第56話 実家

文字数 2,191文字

 立ち入り禁止区域に入った六人はしばらく街の中央を目指し瓦礫がどかされた道路を歩いた。
 外からも目えていたが、改めて目の前で見ると被害の大きさを実感させられる。
「ほらあそことあそこ、ビルが粉々に砕けてる」
 夏希が指さす場所には高い瓦礫の山ができていた。抜き出る巨大な鉄筋からも、まだ周りには残しているビルと同じものであったことが容易に想像できる。
「でもなんで他のは建物は崩れてないのに、この二つだけ……」
 紗香の疑問に皆がうねっている中、ただ一人その答えを知っている者がいた。
 藍にとってこの場所が、堂垣直樹の子どもを殺し狙われるきっかけとなった場所。だからこそ、何故二つもビルが壊れているか藍はよく知っていた。犯人は殿草先輩。
「何かが爆発してしまったのかもしれないです」
 殿草先輩の怒りが爆発したという意味ではあっているのかもしれない。
 しばらく進むと、何となく見覚えのあるような場所に出た。
「なあ、ここらへん見晴らしいいし、バラバラに行動しないか?」
 カイトの提案をこと張る理由もなく皆が適当に周りを見て回り始める。カイトは少しずつ歩くペースを速めながら、ポケットから一枚の地図を取り出した。
「やっぱりな、間違いない」
 この先に母親の家がある、そんな思いから出た言葉。早足で歩くカイトだったが気が付けば走っていた。
 目的地に着いたカイトは目の前に広がるただの瓦礫の山に手を伸ばした。
なにか、なにかあるかもしれない!その思い一心で瓦礫をどかしていると、下の方に何か光るものが見える。
「ドア?」
 瓦礫をどかすとそこに現れたのは、地下に降りる階段とその先にある分厚い鉄の扉。ゆっくりと進み近くで扉を確認してみれば、そのあまりにも丈夫な鉄の扉がこの先に何かあると言っている。
 しかしとっても何もない扉をどう開ければいいのかカイトにはわからなかった。声をかけたり体当たりしてみたりと、いろいろ試してみた結果、見覚えのあるトライアングルのマークの窪みを発見する。
「もしかして」
 ポケットから取り出したネックレスをその窪みにぴったりと挟まる。すると、青い光がそのネックレスをスキャンし少しすると、今まで一切びくともしなかった鉄の扉が横にスライドした。
 中に広がるのは研究室の様で、机の上にはたくさんの薬品と紙が無造作に置かれていた。震災の影響か、元からこうだったのか定かではない。
 紙には難しい文字がびっしりと書いてあり、カイトには何が何だかさっぱりだ。しかし、その中に見覚えのあるロゴが目に入る。さっきの扉でも見たトライアングルのマーク、他の資料にもたくさんその
 マークがついていた。そして、さらに奥に進むと一つのパソコンと額縁に入れられた家族写真が置いてあった。八歳ぐらいのカイトが父親と母親に両手を繋がれている写真。
 その時。
「カイトー!」
 夏希を始め皆が名前を呼ぶ声が聞こえてくる。急いで、額縁をポケットにしまい、近くにある資料も適当にとってその場を後にした。
 急いで皆の声のする方に行くと怒った夏希が出迎えてくれる。

 その六人の集まりを離れた所から見つめる二人の姿があった。
「ほんとうに六人でこの場所に……。どうしてそんなことまでわかったんですか」
 そう隣に立っているローブ姿の男に問いかけたのはタケルだった。
 一切の反応を示さない謎の男は深く被ったフードのせいで表情も見ることができない。
「……」
「あ、ごめんなさいへんに詮索みたいなことしちゃって。この協力関係は今回だけですもんね。でもなんでこのタイミングなんですか?」
「奴はおそらく超能力を使えない、それに周りのやつらはただの一般人だ。カイト、奴だけは警戒しておいてもいいが、所詮素人。本当の殺し合いを知らない」


「そろそろね」
 夕日が差し込む休校の教室で足を組んでいる芽瑠が教室のドアを見つめる。地面にうつ伏せになり椅子代わりになっているのは、担任の男子教師だった。
「戻り……ました」
 西条たからの震えた挨拶と同時に芽瑠の豪快な笑い声が教室に響く。
「なに、これウケるんだけど!ほんと傑作ね‼」
 西条の右腕に掴まれた紐の先にいるのは、裸にさせられ犬のように四つん這いで首輪をつけられている石橋りっかだった。虚ろな目をしている彼女の膝は、長い距離を歩かされたせいか赤くなっていた。
 そんな中、窓の外をぼーっと見つめているコノハが力ない小さな声を漏らす。
「いい情報があるの。駿って子……冷たい子なのになぜ西条を助けて孝蔵と周磨を倒したのか、わかった」
「へぇーなんなの?」
 その言葉に反応するように振り返るコノハは静かに右手を伸ばした。
 一瞬驚く芽瑠だったが、その手のひらが自分ではなく石橋に向いていると気づくと同じように彼女を見つめた。
「紗香って子が好きで守りたかったみたい」
「夏休みだからなんかあるんだろー。あ、軽くちょっかいでもかけよーってこと?」
「ええ」
 コノハの言葉と同時に石橋の瞳に光が戻り短い悲鳴を上げながら痛い膝を抱え込むようにうずくまり体を隠した。何が何だか分からないこの現状に頭が追い付かず自然と涙が両頬を伝う。
 そんな石橋は静かに近づいていくコノハに気が付くと恐怖に支配されてしまったかのように固まって動けなくなってしまった。
 コノハは向き合うようにしゃがみ込むと石橋の耳元で小さく囁いた。
「もう少し使ってあげる」
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