第40話 砕かれた藍(前)
文字数 1,571文字
藍にいきなり襲い掛かったフードの男は、右手に持った黄金色に輝く武器を押し当てる。藍はその攻撃を両手で持った槍で受け止める。謎の男と藍の鍔迫り合いが始まった。
ローブ姿の右腕から押し出される力はじわじわと力を増し、藍はその力を前に少しずつ押され始めた。片手なのにもかかわらず、両手で受け止めている藍を押し返えしていく。歯を食いしばり必死に押し返そうとするが、すさまじいパワーの前にただ無力だった。
ついには膝をつき相手の棍棒が槍もろとも藍の肩に傷をつける。きらきらと光る小さな小さな粒が肩に触れた。棍棒を形成している粒は一瞬触れただけで、藍の肩の服を破き皮をはいだ。藍は肩に感じる痛みを力にかえ、微量だが押し返えす。
攻撃受け止めることに精一杯の藍を、続く一撃が襲った。目にもとまらぬ速さで打ち込まれた蹴りが藍を貫くように撃ち込まれる。
潰されるように下へと力をかけられていた藍の体は、次に撃ち込まれたお腹への蹴り上げで、両圧から逃げるように後ろへと吹き飛ばされていく。数十メートルも空を飛んだ藍に続き、追い打ちをかけるように憎しみの籠った咆哮を上げながら飛んでくる。道路を滑り、摩擦から服は解け素肌を擦りむかせる。
しかし、藍には休んでいる場合などなかった。
聞こえてくる咆哮から、すぐそこまで迫ってきてい事を把握する。両掌を前に突き出し、高さ二メートル、幅一メートル、厚さ三十センチ程の壁を作り出す。出来上がった壁は道路に数センチの堀を作り出した。これでは見えない壁ができていることを知らせているようなもの。時間がなく、傷もおっていたがために、大雑把な配置をしてしまった。
しかし、ローブ姿の男はかわすこともなくそのまま壁へと突っ込んでくる。
相手には知られていない――そんな些細な希望は一瞬で打ち砕かれる。
明らかに目の前に見えない壁があることを理解しているようすで、その壁を殴った。光り輝く棍棒が、ドンという似ても似つかぬ重低音を響かせる。馬鹿なのか?藍は相手に対してそんな印象を抱いた。そこにあるという事がわかっている壁にたいして、回り込まずわざわざ攻撃する意味が理解できない。すべての攻撃を防ぐ、空間を隔てる――それが壁。STCO内で最も強靭な硬さを持つとされている。
見えない壁と棍棒の二回目の鍔迫り合い。今回の鍔迫り合いは先ほどと明らかに違う点があった。それは藍の壁の形成方法の違い。目の前の大きな壁は、動かす事のできない壁、すなわち一度そこに形成されればその場から消えることは無い。
フードから聞こえる雄たけびと共鳴するように、光の粒が輝きを増す。その男から溢れ出す憎悪とは真逆に、棍棒が放っている黄金色の光は全てを魅了するかのようにとても美しかった。あまりにも対照的すぎる光景に、戸惑いを隠せなかった。先ほど言っていた「バアルペオル」とは何なのか、そんな疑問が頭から抜けない。
そんな時、藍のすべての思考が一つの音に吸い寄せられた。
ピキッ
どこからか聞こえた木の枝が折れるかのような音。この戦場とはあまりにも不釣り合いだが確かに聞こえた。
ピキッ
また、同じ音が聞こえた。確かにその音は、ローブ姿の男の方から聞こえた。続けて何度か同じ音が小さく耳に届く。よく聞いてみればガラスにヒビが入る音に聞こえなくもない。
それから再び大きく音が鳴る。
ピキッ
その音で、どこから出た音かはっきりと分かった。それは、藍が作り出した壁からだった。
「ま……まさか……」
自然と出た声はほとんど掠れていてとても小さな声だった。
絶対に壊れない、藍が胸の中に無意識のうちに秘めていた揺るぎない圧倒的自信。藍の心となっていた目えない――でも途轍もなく硬い核。
