第45話 苛立ち
文字数 2,451文字
その言葉と同時に魔法陣は光り輝き始める。光はだんだんと強さを増し、二人の裸体を明るく照らす。
西条さんの体から浮き出る光の気泡が駿の体に集まり、体を埋め尽くす。光の繭が完全に駿を包み込むと、しばらくして魔法陣の光が徐々に弱まっていき、そして完全に消えた。
続いて、光の繭も上からゆっくりと崩れ始める。
中から姿を現したのは、完全に同じ姿をした西条さんだった。まるで鏡に映っている自分が実物として目の前にいるかのよう。
西条さんは、自分と全く同じ姿をしている駿に手を伸ばす。
しかし、駿はそんな西条さんに付き合ってる暇などなかった。
「何してるんですか、さっさと終わらせましょう。服を貸してください。」
「す、すごい、声まで……あ、ごめんなさい。はい」
渡された制服を着た駿は、外側のカーテンを開ける。部屋に刺す光が西条さんの姿をした駿を照らす。
改めて明るい場所でしっかりと姿を確認している駿に対し、体操服に着替えた西条さんはまたも凄いと言葉を漏らした。
窓の外を指さしながら駿は続ける。
「ここから、体育館の倉庫裏が見えます。孝蔵先輩と周磨先輩はもう来てるみたいですね、ぶっとばししてきます。それと絶対この部屋から出ないでくださいね。同一人物が二人いたら大変ですから」
右腕でガッツポーズを作る駿に西条さんは優しく笑った。
教室を出ると同時に表情を戻し、早足で体育館倉庫裏に向かう。
「あ、西条さん」
後ろから聞きなれた声聞こえ振り返ると、夏希さんが追いかけて来ていた。下手に逃げれば変に思われ今追いかけて来たようについてくるだろう。それに、駿は西条さんと夏希さんの関係を深くは知らなかった。
最悪なタイミングだ。
「どうしたんですか」
小さな声で様子をうかがうように聞く姿に違和感を感じてはいないようだった。
「この前も言ったんだけど、心配。今日は一段と暗い様子だったから……。私の友達も言ってたし、私も今日見たんだけど、赤崎駿くんと一緒にいたよね、どういう関係なの?」
「……赤崎君に聞いて欲しい……私からは何とも」
「わかったわ、でもさっきまで駿といたわよね、どこにいるの?」
西条さんは、三階の技術準備室の窓から、体育館倉庫裏にいる孝蔵と周磨を監視していた。
そろそろ着いてもよさそうな時間にもかかわらず、中々姿を現さない。自分と全く姿が同じ赤坂君が何をしても、被害は私だけ。もし効力の一時間が嘘なら、孝蔵と周磨の根回しだったら。そんな嫌な想像が不安から次々とこみ上げてくる。
大丈夫、大丈夫だから。
そう言い聞かせていると二人の先輩の元に知らない男の人が現れた。対立するように睨み合っている姿を見るとどうやら、孝蔵と周磨の仲間ではないみたい。
でも、彼が現れても大丈夫なのだろうか、私の容姿で万全な二人をやっつけることが目的だって言っていたような。
焦りや不安から西条さんは教室を出た。
ずかずかと聞いてくる夏希から、駿の事を完全に西条さんと勘違いしているのだろう。
とりあえず、先ほどの駿はどこにいるかの質問は墓穴を掘らないよう、濁して答える。
「……わからない」
困った様子の夏希を置いておき、さっさと体育館倉庫裏に向かおうとすると夏希がまたも止めてくる。
「どこいくの?あの二人の先輩の事ならもう大丈夫だから。私の一番信頼言出来る男があいてして、今頃懲らしめてるから」
その男とは恐らくカイトの事だろう。それに発言から、もう体育館倉庫裏にいることになる。
ああ、本当に最悪だ。
「ごめんなさい、私もう行かないと」
少し強引に行こうとする駿のうでを掴みとめる。
「もう大丈夫なんだよ」
「私の邪魔しないで!」
はっきりと強い口調で言い切った。いつもの西条さんの態度とは少し違ったのだろう、夏希さんは瞳を大きく開き固まった。
ここで、ごめんなさいと言って走って行けば、一番自然かもしれないがその場合ついてきてしまう恐れがある。
