第16話 。

文字数 2,658文字

 その後お父さんが大人たちと何か話をして部屋に移動する。しばらくここを拠点にすると、お父さんから聞いた。教官から元々いた四人の子供たちと一緒に戦いの仕方や世の中の仕組みを学んだ。それからは、五人で一緒に遊んだり簡単な任務をこなすようになった。任務は戦闘のないものばかりだった。それでも、前もってお父さんに生き方を教えて貰っていた僕はみんなよりも強くて、リーダーを任せられるようになった。
 ここでの生活はとても楽しかった。仲間がいるとやっぱり楽しい。
 ここでしばらく生活をしてからお父さんと一緒に何かをするというようなことはなくなった。
それから数週間が過ぎたころだった。教官に普段よりも危険度の高い任務を提案された。これを成功させたらシグマのタグ、Eマイナスが貰えるという。リーダーである僕に判断をゆだねるみたい。この任務は教官が提示した最後の試練みたいだった。
 今日の訓練が終わると四人が僕のもとに集まってくる。副リーダーの流星に一応聞いてみた。
「受ける?」
「いいと思う」
 すると、理恵が大きな声で言った。
「受けようよ!」
「やめた方がいいと思う人はいる?」
 僕はみんなの顔を見ながら言った。みんな僕の目をしっかり見据えて頷く。どうやら反対意見の人はいないみたいだった。僕たち五人は一日では終わらない仕事をする事もあり、一瞬にいる時間は長かった。そして、その時間が僕たちの仲は深めてくれた。その過程で僕がリーダー、流星が副リーダーと自然となった。近距離戦が得意なのは僕と理恵と陽介。遠距離戦が得意なのは流星と健。
 任務当日、方針を再確認する。目的はあくまで情報収集のため戦闘はなるべく控えること。僕と流星以外は戦闘を控える事にあまり納得していないようだったけど了承してくれた。皆と話し合っているとそこにお父さんが来た。驚いている僕にとお父さんは言う。
「頑張れ…そして、死ぬなよ」
「うん」
 お父さんは直ぐに振り返りたぶん自分の部屋へと戻っていく。失敗すれば死ぬ可能性のある一番の難門、傭兵昇格任務。お父さんが僕を心配してくれているのが伝わる。
「絶対に死なないよ」
 僕は小さな声で返事を返し、わざわざ応援に来てくれたお父さんの後ろ姿を見ながら僕は嬉し涙を堪えた。
 僕はみんなを見て力強く言った。
「完全成功させよう!」
「おー!」
 みんなが掛け声を返してくれる。皆の声や瞳からも、絶対に成功させるという熱意や覚悟を感じた。

 朝、任務場所の福島県都市に着く。
 そこは瓦礫の山で廃墟となったビルだけが立っていた。その他の建物はほとんどが崩れ落ちている。それから、あの津波の破壊力が伝わってくる。皆あたりを見回しながら言葉に詰まった。この甚大な被害を持たらしたのがルインの悪魔。
 名前を呼ぶことすらはばかられる悪名の代わりに、一部の言葉を流星が小さな声で漏らした。
「これが、ルイン……」

 しばらく任務をこなしていると、一人の青年がこちらに迫ってきているとライフルを構えた流星から報告を受ける。その青年の服装はSTCOと言う日本政府の直属の部隊のものであった。
「このタイミングで……こっちに気付いてる?」
「多分気付いてないと思う、見た所巡回してるみたい。一人だった」
「なら倒そうよ」
 そう理恵が言う。
「でも戦闘はなるべく…」
「でも、また巡回でこっちまでいたら邪魔でしょ。しかも一人だし」
「…分かった。じゃあ流星と理恵と陽介はあそこのビルに向かって、巡回ルートを見渡せるところに移動して」
 三人はうなづくと早速移動を開始する。僕も右腕に着けている魔法具を起動させ残った健と一緒に移動を開始する。
 それぞれが持ち場に着いたと片耳に着けているイヤホンから練習が入る。ビルの入り口には見張りとして、理恵が。ビルの八階には狙撃手の流星と護衛として陽介がいる。各自、他の敵の襲撃を受けたらすぐに逃げえる事を伝える。そして、その返事として流星が皆に言う。
「敵は一人で回りには敵はいない」
「分かった。じゃあ作戦通りに」
 僕はそういって、物陰に隠れ流星の連絡を受けながらそっと、青年の巡回ルートを先回りする。
瓦礫に隠れている僕の前を青年は通り過ぎてった。今だ!そう思った僕は素早く飛び出し、背後から殴り掛かる。完全な奇襲だったはずなのに、青年は瞬時に反応し僕の攻撃をかわす。僕は止まらず左腕だけで攻撃を続けた。
 青年はきっと僕よりも強い、けどお父さんほどじゃない!
 青年は僕の攻撃を回避するのに専念していて、仕掛けてくる様子がない。こちらの手のうちを探っているのかもしれない。僕は百五十%まで溜り赤く光る魔法具の右拳をものすごい速さで突き出した。魔法具の風の力でスピードも威力も跳ね上がっていた。拳は吸い寄せられるように青年の体にあたり空へ打ちあがった。僕の右腕は百五十%の魔法具に耐えられず、ひびが入ったのがわかる。
 男は数十メートル打ちあがる。今の一撃でもし仕留められなくても、負傷した状態で数十メートルの高さから落ちれば殺せるだろう。また、ここは流星も狙撃できる場所だ。間違いなく勝てる。
 今だ!僕の合図と同時に健悟がライフルで空中の青年に撃つ。
 光を放った弾光が青年にあたり爆発する。イヤホン越しから皆の歓声が聞こえ、僕も思わず よし!とガッツポーズをとった。
その時だった。健の声が皆の歓声を遮る。
「誠、まだだ!」
 上空を見上げると青年が煙の中から僕へ向かって直進してきていた。青年が突き出す拳が僕のお腹へと飛んでくる。後ろへ咄嗟に飛んだ僕はぎりぎりで青年の拳を回避できそうだった。しかし、次の瞬間青年の拳の力とは思えないほどの衝撃がお腹に走る。僕の体は宙を浮き、物凄いスピードで後方へ吹き飛んだ。一撃で僕のあばら骨が数本おれた。僕は青年の拳をぎりぎりで回避できていたはずなのに物凄いダメージを受けた。僕と同じ風?そんな僕の思考を一瞬でかき消すほどの衝撃が背中に走る。何かにぶつかったのではなく、何かに背中を殴られた様な衝撃だった。あまりの衝撃に一瞬、意識が飛ぶ。
 強打した物にもたれかかった僕は後ろを確認する。何もないはずなのに何かがそこにあった。目には見えないが確かにそこにある物体にもたれかかっていた。なんだ…これは。
 その時、青年から発せられた小さな覇気を感じ取り、僕は我に返ったように前方へ向き直った。青年の拳はもう目の前まで迫っていた。そして青年の拳の前にある何かとてつもなく固い透明な物が僕の皮膚を、肉を、骨を、顔を押しつぶした。
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