第35話 仲間との絆
文字数 1,846文字
木に寄りかかりスタングレネードのダメージを逃がしている藍。そこへ、七瀬さんから連絡が入る。
「石原はカナに合流しに向かってる。井坂も回復次第岡上へ向かって」
「…了解」
藍は返事と同時に重い腰を上げると、顔に手を当てながら丘上を目指した。何もできなかった苛立ちからか藍の体には力が入っていた。冷静にならなければいけないと分かってはいるつもりだが、歩くスピードは速くなる一方だった。
「七瀬、ごめんなさい…また事務処理を増やしちゃう」
「何を今更、好きに暴れなさい」
七瀬さんは殿草先輩の心配を蹴散らすように言い切った。
「じゃあ遠慮なくっ」
殿草先輩は大袈裟にも思えるほど深くしゃがみ込み、体にかかる気圧を思いきり押し返すように地面を蹴飛ばした。地面から足が離れると同時にまるで大地震のように地面は大きく揺れる。敵は皆、体を支えることができず地面にひれ伏した。まるで、空中にいる嬢王をたたえるかのように。
しかし、その中に遺憾の意を表すように、同じ目線に立っている者がいた。
名はゲルト・ファン・コズーフ。能力、予知。
その分かりやすくも簡単な能力が、無敗の名をあざ笑うかのように見据えていた。
未来を予知し超能力で足を奪おうとしていたことをわかっていたコズーフは、殿草先輩に覆いかぶさるように跳躍した。パワポを集中させた拳を弾丸のごとく打ち付ける。
大きく力を込めパワポをほぼすべて使い切ってしまっていた殿草先輩は、咄嗟に残っていたすべてのパワポを両腕に集中させ受け止めた。
バンッ‼
森の中に空気が一瞬で圧縮された音が爆発音のように響きわたる。そして、高レベルの超能力者のパワポのぶつかり合いが空中で大きな衝撃波を生み出した。
力は互角。ほとんどのパワポを使い切っていたはずにも関わらず、受け止められたことにコズーフは驚いていた。伊達ではないということか……とでも言っているかのように止られている拳を見て不気味に笑った。
「ああ、面白い……もっとだ…………もっと見せてみろ‼」
高揚した叫び声とともに、体全体を押し込んでくるような暴力的な圧が殿草先輩の体を襲う。受け止めきることができないまま、地面へと向かって押し込まれる。飛来した隕石のように、コズーフはそのまま建物に向かって押し込んだ。
その衝撃によって二人を巻き込むように建物は崩落する。崩落によって立ち込める砂煙が二人の状況を隠す。毒ガスと混じり、煙の濃さは一層深くなっていた。
ドンッ‼
そんな大きな音が立ち込める煙の中から聞こえるやいなや、何かが空中を舞った。
それはコズーフだった。まるで吊り上げられた魚のように、お腹を上へ向け口を大きく開けている。
煙の中から花火の如く飛び出し、空中で静止した殿草先輩はコズーフを蹴り飛ばす。
仲間の一人が地面に打ち付けられるコズーフをかばうために受けとめるが、勢いを殺せず、そのまま木へと激突した。
コズーフは右耳に力なく手を添え味方に命令を下す。
「相手は本物だ。俺一人では運が良くても相打ちがいい所だろう。死ぬかもしれん、それでも着いてくるか?」
その問いかけに、イヤホン越しからコズーフには聞きなれた男たちの渋い笑い声が返ってくる。
「なにをいまさら」
「ええ…もちろん」
「いつもそうでしょーが」
「この世界はいつだってそうですよ」
「今まで何回死線を超えてきたと思ってるんですか」
安心……そんなものを抱いたのかもしれない。胸に宿る魂が熱く燃え上がっているのをコズーフは感じていた。
「ああ……悪いな。俺たちの力を見せてやろうじゃねぇか」
すべてのやり取りが聞こえていた殿草先輩だが、横やりを入れることはできなかった。それは同じ死を隣り合わせにしている仕事をしていたからかもしれない。それとも相手への同情だろうか___答えは否、同じ部隊組んでいる者としての仲間との絆。それは何事にも代えがたく大切な物。どんな時でも心の支えとなり、力を与えてくれる。
藍はまだ持ってはいないその気持ちを殿草先輩は伝えたかった。イヤホン越しから聞こえていたであろう傭兵たちの言葉に藍の反応はなかった。
その代わりに合流しようと向かってきている石原先輩が口をはさむ。
「まずいな」
その言葉に不安はなく、機微を受けたようなそんな声だった。
傭兵たちは今まで雰囲気とは打って変わり、顔に出ていた不安や恐怖はなく自信に満ち溢れている。
「ええ、ほんとに」
