第20話 あおばです!

文字数 1,873文字

 お互い席が近く俺と夏希は隣同士だった。三人とも席が固まっている。本当にに今年は運がいいなとつくづくそう思った。
それぞれ席に座ってから、体を向き合い話を始める。
「なぁ。俺の後ろは誰だろうか」
俺は誰も座っていない机を見ながら言う。
「そーね」
「名前書いてなかったですしねー」
あっさりと答える夏希に続き紗香も答える。夏希が言葉を続けた。
「普通誰も座らないなら席なんか用意されないよね」
「だよなー」


 
 成瀬と言う憎き父を殺し、母親の旧姓を継いだ赤崎駿は始業式のため東京都立星川高校の教室にいた。僕の席は一番廊下側の真ん中。授業が始まるのをぼーっと待っていた。すると丁度、前の入り口から女子二人組と男子一人が教室に入ってくる。そして、黒板の前のやり取りを見ていた。仲良さそうに話ながら自分の席へと向っていた。
その光景を頬杖をつきながら僕は眺めていた。何故そんなに彼らを見ているのかと言うと暇だったからと言うのもあるけど、あのカイトと言う男の人が昨日路地裏でチンピラに絡まれた時、遅れて助けに来た男だったから。本当に同じ学校だったという事にも驚いたけど、同じクラスの生徒だとは思いもしなかった。そして成瀬紗香と仲が良かった事に驚いた。カイトくんや夏希さんと同じクラスで良かったね…と頭の中で考えていたのは、僕自身への罪悪感を紛らわせるためだったのかも知れない。
そんな事を考えながらあの三人を見ていると一人の生徒が目の前を通る。すると、その生徒はすぐに足を止めた。どうしたんだろう?とその生徒を見た。その女子生徒は机の横にカバンをかけ椅子に座る。ただの後ろの席の女子だった。なんだろう、と思い僕は前を向こうとしたその時、彼女は笑顔を向けて声をかけてきた。
「私は越谷青薔(あおば)。今年はよろしく!」
唐突に自己紹介をされた僕は少し戸惑った。確かに僕はさっきまで彼女の事を見ていたけど、声をかけられる様な事をしたつもりない。ずっと見られていたなら声をかけられる様な事かもしれないが、ずっと見ていた訳ではない。少しだけ横目で顔を確認しただけなのだ。
僕は戸惑っている顔をしていた事に気づくとすぐに顔を戻した。
「よろしく」
返事を返した僕ははすぐに前を向いた。これ以上話をするつもりはないよと言う意思表示だった。
気付いた時には廊下は教室よりも静かになっていた。授業の始まりが近づいて来たので教室に入ったのだろう。そんな事を考えている内に、さっきいきなり声をかけてきた。青薔さんが何をしているのか少しだけ気になって後ろを向いた。本当に声をいきなりかけられた時は凄くビックリしたな。
以外にも、青薔さんは席を立った様子もなくさっきの笑顔のまま自分の机の一点を見つめていた。あの性格だから、他の人にも話かけているのかと思ったけど、そうでもないみたい。何で話かけてないのかな、何を考えているのかな。少しだけ気になった。
青薔さんは僕に気が付くと全く表情を変えることなく聞いてくる。
「なに?」
無表情…じゃない。笑ってる、笑顔…だけど、それ以外の表情がまるで読めない。まるで魂がないかのように表情が乏しい。周りから見たら普通の人。いや、それはないかもしれないけど…。笑顔で明るそうな人に見えてるんだと思うけど、僕には感情表現が乏しく見えた。
僕も人の事なんてあまり言えないけど…。声を出して自分の気持ちを上手く表現出来ないから、心の中で色々なことを考えている。青薔さんは僕の反応が無いのを見ると、首をかしげ僕の顔の前で手を振った。
「いや、何でもないです」
俺は青薔さんの攻撃から逃げるためにすぐに前を向いた。なんてすごい人だ。人の目の前で周りに生徒がいっぱい入る中で、異性の生徒が、うん、女の子が男の子にあんな行動を取ったら周りからの目線はどうなるんだろう。僕はなるべく目立ちたくない…。
チャイムが鳴り担任の男の先生が入ってきた。担任の先生は軽く自己紹介をすませ、本題に入るがごとく咳払いをする。
「それでは、転入生を紹介する」
 その言葉と同時に教室が少しざわついた。それは転入生と言う響きがそもそも聞きなれていない程、珍しいから。
すると後ろの席の青薔さんが僕の背中を叩いてきた。何なんだろうほんとこの人、と思いながら僕は振り返り青薔さんを見ると、やはり最初に会った時の笑顔を崩してはいなかった。
「ねぇねぇ、今くる転入生って私の幼なじみなの」
その言葉と同時に一人の男子生徒が入ってきて教卓の前で頭を下げた。そして、僕は青薔さんの顔を見ながら本当にこう思った。もう、何なんだろうほんとこの人は。
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