第39話 アービス

文字数 1,313文字

 直樹は永遠と続くような暗闇の中にただ一人取り残されていた。
 直樹の足元には、人型に切り取られた紙が落ちていた。紙の中心には魔術式が描かれ弾丸の風穴があいている。
直樹は、三体目の陰陽師を倒したがそれもまた本体ではなく式紙であった。
しばらくすると徐々に周りの闇は解け始め、事の景色があらわになり始める。パワポの枯渇により結界の維持がむずかしくなったのだろう。
あらわになった空間はあの宇治橋の上ではなく、どこかの大社の中だった。どこにも入り口や窓はなく、木製の壁や柱や天井だけが見える。均等に置かれた六つのたいまつが部屋を照らしている。松明から出る日はほんものではないだろう。煙も火の粉も出てはいない。ならばこの空間そのものが、現実ではないのかと言われれば、それもまた違うだろうと考えられる。踏みしめている質感や木目、匂いが細かすぎる。確かに現実のそれを思い起こさせた。
目の前には松葉杖をついた八十過の男と、一歩下がった場所にまるで控えるように二人の男が左右に立っていた。
一人は全身装束を着た四十過ぎぐらいの男、芝吹吉秋この出雲大社の宮司である。
もう一人は、先ほど戦った陰陽師の傭兵。
 八十過ぎの男は警戒する直樹を差し置き話始める。
「すまんの、直樹。つい力を見とうなってな、ずいぶんと手洗い歓迎をしてしまった。……それにしてもずいぶんと勇ましいの、デルタA++の実力をしっかりと見れてよかった」
「……」
 聞きたいこともあったが、直樹は押し黙った。最初から全て知られ、どこまで知られているのか見当はつかないが、目の前の爺がただ物ではないことはひしひしと肌で伝わってくる。
「おお、あまりしゃべらんのも本当なんじゃな、やはり生で感じる情報も大切じゃ……おっと、すまんかったな、自己紹介が遅れた。知っての通り、こやつがこの神社の宮司、芝吹吉秋。さっき戦った傭兵でありながら陰陽師であり、土御門家現当主土御藤十郎。つよかったじゃろ」
「デルタⅮマイナスと言ったな」
 先ほどの戦闘で土御藤十郎がそれ以上の実録を持っていたのは明らかだった。
「ああ、三年前に私がこやつを買ったんじゃ。それ以来外の仕事はしておらんからの、実際の所はデルタのBぐらいかの?」
 その問いかけに答えるものは誰もいなかった。直樹もその判断が妥当だと感じていた。
「でな……わしは闇市の六芒塔、第四塔またのなはアービス」
 思いもよらない言葉に一瞬息が詰まる。こんな大物が目の前にいることも。ましてや、伊勢神宮と土御門家を、事実上支配しているだと?これでもなお、第四塔であることに驚きを隠せない。そんな思いがばれていたのか、爺は続けた。
「今は第四塔だが、もっと上であるべきなんじゃがのぉ。相変わらず総塔は一切動きを見せなければ、勢いをつけていた第二塔は急に静かになりよった。ならば、上を目指す好機が回ってきたという事じゃ、第三塔などいずれ落ちようて……。まあ、こうやってわしが直々に姿を現したのはな、それほどまでにおぬしの持ってきた巻物とおぬし自身に価値を感じたからじゃよ」
 アービスは頬を上げると、無気味な笑顔でゆっくりと言う。
「その情報と巻物……六芒塔第一塔から買ったじゃろ」
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