「付いてこないで」
駿は夏希さんに対しそう短くいい放ち、その場を去る。
体育館倉庫裏に着くカイトと孝蔵と周磨が戦闘を始めていた。
西条さんの姿をした駿の登場に三人の動きは止まる。駿はそんな三人をさて置き、横目で三階の技術準備室の窓を確認する。そこには誰の姿も見当たらない。
計画とは違うカイトの登場に焦ったのか……。
ここまできたら、仕方がない今は目の前に集中しよう。
「西条……さん、だよな。俺は隣のクラスの菅崎カイトだ。俺が助けるから、安心しろ」
笑って言うカイトくんだが、確かに、二対一でも相手の方がやや疲弊している様だ。でも、カイトは邪魔な存在。
「だいじょうぶ、だから。余計なことしないで!」
「そうだぜ、俺たち三人は仲よく遊んでるだけだからな」
「良く分かってんな西条、お前と楽しんだ思い出はちゃんと残っているもんな」
孝蔵と周磨の言葉に怒号を返す。
「おまえらぁ!」
「お願い!……ねぇ……お願い……やめてよ、ね」
駿は涙を流しながらカイトくんに全力で訴えかけた。そのかいあってか、カイトくんは怒りを鎮めてくれた。力ずよく似意義りこぶしを握りながら。
カイトくんは下を向きながら、本当にこれでいいのか悩みを隠せない様子でゆっくりと駿の方へ歩いて行く。
駿の側にある校舎に戻るため、カイトくんはゆっくりと近づいてくる。駿はすれ違いざまに声をかけた。心残りを少しでも解消するために、そして今後の保険のため。
「信じてくれて、本当にありがとう。この問題は解決するので、次は頼らせてください」
カイトくんは何も返事を介してくることは無かった。しかし、歩く速度は自然と速くなっていた。
誰もいなくなったことを確認してから駿は、一歩ずつ孝蔵と周磨に近付いていった。
「えらいな」
笑いながら言う孝蔵に駿は無言で更に近付く。
そして、目の前に立ったところで、右腕を伸ばし孝蔵の胸倉を掴んで体を宙に浮かせる。
右目を赤く光らせた駿は、少しの苛立ちを含んだどす黒い声で吐き捨てるように言った。
「黙れ、雑魚」
西条さんの体から浮き出る光の気泡が駿の体に集まり、体を埋め尽くす。光の繭が完全に駿を包み込むと、しばらくして魔法陣の光が徐々に弱まっていき、そして完全に消えた。
続いて、光の繭も上からゆっくりと崩れ始める。
中から姿を現したのは、完全に同じ姿をした西条さんだった。まるで鏡に映っている自分が実物として目の前にいるかのよう。
西条さんは、自分と全く同じ姿をしている駿に手を伸ばす。
しかし、駿はそんな西条さんに付き合ってる暇などなかった。
「何してるんですか、さっさと終わらせましょう。服を貸してください。」
「す、すごい、声まで……あ、ごめんなさい。はい」
渡された制服を着た駿は、外側のカーテンを開ける。部屋に刺す光が西条さんの姿をした駿を照らす。
改めて明るい場所でしっかりと姿を確認している駿に対し、体操服に着替えた西条さんはまたも凄いと言葉を漏らした。
窓の外を指さしながら駿は続ける。
「ここから、体育館の倉庫裏が見えます。孝蔵先輩と周磨先輩はもう来てるみたいですね、ぶっとばししてきます。それと絶対この部屋から出ないでくださいね。同一人物が二人いたら大変ですから」
右腕でガッツポーズを作る駿に西条さんは優しく笑った。
教室を出ると同時に表情を戻し、早足で体育館倉庫裏に向かう。
「あ、西条さん」
後ろから聞きなれた声聞こえ振り返ると、夏希さんが追いかけて来ていた。下手に逃げれば変に思われ今追いかけて来たようについてくるだろう。それに、駿は西条さんと夏希さんの関係を深くは知らなかった。
最悪なタイミングだ。
「どうしたんですか」
小さな声で様子をうかがうように聞く姿に違和感を感じてはいないようだった。
「この前も言ったんだけど、心配。今日は一段と暗い様子だったから……。私の友達も言ってたし、私も今日見たんだけど、赤崎駿くんと一緒にいたよね、どういう関係なの?」
