第43話 球技大会

文字数 2,284文字

 カイトは一日中体操服を着て過ごすことに少しの違和感を感じつつも、これから始まる球技大会に胸を躍らせていた。
 いつもの教室の一角に、藍を除いた五人組が集まる。そこにはトーナメント戦の紙を見ながら会話を楽しむ、見慣れた光景が広がっていた。
「目指すは優勝。あーたのしみだな!」
「学年総当たりなんですね」
 ため息交じりの声で言う駿の肩に腕を回し、力強く抱き寄せると自信満々にカイトは言う。
「勝てる勝てる。俺と駿のコンビネーションならな!それにしても、藍のやつはもったいないな。優勝に立ち会えないなんて」
「暑苦しいですって」
 言葉を聞き流すカイトは、駿から離れることはなかった。
 あっという間に試合は過ぎていき、男子バレーは決勝まで勝ち上がった。
 カイトと駿は試合後すぐに、現在進行形で行われえている準決勝の女子バスケを応援しに行く。
 しかし、着いた時にはほぼ決着は付いたようなものだった。夏希の活躍虚しく準決勝で敗退してしまった。
 ただこの球技大会でのMVPを上げるとしたら間違いなく夏希だろう。クラスの女子は涙を流すほど、夏希の頑張っている姿はとても美しく綺麗だった。その為か、夏希のファンクラブのようなものが女子の間で出来上がっていた。
 カイトは駿の言葉に押され、夏希を出迎えに向かった。
 体育館の入り口で中から出てくる夏希に、カイトはいつもの様に声をかける。
「よ!お疲れ、凄かったぜ」
「ありがとう」
「女子の間で夏希のファンクラブみたいなものができてたぞ」
「なにそれ」
 疲れているのだろうか。
 かすれた笑い声からか、どことなく浮かない顔をしているようにも見える。もしかすると、ファンクラブが嫌だったのだろうか。
 カイトがもう一度声をかけようとすると、夏希が遮った。
「二人きりで……ちょっと話せる」
 どこか暗い顔で遠くを見ている夏希は静かな声でつぶやいた。

 二人で人気のいない場所へと移動したカイトと夏希。
 その場で話を切り出したのは夏希からだった。
「覚えてるあの二人?紗香をいじめてた先輩たち」
 すぐに孝蔵と周磨の事だと分かったカイトは重い声でうなずいた。
「ああ」
「その二人がまた別の子をいじめてるみたいなの。話したとはないけど、隣のクラスの西条たから。その子、静かで落ち着いた子だけど、明らかに顔色が悪いの。ちょっと目に着いたから心配して声かけたんだけど、何ともないって。でも、その子私が声をかけた時手がひどく震えてた。絶対に何かあるって思ってたら、今日……あの二人の後に着いて行くのが見えたの」
 カイトは隠すこともなく怒りを態度に表すが、それを夏希は許さない。
「あいつら」
「ちょっとあんた、なんで二人きりになったか分からないの?紗香と駿に気を使ってよ。私ひとりじゃどうにもできないと思って……」
「ああ……わるい。でもあいつらは絶対許さない」
「ええ、同感。私もう一度たからさんに声かけてみる。少しでも力に……心の支えになれるように」

 体育館の二階から他の生徒と同じように観戦していた駿は、ふと下の階の体育館入口の方へと目線を向けた。
 すると、体育館を出ようとしていた夏希さんをカイトくんが出迎える。カイトくんにわざわざ出迎えるように促してよかったが、一つ気になることがあった。それは夏希さんのパフォーマンスの低下。
 夏希さん本来の実力なら準決勝も勝てていただろうが、どこか試合に身が入っていないような気がした。それは僕の持っている超能力で分かった。
 実際の所まだ分かっていないことも多いが、パワポとは有機物から出ているという説がある。そのため、人は皆無意識にパワポを体から垂れ流している。
 しかし、夏希さんは一般の人とは違い、常に体から出たパワポを、体の表面に膜を作るように動かしていた。これで夏希さんが超能力者かどうかは分からないが、少なくともパワポのコントロールがうまいことは分かる。
 だからこそ人よりも運動神経がいい――ということは以前からわかっていた。しかし、今日は普段よりもパワポの幕が薄く動きが活発ではないようだった。意識してパワポを操ってはいないからこそ、恐らく精神面の影響だと考えられる。
 駿はカイトくんと会話している夏希さんが不自然に向ける目線の先を見た。そこには、西条たからの姿があった。
 思ったよりも疲弊していることが西条たからの顔から見て取れる。
 改めて、カイトくんと夏希さんの会話に注目した。話し終えた二人はどこ変え行くようだったが、読唇術で会話を聞いていた駿は、夏希さんが西条たからを気にしていることが分かった。おそらく、そのせいでパフォーマンスが落ちた。
「はぁ……変なことに首突っ込まないでくださいよ」
 僕は愚痴を漏らしつつ、二人の後をこっそりと着いて行った。

 会話の内容を聞いていた駿は、またもやため息をこぼしてしまう。
「はぁ……めんどくさいですね」
 正義感の鬼のカイトくんが静かに隠し続けるなど、一週間すら持たなさそう。そんな事を夏希さんは考慮しなかったのだろうかと思考回路をうかがいたくなるが、その強い正義感については理解できそうにない。
 次の男子バレー、決勝戦の相手は孝蔵と周磨のチームだった。ある程度、超能力を使えていることからパワポをコントロールする力があることは分かる。それによる運動神経がよくスポーツに強くなっていることも事実だ。正直、こんな球技大会などどうでもいいと思っていたが、如何やらそう言ってはいられなくなったらしい。
 紗香さんには気にせず楽しく生活を送ってもらうために、今回ばかりは全力で試合に勝つことを決めた。
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