バキ―――ン
聞いたこともないような甲高い音と同時に、藍の心もろとも目の前の壁が破砕した。
ローブ姿の右腕から押し出される力はじわじわと力を増し、藍はその力を前に少しずつ押され始めた。片手なのにもかかわらず、両手で受け止めている藍を押し返えしていく。歯を食いしばり必死に押し返そうとするが、すさまじいパワーの前にただ無力だった。
ついには膝をつき相手の棍棒が槍もろとも藍の肩に傷をつける。きらきらと光る小さな小さな粒が肩に触れた。棍棒を形成している粒は一瞬触れただけで、藍の肩の服を破き皮をはいだ。藍は肩に感じる痛みを力にかえ、微量だが押し返えす。
攻撃受け止めることに精一杯の藍を、続く一撃が襲った。目にもとまらぬ速さで打ち込まれた蹴りが藍を貫くように撃ち込まれる。
潰されるように下へと力をかけられていた藍の体は、次に撃ち込まれたお腹への蹴り上げで、両圧から逃げるように後ろへと吹き飛ばされていく。数十メートルも空を飛んだ藍に続き、追い打ちをかけるように憎しみの籠った咆哮を上げながら飛んでくる。道路を滑り、摩擦から服は解け素肌を擦りむかせる。
しかし、藍には休んでいる場合などなかった。
聞こえてくる咆哮から、すぐそこまで迫ってきてい事を把握する。両掌を前に突き出し、高さ二メートル、幅一メートル、厚さ三十センチ程の壁を作り出す。出来上がった壁は道路に数センチの堀を作り出した。これでは見えない壁ができていることを知らせているようなもの。時間がなく、傷もおっていたがために、大雑把な配置をしてしまった。
しかし、ローブ姿の男はかわすこともなくそのまま壁へと突っ込んでくる。
相手には知られていない――そんな些細な希望は一瞬で打ち砕かれる。
明らかに目の前に見えない壁があることを理解しているようすで、その壁を殴った。光り輝く棍棒が、ドンという似ても似つかぬ重低音を響かせる。馬鹿なのか?藍は相手に対してそんな印象を抱いた。そこにあるという事がわかっている壁にたいして、回り込まずわざわざ攻撃する意味が理解できない。すべての攻撃を防ぐ、空間を隔てる――それが壁。STCO内で最も強靭な硬さを持つとされている。
見えない壁と棍棒の二回目の鍔迫り合い。今回の鍔迫り合いは先ほどと明らかに違う点があった。それは藍の壁の形成方法の違い。目の前の大きな壁は、動かす事のできない壁、すなわち一度そこに形成されればその場から消えることは無い。
フードから聞こえる雄たけびと共鳴するように、光の粒が輝きを増す。その男から溢れ出す憎悪とは真逆に、棍棒が放っている黄金色の光は全てを魅了するかのようにとても美しかった。あまりにも対照的すぎる光景に、戸惑いを隠せなかった。先ほど言っていた「バアルペオル」とは何なのか、そんな疑問が頭から抜けない。
そんな時、藍のすべての思考が一つの音に吸い寄せられた。
ピキッ
どこからか聞こえた木の枝が折れるかのような音。この戦場とはあまりにも不釣り合いだが確かに聞こえた。
ピキッ
また、同じ音が聞こえた。確かにその音は、ローブ姿の男の方から聞こえた。続けて何度か同じ音が小さく耳に届く。よく聞いてみればガラスにヒビが入る音に聞こえなくもない。
それから再び大きく音が鳴る。
ピキッ
その音で、どこから出た音かはっきりと分かった。それは、藍が作り出した壁からだった。
「ま……まさか……」
自然と出た声はほとんど掠れていてとても小さな声だった。
絶対に壊れない、藍が胸の中に無意識のうちに秘めていた揺るぎない圧倒的自信。藍の心となっていた目えない――でも途轍もなく硬い核。
バキ―――ン
聞いたこともないような甲高い音と同時に、藍の心もろとも目の前の壁が破砕した。