第44話 女体化
文字数 3,131文字
孝蔵と周磨のチームをまかし優勝を勝ち取り、球技大会は無事に終わった。
放課後に入ると同時に駿は隣のクラスに行き、西条たからに声をかけた。
駿のことを何も知らない彼女は少しおどろいた顔をするも、黙って話を聞いてくれる。
「僕は隣にクラスの赤崎駿っていうんですけど、少し相談したいことがあって……孝蔵先輩と周磨先輩について」
最後の二人の名前に目の色を変えた。小刻みに震える手を掴み、西条たからの耳元で小さく囁いた。
「ちょっとだけ付き合ってください」
駿は彼女の手を引き、廊下を駆け学校を後にする。そんな西条たからの手を引く駿の姿を、紗香は廊下で見かけていた。
開けた公園に着いてから二人はベンチに並んで座る。周りに誰もいないことを一応確認してから、駿は西条さんの方へ体を向けた。
「ごめんなさい、いきなりつれだしちゃって」
「ううん、大丈夫」
小さな声で言う西条さんの表情はとても暗かった。
「さっきの話だけど。僕、実は少し前まであの二人にいじめられてたんだ。でも、そんなところを友達が助けてくれて……今度は僕の番だって思ったんだ。いきなりかもしれないけど、助けたい。だから、もし良かったら助けさせてくれないかな?」
親身な顔で心に訴えかけるように、旋律な叫び声を含むような声で言った。
それでも、恐怖にとらわれている西条さんの心はそう簡単には上を向かない、立ち向かう勇気など与えなかった。
一回の言葉で気持ちを変えることはできないことなど初めからわかっていた。別の可能性があるということを意識させることが一番の目的。
念のためにもう一押しし、保険をかけて置く。
「本当に西条さんを助けたいんです……私情も入ってるんですけど、ただやられただけじゃやですから。だから……だから、お願いします……助けさせてください」
涙を流した駿に西条さんは大きく目を見開いた。西条さんの瞳も一瞬きらりと光りを反射させる。
駿は腕で涙をぬぐいながら席を立つと、西条さんに頭を下げながらなおも続けた。
「いきなり、ごめんなさい。……そんなに直ぐに答えだせないと思うので、今日はこれで……。突き合わせてしまって、すみません。それに、……話を聞いてくれてありがとう」
瞼に涙を残したまま、満面の笑みで優しく笑って見せた。
駿は振り向きゆっくりと歩きはじめる。その背中に西条さんが声をかけてくる。
振り返ると祈るように両手で手の震えを抑えている西条さんが自信なさげに立っていた。西条さんは必死に震える声を抑えるように、涙を抑えるように、かぼそい声で言った。
「あ……ありがとう」
僕はその言葉に優しく頷き、その場を後にする。夕日が差す公園を横断しながら公園の時計を見て時間を確認する。放課後が始まってから約二時間が経とうとしていた。
「予定通り」
ぼそっと空疎な言葉だけが口からこぼれた。歩いている駿の表情に感情はなく、ただ現状認識をしているだけの機械のようだった。
西条たからは急いで学校へと引き返していた。
孝蔵と周磨に呼ばれていたのにもかかわらず、二時間以上道草をしてしまっていた。
息を切らしながら付いた体育館倉庫裏にはいつも以上にイライラしている孝蔵と周磨の姿があった。
「おせーんだよ!」
「二時間もどこ行ってやがった」
そんな質問に答えられるはずもなく、西条はただ黙るだけだった。
「あいつら不正しやがっただろ。ぜってー許さねー、死ね!」
「おい、そこに突っ立ってなんかないでさっさとこっちこい。行使しろよな、こっちはたくさんたまってんだからよ」
「暴れたらどうなるか分かってるよな」
そう言って孝蔵は西条のみぞおちに容赦ない一撃を入れる。口を大きく開け涎を垂らすと、力なく倒れ込んだ。
「おいおい、ねんじゃねーぞ。仕事してねーじゃねーか」
