ。日本に来た一番の目的は、そこに行くことだったからな」
 お父さんと一緒に潜水艦から降り、陸地に上がる。お父さんが潜水艦から降りるのは久しぶりの事だと思う。お父さんの後ろに続いて、山の中を歩いて行った。少ししてから止まったお父さんが僕に言う。
「ここだ」
 目の前に少し大きな岩があるだけで、あたりには木がうっそうと生えているただの森だった。お父さんは平然と岩に向かって歩きはじめる。お父さんはそのまま岩の中に入っていった。困惑したけど、僕も勇気を振り絞って岩に飛び込んだ。
 スルッとすり抜け、中にはとても広い洞穴のような空間が広がっていた。
「これ、魔法?」
 僕が今通ってきた扉となっていた岩の方を見ながら言った。お父さんは僕を見て答える。
「ああ」
 入り口からは、下に向かって少し長い階段が続き、二、三十人ほどの人たちが生活している様だった。壁に点々とある洞穴のようなものが部屋になっているみたい。
 少し長い階段をお父さんと一緒に降りていると炎の小鳥が天井を飛んでいた。
「あれも?」
「わからない」
 炎の小鳥を追いかけるように小さな氷のユニコーンが裕宙を飛んでいく。
 その光景に僕は目を輝かせた。正直魔法を馬鹿にしてた僕はこの空間がとても新鮮だった
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