第9話 お風呂です。

文字数 1,227文字

 しばらくしてお父さんが部屋に来た。ベットに寝っ転がっていた僕はお父さんの方を見ながら言った。
「全然実戦じゃ使えないじゃん」
「ああ」
「えーじゃあ師匠はどうやってたのー」
「それは私にも分からない」
「もー魔法弱いじゃん!」
「魔法を実践でも使えるようにしたものが魔法機具だ」
 僕はそっぽを向いた。そんな僕の背中にお父さんは言葉を続ける。
「風呂はどうする……一人で入るか」
 僕はお父さんを見ながら涙目で大きな声で言った。
「一緒に入るー‼」
 僕はお父さんにと一緒にお風呂場に行った。お父さんが僕の服を脱がせてくれて、僕の体も洗ってくれる。一緒に湯船につかった時、僕はお父さんに聞いた。
「魔法って本当に実践では使えないの?」
「絶対ではないとは思うが難しいだろう」
 僕は初級の重力魔法を浴槽の床に発動した。十五センチほどの光を放った魔法陣が浮き上がり、少ししてから魔法陣が発動する。魔法陣の上のだけ水かさが三センチ程くぼむ。
「魔法陣を作る時間、それから発動するまで時間、とにかく時間がかかってしまう」
「魔法機具は魔法陣が埋め込まれてるんでしょ?」
「ああ。それに光を放ってしまうのも厄介だ」
「でも絶対使えないわけじゃないでしょ?」
「使い方次第かもしれないな」
「僕超能力とか持ってないから魔法練習するよ!たくさーん学んでいろんな魔法使えるようになる。そして、デメリットを吹き飛ばすぐらいの魔法使いになるね」
 僕はそう言って立ち上がるとお風呂を出る。少ししてからお父さんが上がると、僕の髪を乾かしてくれる。
 僕は部屋に戻ってからも魔法の練習を続けた。だって他にすることないし…。

 それから数日が経った。
 小さくなったエンジン音で目が覚めた僕はお父さんの部屋に向かった。ドアの窓からの覗いてもお父さんの姿はない。あ、操縦室だ!僕はそう気が付き、操縦室へ走っていく。すると丁度お父さんが操縦室から出てきた所だった。わくわく目を輝かせている僕にお父さんは言う。
「着いたぞ」
 お父さんは僕の横を通ってエレベーターがある方へ向かう。僕もお父さんの後に着いて行った。エレベーターに乗って一度も行ったことのない最上階に行く。エレベーターの扉が開くと、新鮮な空気と眩しい光が肌を刺す。咄嗟に目を隠したけどすぐに慣れ、心地よい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 最上階はベランダの様な開放的な作りになっており、床や手すりはびっしょり海水で濡れている。
 僕は久しぶりの外に興奮して手すりの所まで走った。濡れている手すりをお構いなく掴んで、少し遠くに見える陸地を指さしながら大きな声で聞いた。
「あれが目的地?」
 お父さんは黙って頷く。
「たくさん建物があるよ、港町?」
「ああ。私の故郷、日本だ」
「お父さんの故郷…日本」
 僕は初めて聞いたその言葉を口に出して、もう一度港町を見つめた。
 そんな僕にお父さんは言った
「行きたいか?」
 僕は目を輝かせながら頷くとさっきよりも、もっと大きな声で言った。
「うん‼」
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