第22話 ファミマ!

文字数 2,173文字

 ファミレスに着いた俺たちは、男女に分かれ向かい合うように座る。青薔のいっていた通り空いていたため席の心配はしなくて良かったみたいだ。これならゆっくりしていっても大丈夫。みんな自分の食べたいものを注文し料理が届くのを待つ。すると、藍が口を開いた。
「あの、さっき言ってたことなんだけど、ここが空いていたのって、他のみんなが部活あったからだよね。なら、みんなは部活に入って無いってこと?」
 俺は藍に笑顔で答える。
「ああ、そーだな。俺は入ってないし、確か夏希も紗香も入ってないよな」
「そーよ」
 俺の問いかけに夏希がうなづきながら答える。藍も納得したように言う。
「そうなんだ。参考にしよと思ったけど、部活入らないのもありか」
「ならみんなで一緒に部活動体験しようよ!」
 青薔の意見はとてもいいが紗香のことが少し心配だった。夏希も紗香に寄り添うようにやさしく声をかける。話の内容までは聞こえてこなかった。しかし、少しだけ漂っていた微妙な空気を換えたのは紗香だった。
「うん、いいと思う。いい機会だしねー」
 紗香は笑いながら言った。もう乗り越えれたなら良かった、俺はそう思い一安心する。
「藍、入りたい部活あったら一緒に入ってやってもいいぜ!」
「それは助かるな、ありがとうカイト。もしいい部活見つかったら気負いなく選べるよ」
「えー!カイトずるい!私も同じ部活入りたいよ!」
 テーブルから身を乗りだし青薔が声を挟む。本当に大胆だ。紗香が青薔を落ち着かせ席に座らせる。紗香はまるで青薔の保護者みたいだ。青薔は座ると同時に紗香の手を掴み言った。
「もちろん紗香ちゃんと夏希ちゃんも入るよね!」
「え、ええ」
 戸惑いながらも紗香は青薔に答える。
「紗香がいいなら、うちもいいよ」
 青薔は二人の言葉を聞くと嬉しそうに笑った。
 すると頼んでいた料理が続々と届き、みんなでたわいのない話をしながら食べた。俺たち五人は想像以上に仲良くなっていた。皆無意識に笑いながら話していた。今年は本当に当たりだ。ご飯を食べながらみんなの話を笑いながら聞いていた俺は改めてそう思った。
 皆は食べ終わった後もたわいのない話を続けていた。気づけば外は暗くなり始めていた。そんな時だった。
「キャッ」
 女性の高い叫び声が突然店内に響いた。俺は勢いよく席を立ちあがり状況を確認する。床に倒れているアラサー女性は外を見ていた。俺も同じように外を見ると一人の男が割に合わないカバンを抱きかかえ走っていた。
 すぐに女性の元に向かった俺は声をかけた。
「大丈夫ですか?ひったくりですか?」
 女性は体を起こしながらうなずき答えた。
「ええ」
「俺に任せてください」
 俺はそう言って店を飛び出した。まだあの男の足取りはつかめる。困っている人が目の前にいてほおっておくなど俺には絶対に出来ない。急いで男の後を追いかけたが途中で見失ってしまう。だが絶対にあきらめるわけにはいかない。あの女性と、そして俺自身と約束したのだから。俺は必死になって探すと、見覚えのある男が路地裏を通っていたのがチラリと見えた。本当に運がいい。俺は急いで男の後を追う。
 進むにつれ人気が少なくなり町の音も遠くなっていく。すると奥の方から複数の男たちの声が聞こえた。
「おい、取ってこれたのかよ」
「ええ」
「これで、十万かよ。ちょれーな、おい、つけられてねえだろーな」
「あたりまえっすよ」
 俺は話し声のする場所へ飛び出した。
「おい!お前ら何してる、そのカバンかえせよ」
 二十代ぐらいの男三人が俺を睨むように立っていた。パッと見でわかるガラの悪いチンピラだ。
「あ?誰だよお前」
「子どもがこんなところいっていいのかい?」
 真ん中に立っていたリーダー格風の男は顎さしで命令する。
「めんど、お前が相手しろ」
「へいへい」
 そう命令されて前に出てきたのはカバンをひったくった男ではなくニット帽を苦ぶった男だった。
 俺はしっかりと構えを取って男を相手を待ち構える。
「あ?アニメや漫画の真似かよ」
 ニット帽の男は笑いながら近づいてくる。走ってきた俺は三人を相手にすることを考慮するとスタミナを温存しないといけない。だが、算段が全くないわけではない。父親が元軍人で小さな頃に教えて貰った、それに、空手有段の実力は持っている。だから、まずは一撃で一人仕留める。間合いに入ったと同時に回し蹴りを男の顎に食らわせた。完全になめ腐っていたニット帽の男は脳震盪で一撃で倒れた。しかし、本番はこれからだ。
「あん?」
「こいつ」
 そんな声を漏らし俺に向かい身構える。本番はこれからだ。完全に経過している。おそらく二人同時に相手にしなければいけないだろう。相手がもし超能力者なら、無能力者の俺には圧倒的に分が悪い。こいつらチンピラは力に溺れた者たちが陥りやすい世界だ。だからこそ、超能力者がいる可能性は高い。じりじりと二人同時に近づいてくる。二対一であるため正直部は悪い。
「カイトく~んいる~」
 突然、のんきな青薔の声が少し離れた所から聞こえ少し肩の力が抜ける。
 続いて数人の足音が聞こえ、飛び出してきたみんなの中で一番聞きなれた声が俺の名前を心配そうに叫ぶ。
「カイト!」
 その声は夏希の声だった。おいおいお前は知ってるだろ、俺はそんなにやわじゃないって。
 俺は夏希の顔を見て自然と笑顔がこぼれた。
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