第42話 計画通り

文字数 3,255文字

 ここ一週間観察して分かったことがある。それは昼休みになると二人は別々に分かれ、孝蔵は食堂の席取り、周磨は学食の買取をしていることが分かった。以前なら食事の場所取りと買い出しは僕の仕事だった。どうやら今はパシリに使っている人はいないらしい。孝蔵と周磨に近付くものはあまりおらず、やはりみんなからも少し恐れられているようだ。まあ、悪い噂しかないからふつうか。
 昼休みに入り駿は速足で教室を出る。トイレに駆け込み、まだあたりには誰もいないないことを確認してから、個室の中で魔法を発動する。駿を中心に個室いっぱいに広がる一つの魔法陣は、強烈な光を放ち体を包み込む。
 すこししてから、光は闇魔法陣もそれに続くように消えた。手を首を軽く動かし、体にかかっているパワポを確認する。一見何の変化もないように見えるが、確かに駿の体に魔法はかかっていた。その魔法は気配遮断。
 たいして高レベルの魔法ではないが、一般人相手に十分、それに完全に気配を遮断したいわけでもない。ある程度気配を遮断できれば、あとは元々持っているスキルでどうにでもなる。
 ポケットにある紙の盗聴器を手に隠し持ち食堂へと向かう。
 気配遮断の魔法により、誰も僕に目線を向ける人はおらず、まるで僕だけがこの世界から消えてしまったかのようだ。その弊害として、廊下を歩いている生徒は躊躇なく駿に迫ってくる。人垣を縫うように早足で目的地へと向かった。
 食堂に着くとちょうど周磨が、カウンターでおぼんを受け取ろうとしていた。曲道のおばさんが皿に料理を盛りつけおぼんに乗せていく。
 孝蔵と周磨の最短ルートには人の列がある。ほとんどの生徒なら迂回していくが、周磨なら何も気にせず列の真ん中を突っ切って行くのは火を見るより明らかだった。
 駿は人をかき分けながら周磨が通るであろう場所に待機する。案の定、周磨はおぼんを受け取るとまっすぐ駿の方へと向かって歩いてくる。
 駿の隣に列に並んでいる男子生徒五人組も周磨の姿を確認すると、楽しそうな会話を一端中断させ道を開ける。それからすぐに会話に花を咲かせた。しかし、ちらちらと横目で近づいてきている周磨を確認しているのが見て取れる。皆、周磨を恐れていた。
 丁度、周磨が列を横切ろうとした時、僕は手前にいる男子生徒の肩を押し、おぼんに体をぶつけさせた。
 大きく揺れたおぼんは、スープの容器を倒し周磨の腕を軽く濡らした。振り返り周磨のおぼんを見ると一瞬で青ざめる男子生徒。ただひたすらに、何度も頭を下げて謝った。しかし、そんなことで周磨の怒りが収まるはずはなく、平謝りする男子生徒におぼんを殴りつけ怒鳴った。
 駿はその隙に、術式を仕込んだ紙を肩から滑り落とし胸ポケットの中へと入れる。目的を果たしたな駿はさっさとその場を後にした。
 その後、教室に着いてから耳に手をあて、同調を開始すると頭に直接二人の会話が入ってくる。

周磨「なぁ、そろそろ作ってもいいだろ」
孝蔵「なにいってんだ、周磨。まだ止められたばっかだろ」
周磨「あ?なんで俺たちそんなこと気にしなきゃなんねーんだよ、くそが」
孝蔵「落ち着けよ、あいつらに変に盾突いたってなんのメリットもねーだろ」
周磨「俺たちには、あの人がいんのによ!」
孝蔵「やめとけよ、少しは落ち着け。あんな雑魚相手に力借りるつもりか?それにぶつかってきた男子生徒はあいつらと同じクラスだぞ。それこそ、馬鹿見る羽目になる」
周磨「学校の中でしか居場所がねー糞どもが!」
孝蔵「なら、使い振りした道具、二人かどっちか連れてくるか?一緒にいたあの二人がいたらめんどくさいが」
周磨「ああ、いいなそれ」

