第46話 偽物の西条さん

文字数 2,267文字

 西条さんのあまりの凶変ぶりに周磨は声も出せず固まっていた。
「世の中の広さも知らず毛の生えたような力しか待たない貴方たちが、どうしてこの学校で一番力を持っていると思っているの?あなたたちは弱いの」
 右手に掴んでいる構造を強引に周磨へと投げ飛ばした。絡まるように地面へと倒れ込む二人は、いまだに状況をよく状況を理化できていなそうにしていた。
「もう貴方たちの相手も飽きたから、次は容赦しないよ」
 孝蔵と周磨に西条さんの姿をした駿は冷たく言い放つと背を向け歩き出す。
「おい、写真を撮られてること忘れてるわけねえよな」
 周磨の声が後ろから聞こえる。
駿は立ち止まり振り返ると、ニヤリと嫌な笑みを浮かべている。そんなもので優位に立てたと思っているのだろう。
「で?それがどうしたの?」
「馬鹿言ってんじゃねえ!これがどうなるかわかるよな」
「わかるよ、好きにしたら?」
「何言ってんだ、お前……」
 ああ、わかりやすい馬鹿で本当に助かった。
「インターネットに上げるのが怖いんでしょ?犯罪者になるから……だからあくまで保存して脅すだけ、証拠を残さないように、逃げれるように」
 黙り込んだ二人はバツの悪い顔をするだけで何も言い返しては来ない、完全な図星だということが伺える。本当に分かりやすい。
 目にもとまらぬ速度で孝蔵と周磨の間へと移動する。素人の目には瞬間移動したようにも見えたのだろうか、すぐ隣に立っている駿の存在に気が付くのに少しの時間を有した。
「だから弱いって言ってるでしょ、あなた達は……弱いの」
「黙れええ」
「くそがああ」
 咆哮を迸りながら付く出す拳を、大きく空に飛び回避する。空中で一回転してから、綺麗に着地をすると孝蔵と周磨を見ながら地面に魔法陣を作り出す。
「だから弱いって」
 その言葉とほぼ同時に二人は自分の腕を確認する。さっきまで駿が立っていた方の腕が本来曲がるはずではない方向へと曲がっていた。パンパンに赤くはれ始める腕を抱きかかえるようにうずくまる。情けない呻き声を漏らす二人は、目をつむって必死に痛みに耐えていた。
 冷酷な声が孝蔵と周磨になおも繰り返し降り注ぐ。
「よわい……弱いんですよ……それと最後に」
 そこでより一層光の強さを増した魔法陣にようやく二人は気が付いた。本当に馬鹿だ。
「私よりも、菅崎カイトくんの方がつよいですよ」
 その言葉を最後に魔法が発動され、苦しんでいた二人は地べたへと倒れた。気絶させたのだ。情けなどではない、変に悲鳴などあげられて人が集まってきては困るからだ。

「あ、紗香……」
 夏希に対して紗香は首を横に振った。
 廊下で話している周りに生徒はほとんどいないが、騒がしい部活動の掛け声が開いた窓から風と一緒に吹き込んでくる。
「やっぱりいないのね、駿はどこ行ったのかしら。って、あれって」
 夏希が固まるように正面を見つめる。その先へ紗香もつられるように視線を向ける。
「あ、西条さんですね」
 体操服を着た西条たからは、誰かを探しているように周りをキョロキョロと見まわしていた。
 その姿を目を大きく見開きぱちくりさせている夏希からの返事は何もなかった。
「夏希ちゃん?」
「おー、夏希と紗香じゃないか」
 紗香の声をかき消すように馴染み深い低い声が廊下に響く。声の大きさから伝わる暑苦しさはいつも通りだった。夏希は、カイトが二人の相手を一人ですると言った時は少し心配だったけど、どこも怪我した様子のない姿に安心する。そして、顔にも自然と笑顔が戻っていた。
「ずいぶん早いのね、流石ね」
「ああ、それなんだが。西条さん?が現れてな、ここは私に任せてってお願いされたんだよ」
 夏希と紗香はお互い顔を見合わせると、食い入るようにカイトを睨む。
「何言ってるの?」
「もー冗談はやめてください」
「え?」
 きょとんとした顔でカイトは言葉を漏らす。
「ほら、あそこにいるでしょ」
 夏希は遠くで何か探している様子の西条さんを示す。
「何であそこに……俺は確かに体育館倉庫裏で制服を着た西条さんとあったぞ……」
 カイトが嘘を言うはずがないことが分かっている夏希と紗香は言葉に積もる。夏希も思い当たる節はあったせいでどうしても、ありえない答えへ導かれてしまう。夏希が抱いたその答えを代弁したのは思いもよらない人物だった。
「どういう事なんでしょう……」
「二人いるんだよ!きっと!」
 紗香がこぼした言葉を拾ったのは青薔だった。
 音もなく現れた青薔にみんな声を出して驚いた。意地悪に歯を見せて笑う青薔は、皆に手を振りながら西条さんの方に駆けていく。
 そして、彼女の腕を掴むと青薔はそのまま連れてきてしまった。
「今日は用事で帰るんじゃなかったの?」
「気分転換です!」
「いや、意味が分からん」
「カイトくん、理解しようとしても無駄ですよー」
「そうね、紗香の言う通りだわ。そういうものだと思いましょ」
「お、おう……」
「照れちゃうね!」
「はいはい。所で西条さんさっきまでどこにいたか聞かせてもらっていい?」
 西条さんは下を向きながら戸惑うように小さな言葉を漏らす。
「さ……い」
 あまりの小さい声に誰も聞き取ることができなかった。夏希がもう一度聞こうとすると、青薔が勢いよく挙手をし、妨げる。
「はい!三階って言ってました!」
 夏希、紗香、カイトはおろか、聞き取れないような声で言った自覚があったのか、西条さんまでもが青薔の顔を大きく見つめる。
「って言う事は……」
「ええ、間違いないわね」
 夏希とカイトは目を合わせると息をそろえて同時に言いた。
「「偽物の西条さんがいる」」
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