第50話 召喚

文字数 3,123文字

 東京大神宮の前に立つ孝蔵と周磨の足元には、鏡のような水面が広がる。波紋一つ立たない水面は上空に広がる巨大な魔法陣を圧縮するように映していた。
「あいつら来るか?」
「来るだろうよ。もし来なければ迎えに行けばいい」
 あたり一帯に人払いの魔術を仕掛けているために、ここに来ないのではないかと周磨は心配していたが、孝蔵は吐き捨てるように否定した。
「早くあいつらをボコボコにしてえな」
「ああ。だが直樹さんが言っていた藍っていうやつを捉えるのも忘れるなよ。最悪殺してもいいと言っていたが」
「ああ、わかんてだよ」
 孝蔵と周磨が言い争いを始めようとした時、神門をくぐる六人の姿が見えた。
 二人は鋭利な笑みを浮かべると向き直る。
「ひとばらいのなか、よくこれたな」
 孝蔵の言葉に誰も言葉を返すことは無い。ただ睨むだけ。
「何をしている!」
 カイトの言葉に答えたのは周磨の方だった。
「だまってみてろ、面白いもんを見せてやる」
 孝蔵が中指と人差し指を同時に立てるとそのまま両手を中心へ運び印を組む。あたり一帯から次々と光の弾が浮き上がる。
 皆があたりを見渡し、この幻想的な美しい状況に見入ってしまっていた。そんな皆の意識を戻すように駿が短く言い放つ。
「人魂です」
 孝蔵がそのまま静かに目を閉じると、周磨は一枚の鏡をお腹の前でしっかりと持ち孝蔵を映す。
「何だあの鏡は」
 カイトの口から洩れ出る問を答えるの駿だ。
「八咫鏡……」
「え?あの三種の神器の……ま、まさかそんなわけ、ね」
 夏希の戸惑いの声に紗香から補足が入る。
「こんなにも肌で感じる程のパワポに、八咫鏡……。それに東京大神宮を包み込むほどの見たこともない巨大な魔法陣。何かの儀式?」
 周磨は高揚した様子でただ今起こっていることを説明した。
「おお、良く分かってんじゃねーか、これは使い魔を召喚する魔法だ」
 周囲を浮く人魂を目で捉えながら、もう一度周磨の顔をしっかりと見据え質問する。
「人魂……死界への扉は開かれているという事は妖怪……いや、英霊?」
 恐れる様子もなく問いかける紗香のその姿に、カイトは完全に克服しているのだと再確認させられていた。
 不敵に笑う頬は大きく引きあがる。まるで膨大なパワポによっているように、虚ろな目を大きく見開き言った。
「残念。更にその先、神界の扉を開けて呼び出すんだよ」
「だから、八咫鏡」
 駿の言葉を聞くと唾を吐きながら狂ったように大きな声で周磨はただ叫んだ。
「アマテラスだよ!これで……この力で……ッ!お前ら全員をぶっ飛ばして、散々力がないと馬鹿にしてきた西条をぶっ殺してやる!圧倒的な力で!完膚なきまでに!ボコボコにぃ!なんども……なんどもなんどもなんども、なんども!このに力でぶっ殺してやる!」
 力にとらわれた化身の如く、狂ったような叫び声をあげた。まるで別人のように叫び狂う周磨に、この場にいる誰しもが一歩身を引き唾をのんだ。
周磨が言い終わるや否や強さを増した光は、轟音と風圧を同時に放つ。飛ばされないように態勢を低くするのが精いっぱいだった。その中、駿は自分の足元に魔法を発動させると、風圧の抵抗を一切受けなくなった。
「駿、頼む!」
「分かってます、仮ですよ」
 そう短くつぶやくと、二人の元へと距離を詰める。
すると同時に、孝蔵と周磨を囲う様に薄い四角形の幕が出来上がった。二人から出ていた、いや、水面に映る魔法陣から出ていた音と風を全て遮断した。
 途轍もない規模の魔法だという事をカイトは改めて実感していた。
 その中で引っかかることがあった、それは藍だった。
 自分の両手を見つめ困惑している様子の藍にカイトは優しく声をかける。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。だが……ここは逃げた方がいいかもしれない」
 思いもおらない藍の言葉にカイトは食って掛かる。
「何言ってるんだよ、藍」
「相手は俺たちよりも強い、今のパワポ感じただろ」
「だからって、まだ戦ってすらないだろ」
「今の俺は……戦えないぞ。超能力が。使えないんだ」
「超能力が使えないんですか?」
 聞いたこともない言葉に駿の驚く声が聞こえる。
「ああ、ある時から。まともに使えなくなってさ……だから」
「それで俺は戦うぞ。西条を掘ってはおけない……それに孝蔵と周磨も」
 カイトに続き夏希までもが答えた。
「私ももちろん。カイトを一人になんてさせないから」
「ありがとうな」
 カイトが夏希に優しく答えると、青薔が手を上げながら元気よく答える。
「私も残る!戦えないけど!」
「私も見届けたいです」
「紗香さんが残るなら僕も残ります」
 口籠っている藍にカイトは言った。
「俺たちはみんなお前の仲間だ。仲間の力を信じようぜ」
「ああ、ただし危険になったら何が何でも逃げろ、死んだらなんの意味もない……それに一番大切なものを守れなくなる」
「何言ってんだ藍。俺に一番なんてないぞ、藍含めて全員が大切なんだ、誰も死なせない」
「馬鹿だろ」
「何を今更」
 カイトは歯をみせて笑った。
 しかし、カイトの気持ちが藍にはどうしても理解できなかった。自分が死んでは意味がない。それ以外に高い優先事項があるはずがない。生物としての欠陥だと考えていた。青薔が残るならばと、そんな理由で藍はこの場に残った。


