第58話 死

文字数 2,014文字

 次の日も同じように立ち入り禁止区域に入る。
 行く前にまとめた昨日の情報で今日はどこを重点的に調べるか決めていた。六人揃ってたわいのない会話をしながら一緒に調査を行っていると、どこからか幼い少年の声が聞こえてくる。
 それ気付いたのはカイトだった、声のする方に急いで駆けて行く。カイトの様子で声に気が付いた他のみんなも追いかけるようにして、急いでついて言った。
 そこにいたのは怪我をしたのか痛がるように膝を抱えしゃがみ込む少年。藍はその姿を確認するや足を止めた。
 痛がって泣いている少年だがこの場にそぐわない。保護者もみあたらない。おかしな点を挙げればたくさん出てくる、そして何よりもその少年からは嫌なオーラを感じる。隠しきれていない明確な殺意。
 しかし、そんなことを知る由もなく一番にカイトが駆けて行く。
「行くな、カイト‼」
 カイトは突然の藍の怒鳴り声に驚き動きを止めたが、藍も自分がした行動に驚いた。
 いや、違う。ピンチの時、絶対に負けられない時、カイトは物凄いポテンシャルを発揮する。だから、ここで失うのは惜しいと考えたのだと自分を納得させる。
 少年は振り返ると同時に素早くナイフを伸ばした。スピード系の超能力を持っていたおかげか、人並みならぬ反射速度で回避し、後ろに差がる。カイトの反応速度はいいがやはりその後の動きが素人だ。
 少年が次に取り出したのは少し変わった形のハンドガン。魔導機具HB―TWであることは直ぐに分かった藍は大きな声でカイトに命令をだしながら駆け出した。
「その場から急いで離れろ」
 カイトは大きく後ろに跳躍すると、さっきまでいた地面が破裂するように爆発する。
 少年はカイトを追撃せずに迫ってきている藍に標的を変え引き金を引く。やはり武器自体から音はなく狙った場所が時間差で爆発する。
 間合いを詰めた藍は、素早い手つきで相手の拳銃を奪い適当に少年へ連発してからハンドガンその物を同じ法声投げえ飛ばした。
 如何に相手が傭兵であって自分が今超能力使えないといっても経験数も身体能力も低い少年の事は容易に対応することができた。
 先ほど撃った場所が連続で爆発する。少年は少し巻き込まれながらも距離を取り大きな怪我は免れた。
 右腕を抑えながら少し高い瓦礫の上に立ち藍を見下ろす少年の隣に現れたのは、見覚えのあるフードを着た男だった。
 藍と顔が向き合うと体を硬直させる程の凄惨な殺意がフードの中から溢れ出す。
「言っていたとおり藍は超能力を使えないみたいです。でも、かいとはころせませんでした」
「上出来だ、あいつは任せろ。残りは逃げ出した奴から順番に殺せ」
「はい」
 そう言って少年はカイト達を逃がさないように大きく回り込む。それと同時にローブ姿の男から微かにしたうちが聞こえる。
「藍‼」
「皆絶対に攻撃するな‼相手は殺し屋だ‼」
 青薔の悲鳴に藍が必死に叫ぶ。
「ッ‼」
 謎の男の足元にあった瓦礫を勢いよく蹴り飛ばし真っ直ぐ藍へと飛んで行く。最初は何もなかった両手の前に徐々にあの光の靄が集まってくる。以前とは違い手全体を包むように集まった光はその男とは似つかわず清らかな輝きを放つ。
 今の藍には攻撃を受け止めることも与える事もできない。この男相手には一切通用しない。
 必死に攻撃を回避している中、思いもよらない人物がこの場に現れた。
「石橋りっかさん?」
 夏希のその言葉に気を取られ、黄金色の拳が藍の体を射抜き吹き飛ばした。空中を飛んでから瓦礫の上を引きずった藍はカイト達の前まで飛ばされる。
 むせた口から血を吐き出す藍に青薔が急いで駆け寄り優しく手を添える。
 そんな中この状況に何の抵抗もなく迫ってくる隣のクラスの会長石橋りっか。
「動かないでください」
 少年の言葉も聞かずまっすぐと近づいてくるりっかは、虚ろな瞳でただ駿を見ている様だった。
「もう一度言いますよ、動かないでください」
 それでも言う事を聞かず迫ってくるりっかに少年が三十センチはありそうな刃物を向ける、
「駿」
 空疎な声が漏れ出たと同時に少年の刃がりっかを襲った。
 スーッと小さな赤い水滴が首を囲う様に滲みでて、やがて赤い筋を作り出す。
 次の瞬間、ヌルっと滑るようにりっかの顔が落ち瓦礫を転がり夏希の顔を見るようにその場で止まった。
 現実を受け止めきれず固まっていた夏希だが、近くにいた紗香が嘔吐し、それに続いて襲ってくる吐き気に口を押えた。
 すぐ近くに迫ってきていたローブの男の右手から光の靄がまっすぐと藍に伸び首を包み込む。
 そのまま持ち上げられた藍は首にかかる光をはぎ取ろうと試みるがとても引きはがせる気はしなかった。空中に体を上げられたことによって首をはねられ死んだ石橋りっかの死体が見える。
 俺も同じように死ぬのか。ここまでの人生か、悪くはなかっただろうか……いや、もう十分だろう。
 振り払おうとしていた手の力を抜き藍は静かに目を閉じ死を受け入れた。
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