「……赤崎君に聞いて欲しい……私からは何とも」
「わかったわ、でもさっきまで駿といたわよね、どこにいるの?」
西条さんは、三階の技術準備室の窓から、体育館倉庫裏にいる孝蔵と周磨を監視していた。
そろそろ着いてもよさそうな時間にもかかわらず、中々姿を現さない。自分と全く姿が同じ赤坂君が何をしても、被害は私だけ。もし効力の一時間が嘘なら、孝蔵と周磨の根回しだったら。そんな嫌な想像が不安から次々とこみ上げてくる。
大丈夫、大丈夫だから。
そう言い聞かせていると二人の先輩の元に知らない男の人が現れた。対立するように睨み合っている姿を見るとどうやら、孝蔵と周磨の仲間ではないみたい。
でも、彼が現れても大丈夫なのだろうか、私の容姿で万全な二人をやっつけることが目的だって言っていたような。
焦りや不安から西条さんは教室を出た。
ずかずかと聞いてくる夏希から、駿の事を完全に西条さんと勘違いしているのだろう。
とりあえず、先ほどの駿はどこにいるかの質問は墓穴を掘らないよう、濁して答える。
「……わからない」
困った様子の夏希を置いておき、さっさと体育館倉庫裏に向かおうとすると夏希がまたも止めてくる。
「どこいくの?あの二人の先輩の事ならもう大丈夫だから。私の一番信頼言出来る男があいてして、今頃懲らしめてるから」
その男とは恐らくカイトの事だろう。それに発言から、もう体育館倉庫裏にいることになる。
ああ、本当に最悪だ。
「ごめんなさい、私もう行かないと」
少し強引に行こうとする駿のうでを掴みとめる。
「もう大丈夫なんだよ」
「私の邪魔しないで!」
はっきりと強い口調で言い切った。いつもの西条さんの態度とは少し違ったのだろう、夏希さんは瞳を大きく開き固まった。
ここで、ごめんなさいと言って走って行けば、一番自然かもしれないがその場合ついてきてしまう恐れがある。
「付いてこないで」
駿は夏希さんに対しそう短くいい放ち、その場を去る。
体育館倉庫裏に着くカイトと孝蔵と周磨が戦闘を始めていた。
西条さんの姿をした駿の登場に三人の動きは止まる。駿はそんな三人をさて置き、横目で三階の技術準備室の窓を確認する。そこには誰の姿も見当たらない。
計画とは違うカイトの登場に焦ったのか……。
ここまできたら、仕方がない今は目の前に集中しよう。
「西条……さん、だよな。俺は隣のクラスの菅崎カイトだ。俺が助けるから、安心しろ」
笑って言うカイトくんだが、確かに、二対一でも相手の方がやや疲弊している様だ。でも、カイトは邪魔な存在。
「だいじょうぶ、だから。余計なことしないで!」
「そうだぜ、俺たち三人は仲よく遊んでるだけだからな」
「良く分かってんな西条、お前と楽しんだ思い出はちゃんと残っているもんな」
孝蔵と周磨の言葉に怒号を返す。
「おまえらぁ!」
「お願い!……ねぇ……お願い……やめてよ、ね」
駿は涙を流しながらカイトくんに全力で訴えかけた。そのかいあってか、カイトくんは怒りを鎮めてくれた。力ずよく似意義りこぶしを握りながら。
カイトくんは下を向きながら、本当にこれでいいのか悩みを隠せない様子でゆっくりと駿の方へ歩いて行く。
駿の側にある校舎に戻るため、カイトくんはゆっくりと近づいてくる。駿はすれ違いざまに声をかけた。心残りを少しでも解消するために、そして今後の保険のため。
「信じてくれて、本当にありがとう。この問題は解決するので、次は頼らせてください」
カイトくんは何も返事を介してくることは無かった。しかし、歩く速度は自然と速くなっていた。
誰もいなくなったことを確認してから駿は、一歩ずつ孝蔵と周磨に近付いていった。
「えらいな」
笑いながら言う孝蔵に駿は無言で更に近付く。
そして、目の前に立ったところで、右腕を伸ばし孝蔵の胸倉を掴んで体を宙に浮かせる。
右目を赤く光らせた駿は、少しの苛立ちを含んだどす黒い声で吐き捨てるように言った。
「黙れ、雑魚」