第4話

文字数 1,278文字

 お父さんは誠の叫び声と同時に動いた。腰を落とし、地面を蹴りあげ跳躍する。貧困層の格好をした男の胸元まで移動するのは一瞬の出来事だった。あまりの速さと常人では不可能に近い身の動きに、全員の反応が遅れる。貧困層の格好をした男は歯を食いしばりながら、何とか動きに追いつこうと、身を引き右手に掴んでいた拳銃を直樹へと向ける。しかし、既に目の前にいるお父さんは貧困層の格好をした男の右手の拳銃を左手で上へと弾き飛ばす。
 同時に、もう片方の左手を首へ伸ばし、がっちりと掴んでから地面へ叩きつける。誠には、それまでの流れがあまりにも綺麗で、一連の流れのように感じられた。見入ってしまっていた。しかし、誠を捕えていた二人の兵士はそんな事はなかった。肩にかけられていたアサルトライフルをお父さんに向けて構えすぐに発砲する。しかし、もうそこには誰もいない。お父さんは、止まることなく地面に着いていた右手で大きくバク転し、空中を舞っていた。二人の兵士は直樹をおうように上に向け撃ち続けるが、空気をさくだけ。
 そこで、貧困層の格好した男が何とか上半身だけを起こしながら必死に叫んだ。
「そいつは能力者だ!今すぐアーマーを起動しろ!!
 しかし、時すでに遅かった。
 お父さんは、バク転中に空中にあった銃を右手で掴み、そのまま敵の兵士二人の間に着地した。一人の兵士が構えていたアサルトライフルを左手で抱え込むように掴む。空いている右手の拳銃で兵士の頭をゼロ距離で撃ち抜き、左手で持っていたアサルトライフルを隣にいるもう一人の兵士へ乱射する。二人の兵士はそのまま倒れた。それは、二人の兵士の間に着地してから、一瞬の出来事だった。誠には何が起きたのか理解出来なかった。お父さんは左手に持っているアサルトライフルを地面に捨て、誠の方へとお父さんが歩いてくる。
 助かった、お父さんと呼べた。嬉しい事が重なり、心の中のしこりが取れ、涙の歯止めが効かなくなった。今までの想いが涙を溢れさせる。お父さんは僕の目の前まで来るとしゃがみこみ僕と同じ目線に並ぶ。そして、いつものように顔の表情を変えることなく、僕の右手を優しく持ち傷の確認をしてくれる。


 貧困層の格好した男は、お父さんの一連の動きをしっかり捉えていた。
 立ち上がる事すら出来ない貧困層の格好した男の前に立つ、子どもの父親と思われるその男。
 一切顔の表情が変わるの事のない、まるで当然の結果かのような表情になにも言葉が出ない。こんなにも呆気なく死ぬのか。力の差が圧倒的過ぎる。こんなやつがなんでこんな所にいる。そんな思いが頭をよぎるが、男の向けた目線に答えがあった。
 ああ、息子か。その子の練習台だったって事か。その事がわかったら、情けなくなってきた。
 しかし、この状況の中で、また別の感情が湧き上がってくる。このままで終わってたまるか。一矢報いてやる。感情が爆発し、体の 中止から無限に力がこみ上げ、体を突き動かす。
「しねぇぇぇえええええ!!!」
 貧困層の格好した男は、最後の力を咆哮に乗せ後ろポケットにしまってあった手榴弾に手を伸ばす。
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