第52話 天照戦2

文字数 2,926文字

「大丈夫か」
 飛来してくる夏希を受け止めたカイトが優しく話しかける。
「いてててて……え私、動けてる?」
「そうみたいだな」
 戸惑うように自分の体を確認する夏希は、カイトの体にもたれかかっていることを完全に気づかないでいた。
「これがパワポで体をコントロールするという事なのね……ってあんた何してんのよ!」
 顔を真っ赤に染め慌てた様子で声を荒げる夏希に両手を上げ戸惑った様子で答える。
「おい、ちょっと待ってくれよ」
「そうね、そんな事より早く皆の元に戻らないと」

「駿くん!」
 切羽詰まった紗香の叫び声に駿の短い返事が返ってくる。
「そのまま続けてください」
 駿はアマテラスを引き付けるように一定の距離を保ち攻撃を食らわないように専念していた。
 魔法の心得のある紗香は、駿が描いた魔法陣に意識を集中させ魔法陣を発動させようとしている。発動させるのではなく発動までのパワポを集めて欲しいと紗香は駿から聞いて行った。実際の所、紗香も初歩の初歩である簡単な重力魔法しか使えないため、地面に描かれたこんなにも複雑な魔法陣を発動するなどほぼ不可能。少しでも手助けとして、駿にお願いされたとおり魔法陣にパワポを注ぎ込んでいた。
 その間もギリギリで攻撃をかわし続ける駿に紗香はいてもたってもいられない。
「終わりました、でも私には発動出きません‼」
 その戦慄な叫び声に青薔が落ち着かせるように優しく肩に手を添えた。
「大丈夫だよー。きっと考えがあるの!ほら、あんなにも強強なんだよ!」
 軽い身のこなしでアマテラスの平手打ちの甘ワイに入らないように距離。
 アマテラスの攻撃速度と破壊力は脅威だが、孝蔵の体から離れることはできないらしく移動速度はとても遅い。孝蔵の不安定で覚束ない足取りが、アマテラスの移動速度と等速になっている。
 アマテラスの頭上から突然小さな雷が落ちる。
 大きな音と光を放つ雷は、近くの木にも飛び散り爆発音と砂煙が立ち込める。木々は裂け目から燃えはじめ、地面は黒く焦げ付いていた。
 しかし、煙の中から現れるアマテラスに傷がついている様子はない。先ほどと変わらずゆっくりと迫ってくる姿は、全く攻撃が聞いていないと揶揄している様だ。
「なんだ⁉今の雷!」「皆、大丈夫?」
 カイトと夏希の声に皆に安良の表情が戻る。
駿がすぐに、二人の間に立つと魔法陣の上に立つように誘導する。二人が魔法陣の上に立つと同時に魔法陣がすぐに強い光を放ち始める。
「紗香さんありがとう、お陰ですぐに発動できます」
 その言葉がいい終わりと同時に魔法が終わる。
 自分の体を確認する二人に駿は続けた。
「身体強化の魔法です、効果は五分しかありませんがどうか、お願いします」
 駿からの頼みごとにカイトと夏希の顔に笑顔がこぼれる。
「おお」「ええ」
 二人は同時に振り返りアマテラスの方へ振り替えると、カイトは強くこぶしを手のひらへと打ち付け小さな声で言った。
「いま、助けてやっからな」
 同時に飛び出すカイトと夏希は瞬く間にアマテラスの前へと移動する。押し返すように高速で打ち出されるアマテラスの平手打ちを、カイトの右拳が相殺――ではなく、弾き返した。
 さっき程とは違いアマテラスの攻撃を押し返したことに、駿は笑みを浮かべ紗香と青薔と藍は大きく目を見開いた。
 しかし、そのカイトを続く二撃目の平手打ちが襲う。攻撃力は去る者ながらその恐るべき速さにカイトも対処しきれない。
「はあああッ‼」
 短い咆哮を迸りながら打ち出された、夏希の攻撃がまたもアマテラスの攻撃をはじき返す。
「ありがとう」
「任せなさい」
