第17話 。

文字数 1,733文字

 廃棄ビルの八階、壁はすべて抜け落ち内装が丸見えになっていた。
 流星は床に寝そべり魔導ライフルⅯ28を構えから、誠と青年の場所を確認しながら随時報告していた。
 誠は必殺の一撃で敵を上空へと打ち上げた。打ち上げられた青年の最高到達地点を狙い魔力を込めて発砲する。光を放った弾光が青年に向かい一直線に飛んでいき爆発した。
 スコープから体を離し、隣にしゃがんでいた陽介を見る。陽介も流星の方を見てお互い笑いながら拳をぶつけ、勝利を喜んだ。
 その時だった。突如、イヤホンから健の声が聞こえる。
「誠、まだだ!」
 その後に聞こえる、誠のうめき声。それから、誠からの音声は途絶えた。
 流星は、直ぐにライフルを構え直し、砂煙がはやく消えるように願った。そして、砂煙が消えた先に映った光景に絶句する。誠の胴体から上はなくなり、何か見えないものに頭がプレスされていた。空中にグロテスクな血だまりのようなものが浮いている。そして、唐突に血だまりが地面へと落ちる。
 仇を取ってやろうと青年の頭を狙うが、青年の所へもう一人の男が現れた。さっき確認した時は居なかったはずだった、確認不足だったのかもしれない。それに、一人だけなら何とかなったかもしれないが、二人だと勝ち目はまずない無い。誠の仇を取れないことを心の中で誠に謝りながら、敵の動向を確認する。イヤホンからは仲間たちが誠の敵を取ろうと意見する。健だけはその意見に反対だった。流星も誠の敵は取りたかったけど、健の意見に賛成だった。
 しかし、スコープ越しから見える敵の笑った表情や肩組む陽気な姿に、流星の感情は爆発した。せめて一人は殺してやる。そう思いスコープで狙いを定めると、新しく現れた男の方が急にこちらを向いて、目を合わせてきた気がした。数百メートル以上も離れているはずなのに。
 驚いた流星はスコープから顔を離し、体を引く。それとほぼ同時に健からイヤホン越しで叫び声が聞こえる。
「ダメだ!逃げろ!」
 健の声と同時に流星は横からお腹を蹴り飛ばされ、数メートル飛んだ。身構えてなかったぶん、かなり大きなダメージを受ける。隣には陽介しかいなかったはずなのに、何故。顔を上げ誰か確認すると目の前にいたのは、さっきスコープ越しで目が合っていたような気がした男だった。陽介はやられたのか?そう思い痛むわき腹に手を当てながら確認する。しかし、陽介の姿はどこにもない。
 流星は若い男を睨みながら聞いた。
「一瞬で、どうやってここに?隣にいた陽介は?」
 流星は色んな思考を巡らせる。そんな流星に対し目の前の若い男が言う。
「普通だったら、小学三年生ぐらいか。まだ若くて、幼いのにな。ごめんな、生かしては置けないんだ。ええっと、なぜかだったか?俺は超能力者で物と物の場所を入れ替える能力なんだ。せめて、痛みなくいかせてやるから」
 そうだった。政府組織と傭兵との決定な的違い、それはSTCOの戦闘員は全員が戦闘を前提とした超能力者であった。
 流星は目の前に迫っている死をいざ実感すると恐怖に耐えられず、自然と体が震え涙が溢れた。恐怖からか、お腹の痛みは感じなくなっていた。
 流星は震えながら口から漏れ出す嗚咽を何とか言葉に変えて、弱々しくもマイクに向かって言う。
「に げ ろ…」


 健は物陰から誠を殺した青年が、陽介の首を折り殺す姿を見ていた 。健は新しく現れた若い男が超能力で場所が入れ替わる姿も。
 健は最後の流星の命令を遂行するためにその場から離れた。これが本当の戦闘、戦争。健は改めて殺し合いであることを実感した。そして、自分たちがまだまだ無力であることを実感する。もう一人の仲間、理恵に若い男の超能力と同じビルの八階に敵がいる可能性を伝えた。そして、陽介も殺され自分たちでは勝ち目がないということも伝える。
 しかし、そこまで伝えた後に少しして物凄い音と同時に唖然とするような光景が健の目に移り、思わず立ち止まってしまう。
 そうだ、最初から勝ち目なんてなかった。力量差は圧倒的だった。誠と隆介の意見に従っていればよかった。理恵のいるビル、若い男が流星を殺したと思われるビル。そのビルが木っ端微塵に粉砕した。
 最後に理恵の悲鳴だけが聞こえ、音信不通となった。
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