 補聴器から確認した孝蔵と周磨の会話の内容はどれもたいしたことは無かった。学校を牛耳っているような孝蔵と周磨が誰のことを敵対視しているか、はっきりとは分からないが、おそらく生徒会だろう。
 簡単に今の二人の状態をまとめると、まずバックには大きな助っ人がいる。闇市とかかわっている以上、それは重々想像できる。バス遠足の時も繋がりを隠す気もなく、もんもんと表していた。それに対した力も持たないのにもかかわらず、絶対強者であるという自信。まさに虎の威を借りる狐だ。
 今回の目的の一番は周磨の機嫌を損ねさせること。
 次に新たな遊び相手を二人に与えればいいだけだの簡単なお仕事、新しい遊び相手ができれば僕たちに関わってくることはほぼない。それは僕が実体験として知っている。
 一年生の時、二人にいじめられていた紗香を助け、代わりの標的となったのは僕自身だ。

 駿はきれいな字で手紙を書き、休み時間のうちに一人の生徒の下駄箱に手紙を入れた。
 これで、仕事は全て終わり。
 駿は一応、ことの結末を確認するために三階の技術準備室へ向かった。ここは普段、教師も生徒も誰も来ない倉庫代わりとなっている教室。ここからなら、孝蔵と周磨がたまり場としている体育館倉庫裏がよく見える。逆にこの場所以外からは死角だ。
 しばらくするとそこに現れる一人の二年女子生徒、彼女の名前は西条たから。気の弱い彼女は普段は無口で一人でいることが好きだが、約束は絶対に守る扱いやすい子だ。
 彼女はあたりを見回し誰かいないか確認するが、誰も姿を現さない。そこに少しをくれて、孝蔵と周磨が現れる。
 駿はすかさず耳に手をかざし同調を開始する。

「あいつ、俺たちが出した紙なくしやがっただろ」
「ああ、それに……おいどうしたのそこの君」
 女子生徒に気付くと不敵に笑う二人は、彼女を逃がさないように囲った。西条は体を震わせ、靴を開くこともできない。流石有名人、この学校で二人を知らないのは藍ぐらいだろう。
「あいつら探しても見つかんなかったんだよなー」
 孝蔵に続いて、周磨は体育館の壁を蹴りながら続けた。
「おい、おまえもってんじゃねーのか?おい持ってるもん全部出せや、証拠見せろよ」
 男たちに彼女は震えた手で一枚の手紙を取り出した。
「あ?んなもんいらねーよ!」
 パチンッと音がなるほど力ずよく彼女の手をはじく。手紙は地面へと飛んで行き、それを孝蔵が踏みつける。西条は痛みを抑えるようにはじかれた手を抑える。
「おい、他には!」
「な……ないです」
 周磨の言葉に、西条は何とか言葉を吐き出すが、それで恐喝が終わることは無かった。
「嘘つけ」
「ほん……とうです」
 必死に絞り出した西条に不敵な笑みを向ける二人。孝蔵は笑いをこらえるようにゆっくりと口を動かした。
「あん?なら、俺たちが調べてやるよ」
 迫りくる二人の手に西条は恐怖から声もだせず、ただ怯えるだけだった。

 駿は部室に行き扉を開けるとカイトくん、藍くん、青薔さん、夏希さん、そして紗香さん……みんなが僕を出迎えてくれた。
「どこ行ってたんだよ」「待ってた」「きたー」「おそーい」「おつかれー」そんな言葉を次々と投げかけてくれた。
 孝蔵と周磨が言っていた、紙とは今日中に出さないといけない進路希望のプリントのこと。駿はそのプリントをこっそりと処分し、教室でまた書かされるようにした。これによりストレスを与え時間稼ぎをする。
 下駄箱に入れた西条たからへの手紙はラブレター。待ち合わせの場所は体育館倉庫裏で、二人を見て逃げないように先に待機してもらった。ラブレターの送り主の名前は、孝蔵と周磨が不登校に追いやった一人の男子生徒の名前。西条たからがその男子生徒の存在を知らないことは知っていた。手紙を読むことを考慮したがゆえに選んだが、結果的には必要なかった。
 僕は紗香さんの顔を見て言った。
 安心して、標的は変わったよ。しばらくはもう僕たちに関わってくることは無いと思う。
 そんな僕の心の声に返事をしているかのように、紗香さんは笑顔を見せてくれた。同じようにほほ笑みながら僕はみんなの話の中に入る。
「ごめんなさい。バス遠足やり直しの話でしたよね」
 その僕の言葉にみんなそれぞれの反応を示してくれる。僕の意識はみんなとのバーベキューの話へと切り替わっていった。

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