第13話 ルイン

文字数 2,703文字

 泣き疲れた僕は大きな振動で目が覚めた。びっくりした僕はベットから直ぐに立ち上がる。すると、急いだ様子のお父さんが僕の部屋に来て言った。
「大丈夫か」
 心配してくれてるみたいで少し嬉しいけど、少し気まずかった。けど、お父さんはさっきの事全く気にしていない様子だった。
「うん」
 僕は頷きながらすごく小さな声で言った。
 すると、また大きな衝撃が潜水艦に走った。
「多分これが最後だ」
 この潜水艦が攻撃されているのかと思ったが、お父さんの口ぶりからどうやらそうでもないらしい。
 それだけを伝えるとお父さんは操縦席に向かう。そんなお父さんの後を付いていく。ただ事ではない状況なんだろうなと感じたから。それにお父さんの後を付いって行っても何も言われなかったから。
 お父さんは操縦室で操作を行うと、潜水艦が浮上しているのを感じた。続いて、エレベーターの方へ歩いて行くお父さんの後ろを付いて行く。お父さんのと一緒にエレベーターに乗り、最上階に出た。
 外は薄暗かった。港町はいつも以上に光が付いていた。きっと祭りという行事のせいだろう。すると、お父さんが言う。
「さっきの振動は……魔導核爆弾によるものだ」
 お父さんは探り探りに言っている様だった。僕は何も聞かずお父さんの言葉を聞いた。
「この国は三つの勢力によって均衡を保っていた。覚えているか?私たちの世界で一番重要なのはなんだ」
「お金」
 僕はお父さんお問いかけに答える。お父さんは僕を見ると頷いて答えた。
「ああ、そうだ。お金を一番と考える勢力。私たちはテロ側に分けられる。二つ目は、命が一番と考えている勢力。この国の秘密組織、STCO。そして、三つ目は情報を一番と考える勢力、闇市。この三つの勢力が均衡を保っていたんだ。しかし、ある時からじわじわと闇市に均衡が傾き始めた。私は危険を感じ早々にこの国を離れ、その先で誠、お前と出会った。日本に戻ってきたのは恩師から連絡が入ったからだ」
 僕は海を見た。大きな衝撃によってできた盛り上がった海水が港町にせまっていた。騒がしい港町を僕はただ眺めるしかなかった。

「津波が来るぞー!逃げろー!」
 おじさんの大声に続くように皆高いところを目指して走っていた。
「おい、海未何してるんだよ。早く逃げるぞ!」
「そうだよ、逃げないと」
 あたりを必死に見渡している海未に、颯太とまさとが声をかける。しかし、海未には聞こえていなかった。逃げる住民の掛け声や雑音が騒がしく、二人の声は埋もれてしまう。海未の頭には昨日の誠との誓いがよみがえっていた。海未は公園に向かって走り出した、誠との約束を胸に。
 颯太とまさとは海未を追いかけようとするが、両親たちにつかまり無理やり連れてかれてしまう。
 公園に着いたが海未の他には誰もいなかった。泥水がもう海未の足を濡らしていた。
 海未は逃げることもなく、一人その公園に立ち尽くした。

 逃げ遅れた住民が次々に泥水に飲み込まれて行く。まるで地獄の様な光景だった。
 小型ドローンで取られたその映像は各テレビ番組に取り上げられ日本を震撼させていた。
 小さなアパートに母親と二人きりで住む大樹と言う高校生はテレビに映る津波の被害を、吸い込まれるように見ていた。そして、小さく声を漏らす。
「嘘だろ」

STCO 大阪 本部 
地下八階 食堂広場

「噓だろ…」
 スクリーンに映されている尋常ではない津波の被害に石原と言う男性は、思わず声を漏らす。
「本当ですね」
 そう、藍と言う男性が心無い声をかける。
「でも、必死になって戦ったてたじゃないか。ここしばらくは何も無かったのに…」
 殿草と言う女性が二人の会話に入ると腕を組みながら言った。
「バタフライエフェクトね」
「でもこれで、終わりです」
 藍の言葉に殿草が頷きながら答える。
「そう…思いましょう」
「結局、やつはどうなったんだ」
 石原の言葉に殿草は返した
「ゼティスが、永眠したと言っていたけど、それ以上は分からないわ……癪かもしれないけど信じましょ嘘はつかないし、それに一番被害を受けたのは間違えなく闇市だから」
 殿草はそれだけを言ってスクリーンに広がる異常な光景に口をつむった。

「ねえ、あれ見て…大変なことになってる」
 夏希と言う高校生は夕食中に見ていたテレビから映される映像に手が止まる。
「そうね…」
 お母さんはそう返すが、夏希の耳に入ってはいなかった。

 日本中のテレビ、大型ビジョンで津波の映像が流れていた。

「すまない…」
 僕は驚いてお父さんを見た。まさかお父さんから謝罪されるなんて、思ってもいなかったから。でもこれは仕方がないこと、僕は必死にそう思った。もし僕が港町に言ってお祭りにいったら津波に飲み込まれ死んでいた…。そうだ、そもそも皆と僕とでは住む世界が違う。あんな優しい子たちと血で汚れて汚い僕となんかが一緒にいちゃいけないんだ。そもそも僕が出会ったせいで、皆が不幸に………。
 波がちょうど港町に届き、物凄いスピードで町を飲み込んでいく。
 三人の顔が、三人の声が、四人で仲良く遊んでいた思い出が、頭の中で何回も蘇った。
 僕は真っ暗な海の中に浮かぶ黒い潜水艦の中で一人大声を上げて泣いた。真っ暗な世界で生きて来た僕が明るい灯の照らす世界にいる三人を、黒い波で飲み込んでしまった。そんな思いが僕の心を包んだ。
 その後、お父さんから簡単に話を聞いた。六芒塔は闇市全体で絶大な権力を持って支配していた。その中でも六芒塔総塔第一塔が六芒塔の中で一番力を持っていた。しかし、その第一塔に不満を抱いていた、第二塔、第三塔、第四塔が強力して勢力を伸ばし第一塔を潰そうとした。しかしそれは叶わなかった。一夜にして、第二塔、第三塔、第四塔が滅んだのだ。勢力を伸ばしてから、滅ぼすまでの一連の流れを誘導した謎の勢力がいた。謎めいたそれを第一塔はルインの悪魔と呼んだ。ルインの悪魔の行動目的は不明で、何のメリットもないようなことを繰り返し、三つの秩序と均衡をぐちゃぐちゃに崩壊させた。そのせいで日本は混沌と化していた。しかし、ある日唐突に第一塔がルインの悪魔はいなくなったと宣言した。それ以降ルインの悪魔が現れる事はなかった。
 しかし、ルインの悪魔がもたらした影響は相当なものだった。その影響は、亡くなった後もみんなが見える形として日本に甚大な被害をもたらした。それが表向きでは震災と報道された津波だった。以降その名は悪名ともに深く刻み込まれ名を呼ぶことすらはばかられるようになっていった。
 闇市の傾きから震災までのこれら一連の災厄を『ルイン』と呼び、それを起こした人物を『ルインの悪魔』と呼んだ。
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