周磨は倒れ込んだ西条の両脇に腕を通し無理やりに立たせる。孝蔵は無抵抗な西条の体にいやらしい手を伸ばした。
次の日、駿は技術準備室に巨大な魔法陣を着ていた。教室いっぱいに書かれた魔法陣は、普通に発動するには不可能であろうと思えるほど複雑であった。駿もまた、この規模の魔法を描かずに発動するなど不可能に近いと考えていた、しかし、世の中は広い――断定だけはしない。
知識さえあれば、多彩なことができる魔法は改めて便利だと感じた。最も、下準備がないと始められないが。
魔法陣を隠すように大きな布をかぶせてから、教室に戻り、そして放課後を迎えた。
隣のクラスに行くと、西条さんから駿の方へと近寄ってくる。
西条さんは駿の前まで行くと小さな声で言った。
「助けて欲しい」
黙って頷く駿は西条さんに体操服を持って来て貰い、早足で技術準備室に向かう。西条さんと一緒に技術準備室に入り、内側のカギをかけた。
すべての窓が黒いカーテンで閉められ、施錠された薄暗い空間に西条さんは戸惑いを隠せない。
「ごめん、説明不足で……戸惑うよね、けして悪意はないから安心して」
床にかぶせた布をはがすと大きな魔法陣が姿を現す。西条さんは呆けたような顔で思わず声を漏らしてしまう。一般人がそれほどの規模の魔法を目にすることなどまずない。
「なにこれ……」
西条さんの反応は駿にとっては容易に想像できた。
「これは、容姿と声を完全に一体化させる魔法です。ですけど、効力は持っても一時間」
「そんな魔法が……それにとっても細かい」
感動しているのか、いつものよそよそしさが亡くなっていた。
「これで西条さんの容姿になった僕が孝蔵先輩と周磨先輩に会って、二度と西条さんに手出しできないようにぼっこぼこにします」
「でも、赤坂くんひとりで……」
「大丈夫です!僕強くなったのです、それに信じてくれたから来てくれたんですよね」
西条さんは何も言わずにただ頷いた。そんな西条さんに駿は重い口調で続ける。
「でも、これには一つお願いしないといけないことがあるんです。容姿をコピーできるのはあくまで体だけで……それに、魔法を発動する時にも服を脱いでもらわないと……」
「だ……だから、体操服を……」
「無理にとは言いません。……でも」
躊躇うのは容易に想像できた。断られるのは少しめんどくさいため、わざと言葉を濁すように止め、不安を煽る。
昨日わざわざ球技大会で小細工なしの実力で勝利した理由は、孝蔵と周磨をイラつかせるため。払いせに西条たからを使うのは明らかだ。だからこそ、あえて距離がある公園で話をした。外であることで、開放感を与えつつ、人の目で守られているような安心感もある。だからと言って周りに声が聞こえることは、ほぼない。
そして、希望を持たせた状態で孝蔵と周磨の元に行けば、普段よりもより一層ストレスを感じる。さらに、球技大家での敗北した孝蔵と周磨の怒りが拍車をかける。
また、今この場でこの巨大な魔法陣を見せることにより強い力を持っていることの証明となり、駿の存在がより強い希望の光となる。
「わかりました、信じます」
希望に満ちた瞳で西条さんは確かにそういった。
「ありがとうございますそれではさっそく始めましょう、服を脱いでそこに立ってください」
そう言いながら魔法陣の指定した場所へ案内する。
その後、駿もすぐに服を脱ぎはじめ少し離れた指定の場所に立つ。
裸になる駿に戸惑い暗闇でもわかるほど頬を赤くする西条さんは焦ったように早口で言う。
「な、なんで赤崎君まで」
「コピーした体を僕に投影させるんですから、僕も脱がないと……僕だって恥ずかしい思いをしますよ」
「そ、そうだね」
同じ境遇になったからか、それとも薄暗いからか、それとも駿の鍛え上げられている体を見て安心しんしたのだろうか。