イヤホン越しから聞こえる殿草先輩の声は、どことなく温かく優しさがこもっていた。
「石原はカナに合流しに向かってる。井坂も回復次第岡上へ向かって」
「…了解」
藍は返事と同時に重い腰を上げると、顔に手を当てながら丘上を目指した。何もできなかった苛立ちからか藍の体には力が入っていた。冷静にならなければいけないと分かってはいるつもりだが、歩くスピードは速くなる一方だった。
「七瀬、ごめんなさい…また事務処理を増やしちゃう」
「何を今更、好きに暴れなさい」
七瀬さんは殿草先輩の心配を蹴散らすように言い切った。
「じゃあ遠慮なくっ」
殿草先輩は大袈裟にも思えるほど深くしゃがみ込み、体にかかる気圧を思いきり押し返すように地面を蹴飛ばした。地面から足が離れると同時にまるで大地震のように地面は大きく揺れる。敵は皆、体を支えることができず地面にひれ伏した。まるで、空中にいる嬢王をたたえるかのように。
しかし、その中に遺憾の意を表すように、同じ目線に立っている者がいた。
名はゲルト・ファン・コズーフ。能力、予知。
その分かりやすくも簡単な能力が、無敗の名をあざ笑うかのように見据えていた。
未来を予知し超能力で足を奪おうとしていたことをわかっていたコズーフは、殿草先輩に覆いかぶさるように跳躍した。パワポを集中させた拳を弾丸のごとく打ち付ける。
大きく力を込めパワポをほぼすべて使い切ってしまっていた殿草先輩は、咄嗟に残っていたすべてのパワポを両腕に集中させ受け止めた。
バンッ‼
森の中に空気が一瞬で圧縮された音が爆発音のように響きわたる。そして、高レベルの超能力者のパワポのぶつかり合いが空中で大きな衝撃波を生み出した。
力は互角。ほとんどのパワポを使い切っていたはずにも関わらず、受け止められたことにコズーフは驚いていた。伊達ではないということか……とでも言っているかのように止られている拳を見て不気味に笑った。
「ああ、面白い……もっとだ…………もっと見せてみろ‼」
高揚した叫び声とともに、体全体を押し込んでくるような暴力的な圧が殿草先輩の体を襲う。受け止めきることができないまま、地面へと向かって押し込まれる。飛来した隕石のように、コズーフはそのまま建物に向かって押し込んだ。
その衝撃によって二人を巻き込むように建物は崩落する。崩落によって立ち込める砂煙が二人の状況を隠す。毒ガスと混じり、煙の濃さは一層深くなっていた。
ドンッ‼
そんな大きな音が立ち込める煙の中から聞こえるやいなや、何かが空中を舞った。
それはコズーフだった。まるで吊り上げられた魚のように、お腹を上へ向け口を大きく開けている。
煙の中から花火の如く飛び出し、空中で静止した殿草先輩はコズーフを蹴り飛ばす。
仲間の一人が地面に打ち付けられるコズーフをかばうために受けとめるが、勢いを殺せず、そのまま木へと激突した。
コズーフは右耳に力なく手を添え味方に命令を下す。
「相手は本物だ。俺一人では運が良くても相打ちがいい所だろう。死ぬかもしれん、それでも着いてくるか?」
その問いかけに、イヤホン越しからコズーフには聞きなれた男たちの渋い笑い声が返ってくる。
「なにをいまさら」
「ええ…もちろん」
「いつもそうでしょーが」
「この世界はいつだってそうですよ」
「今まで何回死線を超えてきたと思ってるんですか」
安心……そんなものを抱いたのかもしれない。胸に宿る魂が熱く燃え上がっているのをコズーフは感じていた。
「ああ……悪いな。俺たちの力を見せてやろうじゃねぇか」
すべてのやり取りが聞こえていた殿草先輩だが、横やりを入れることはできなかった。それは同じ死を隣り合わせにしている仕事をしていたからかもしれない。それとも相手への同情だろうか___答えは否、同じ部隊組んでいる者としての仲間との絆。それは何事にも代えがたく大切な物。どんな時でも心の支えとなり、力を与えてくれる。
藍はまだ持ってはいないその気持ちを殿草先輩は伝えたかった。イヤホン越しから聞こえていたであろう傭兵たちの言葉に藍の反応はなかった。
その代わりに合流しようと向かってきている石原先輩が口をはさむ。
「まずいな」
その言葉に不安はなく、機微を受けたようなそんな声だった。
傭兵たちは今まで雰囲気とは打って変わり、顔に出ていた不安や恐怖はなく自信に満ち溢れている。
「ええ、ほんとに」
イヤホン越しから聞こえる殿草先輩の声は、どことなく温かく優しさがこもっていた。