 カイトと夏希は短いやり取りを澄ませ息ぴったりに同時に跳躍する。
 二人とアマテラスの均衡はしばらく続いた。カイトと夏希の攻撃は確かにアマテラスの体に当たってはいるが、攻撃が効いているのかは不明。
 以前よりもアマテラスの体を生成している光の幕が薄くなっているようにも見えるが定かではない。
 問題はカイトと夏希、二人の方だ。戦闘センスのある二人はこの戦闘で格段に動きがよくなってはいるが、スタミナが底をつきかけているのは明らかだった。
 体からは大量の汗をかき、擦り傷だらけの二人は大きく肩を揺らし空気を吸っていた。
 対するアマテラスはこの世界に定着してきたのか、より一層攻撃力と速度が増していた。それに追い打ちをかけるように、カイトと夏希にかかっていた強化魔法も切れる。
「アアアアアア―――」
 孝蔵と甲高い化け物の共鳴が響く。何かが変わると感じ取ったカイトと夏希は一旦距離を取ろうとした時、先ほどまでとは比べ物にならない速度で飛んでくるのは平手打ちではなく、拳だった。
 かわすどころか、反応すら出来なかった二人はほぼ同時に繰り出された両手の拳に打ちのめされ地面へと叩き落される。
「夏希ちゃん!」「カイト!」
 紗香と藍が同時に駆け寄った。意識は残っているようだが二人とも疲れきっていて返事すらまともに返っては来ない、まさに満身創痍。
「もう無理だ!」
「ここまでのようですね」
 藍と駿がそれぞれカイトに声をかける。カイトは咳込むと口から血を吐いた。いくら魔法で強化したからと言って明らかに体は限界に来ている。
「幸い、アマテラスの移動速度は遅い。充分逃げれる!」
 藍の言葉を否定するように無理やり体を起こすカイトは変わらぬ意思で言った。
「なら、誰があいつを救うんだ」
 アマテラスの体の中にいる孝蔵はなおも手を伸ばしゆっくりとカイトの方へ歩いていた。
「あいつらは敵だろ?なんでなんだよ!」
「ただ強くなりたかっただけだ……俺たちに勝つために。その戦いを、願いを……踏みにじることなんて俺には出来ねぇんだ。俺が勝手、救ってやらねーと、それが二人への弔いだ」
 ボロボロの体で立ち上がったカイトは今にも倒れそうだった。
「だからって、もうボロボロじゃないか!」
「ああ、そうだな。昔大切な人に言われたんだ、『怖くて逃げだしたっていい。でも、誰かを守りたい、助けたいという気持ちは持ちなさい。その気持ちが自分を何倍にも強くしてくれる』って。言葉だけは覚えていて誰に言われたかは覚えていなかったけど、今思い出したんだ。母さんが小さい頃に言ってくれた言葉、それが俺自身なんだ。貰いもんかも知んねーけど、ただ一つ確かに俺の中に残ってる大切な物なんだ」
 何も言えなくなった藍はただ黙ってカイトの背中を見つめた。
「助けを求められて助けねーなんて俺じゃねえ」
 今まで以上に力強い瞳で振り替えながら言うカイトに誰も何も声をかけられない。
 夏希だけがその瞳を知っていた、バス遠足の時と同じ目。
「大丈夫だ、俺は絶対に助けるから絶対に負けないんだぜ」
 そんな支離滅裂な言葉を自信気に笑って答えるカイトは、ボロボロな体を無理やり動かしアマテラスへと走っていった。
「カイトくん!」
 不安げな紗香の言葉に続き、皆は悲壮的な表情でカイトの背中を見つめていた。
 そんな中、夏希だけは穏やかな表情で見据えていた。
「うおおおおおおおおお!」
 カイトの魂の咆哮を消し止めるように、アマテラスは右腕を刀に見立て今までよりもさらに速い途轍もない速度でカイトはおろか地面もろとも打ち砕く。
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