「行きますよ、動かないでくださいね」
放課後に入ると同時に駿は隣のクラスに行き、西条たからに声をかけた。
駿のことを何も知らない彼女は少しおどろいた顔をするも、黙って話を聞いてくれる。
「僕は隣にクラスの赤崎駿っていうんですけど、少し相談したいことがあって……孝蔵先輩と周磨先輩について」
最後の二人の名前に目の色を変えた。小刻みに震える手を掴み、西条たからの耳元で小さく囁いた。
「ちょっとだけ付き合ってください」
駿は彼女の手を引き、廊下を駆け学校を後にする。そんな西条たからの手を引く駿の姿を、紗香は廊下で見かけていた。
開けた公園に着いてから二人はベンチに並んで座る。周りに誰もいないことを一応確認してから、駿は西条さんの方へ体を向けた。
「ごめんなさい、いきなりつれだしちゃって」
「ううん、大丈夫」
小さな声で言う西条さんの表情はとても暗かった。
「さっきの話だけど。僕、実は少し前まであの二人にいじめられてたんだ。でも、そんなところを友達が助けてくれて……今度は僕の番だって思ったんだ。いきなりかもしれないけど、助けたい。だから、もし良かったら助けさせてくれないかな?」
親身な顔で心に訴えかけるように、旋律な叫び声を含むような声で言った。
それでも、恐怖にとらわれている西条さんの心はそう簡単には上を向かない、立ち向かう勇気など与えなかった。
一回の言葉で気持ちを変えることはできないことなど初めからわかっていた。別の可能性があるということを意識させることが一番の目的。
念のためにもう一押しし、保険をかけて置く。
「本当に西条さんを助けたいんです……私情も入ってるんですけど、ただやられただけじゃやですから。だから……だから、お願いします……助けさせてください」
涙を流した駿に西条さんは大きく目を見開いた。西条さんの瞳も一瞬きらりと光りを反射させる。
駿は腕で涙をぬぐいながら席を立つと、西条さんに頭を下げながらなおも続けた。
「いきなり、ごめんなさい。……そんなに直ぐに答えだせないと思うので、今日はこれで……。突き合わせてしまって、すみません。それに、……話を聞いてくれてありがとう」
瞼に涙を残したまま、満面の笑みで優しく笑って見せた。
駿は振り向きゆっくりと歩きはじめる。その背中に西条さんが声をかけてくる。
振り返ると祈るように両手で手の震えを抑えている西条さんが自信なさげに立っていた。西条さんは必死に震える声を抑えるように、涙を抑えるように、かぼそい声で言った。
「あ……ありがとう」
僕はその言葉に優しく頷き、その場を後にする。夕日が差す公園を横断しながら公園の時計を見て時間を確認する。放課後が始まってから約二時間が経とうとしていた。
「予定通り」
ぼそっと空疎な言葉だけが口からこぼれた。歩いている駿の表情に感情はなく、ただ現状認識をしているだけの機械のようだった。
西条たからは急いで学校へと引き返していた。
孝蔵と周磨に呼ばれていたのにもかかわらず、二時間以上道草をしてしまっていた。
息を切らしながら付いた体育館倉庫裏にはいつも以上にイライラしている孝蔵と周磨の姿があった。
「おせーんだよ!」
「二時間もどこ行ってやがった」
そんな質問に答えられるはずもなく、西条はただ黙るだけだった。
「あいつら不正しやがっただろ。ぜってー許さねー、死ね!」
「おい、そこに突っ立ってなんかないでさっさとこっちこい。行使しろよな、こっちはたくさんたまってんだからよ」
「暴れたらどうなるか分かってるよな」
そう言って孝蔵は西条のみぞおちに容赦ない一撃を入れる。口を大きく開け涎を垂らすと、力なく倒れ込んだ。
「おいおい、ねんじゃねーぞ。仕事してねーじゃねーか」