「順当だな」
 少し離れた場所から東京大神宮に上空に広がる魔法陣を確認していた直樹は、芝吹吉秋と連絡を取り合っていた。
 すべての連絡を終え、神降ろしの最終実験が成功することを祈っていた。
 再び大きく光った魔法陣に続き、四角い結界が孝蔵と周磨を囲う様に形成しているのが、なんとなく見て取れた。
 少しし、上空の魔法陣が消えると次に結界から溢れんばかりの光が立ち込める。
 そして結界がはじけた。
 ここからでも感じる物凄いパワポの熱量に、実験の成功が伺えた。
 その時、少し離れた所からゆっくりと直樹に向かい歩いてくる一人の女性がいた。
 直樹はそちらに向き直ると、彼女のほう一定の距離を保って立ち止まると、小さな声で言いった。
「ごくろうさま、もう切るわね」
 彼女がそう一言言って、改めて直樹を睨む。
「実際に会うのは初めてだな、殿草カナ」
「こちらこそ、初めまして堂垣直樹」
「知っているぞ、STCOのAからEまでのある中でAランカー十人の中の第一位。五百人もいる戦闘員の中の第一位、またの名は『無敗の嬢王』」
「どうも。私も知ってるわよ、藍への復讐でしょ、デルタA++さん」
「ああ、あくまでも新たな目標だ」
「復讐なんかしたって、なにも報われないわよ。分かってるでしょ」
「ああ、だからあくまでも人生の暇つぶしだ」
「そう、やっぱり戦うしかないのね」
「ああ、『無敗の嬢王』」
 やけに無敗の嬢王を強調する直樹に少しの苛立ちを覚える。
「その名前で二度と呼ばないで」
「汚名だからな」
「なぜそれを……」
「自分のランクを上げるのは普段の任務での功績だが、もう一つランキング戦で勝ち上がり一気にランクと順位を上げることができる。だが、殿草カナはただ一度もランキング戦に参加したことがない。任務での功績が最優先されるこのシステムでは、ランキング戦に出なくともAランクの一位の在位座り続けることができる。そのせいで、おなじAランカーから嫌われ、その流れは全ランカー全体へと伝わった。そして出来た汚名が一度も戦わないお姫様という意味で『無敗の嬢王』」
「そうね、その名前、昔は嫌いだったわ。でも石原颯来がその気持ちを変えてくれた。その実力は本物だと言ってくれた、だから、私は一度も負けない。『無敗の嬢王』名に懸けて!」
 その言葉と同時にあたりに爆音が響き渡る。彗星の如く飛来する殿草先輩の攻撃を無駄のない動きですれすれな所で回避した。
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