周磨は倒れ込んだ西条の両脇に腕を通し無理やりに立たせる。孝蔵は無抵抗な西条の体にいやらしい手を伸ばした。
次の日、駿は技術準備室に巨大な魔法陣を着ていた。教室いっぱいに書かれた魔法陣は、普通に発動するには不可能であろうと思えるほど複雑であった。駿もまた、この規模の魔法を描かずに発動するなど不可能に近いと考えていた、しかし、世の中は広い――断定だけはしない。
知識さえあれば、多彩なことができる魔法は改めて便利だと感じた。最も、下準備がないと始められないが。
魔法陣を隠すように大きな布をかぶせてから、教室に戻り、そして放課後を迎えた。
隣のクラスに行くと、西条さんから駿の方へと近寄ってくる。
西条さんは駿の前まで行くと小さな声で言った。
「助けて欲しい」
黙って頷く駿は西条さんに体操服を持って来て貰い、早足で技術準備室に向かう。西条さんと一緒に技術準備室に入り、内側のカギをかけた。
すべての窓が黒いカーテンで閉められ、施錠された薄暗い空間に西条さんは戸惑いを隠せない。
「ごめん、説明不足で……戸惑うよね、けして悪意はないから安心して」
床にかぶせた布をはがすと大きな魔法陣が姿を現す。西条さんは呆けたような顔で思わず声を漏らしてしまう。一般人がそれほどの規模の魔法を目にすることなどまずない。
「なにこれ……」
西条さんの反応は駿にとっては容易に想像できた。
「これは、容姿と声を完全に一体化させる魔法です。ですけど、効力は持っても一時間」
「そんな魔法が……それにとっても細かい」
感動しているのか、いつものよそよそしさが亡くなっていた。
「これで西条さんの容姿になった僕が孝蔵先輩と周磨先輩に会って、二度と西条さんに手出しできないようにぼっこぼこにします」
「でも、赤坂くんひとりで……」
「大丈夫です!僕強くなったのです、それに信じてくれたから来てくれたんですよね」
西条さんは何も言わずにただ頷いた。そんな西条さんに駿は重い口調で続ける。
「でも、これには一つお願いしないといけないことがあるんです。容姿をコピーできるのはあくまで体だけで……それに、魔法を発動する時にも服を脱いでもらわないと……」
「だ……だから、体操服を……」
「無理にとは言いません。……でも」
躊躇うのは容易に想像できた。断られるのは少しめんどくさいため、わざと言葉を濁すように止め、不安を煽る。
昨日わざわざ球技大会で小細工なしの実力で勝利した理由は、孝蔵と周磨をイラつかせるため。払いせに西条たからを使うのは明らかだ。だからこそ、あえて距離がある公園で話をした。外であることで、開放感を与えつつ、人の目で守られているような安心感もある。だからと言って周りに声が聞こえることは、ほぼない。
そして、希望を持たせた状態で孝蔵と周磨の元に行けば、普段よりもより一層ストレスを感じる。さらに、球技大家での敗北した孝蔵と周磨の怒りが拍車をかける。
また、今この場でこの巨大な魔法陣を見せることにより強い力を持っていることの証明となり、駿の存在がより強い希望の光となる。
「わかりました、信じます」
希望に満ちた瞳で西条さんは確かにそういった。
「ありがとうございますそれではさっそく始めましょう、服を脱いでそこに立ってください」
そう言いながら魔法陣の指定した場所へ案内する。
その後、駿もすぐに服を脱ぎはじめ少し離れた指定の場所に立つ。
裸になる駿に戸惑い暗闇でもわかるほど頬を赤くする西条さんは焦ったように早口で言う。
「な、なんで赤崎君まで」
「コピーした体を僕に投影させるんですから、僕も脱がないと……僕だって恥ずかしい思いをしますよ」
「そ、そうだね」
同じ境遇になったからか、それとも薄暗いからか、それとも駿の鍛え上げられている体を見て安心しんしたのだろうか。
「行きますよ、動かないでくださいね」