第6話 魔導アーマーⅤⅢです。

文字数 2,518文字

 私は、オーナーが言っていた言葉をもう一度思い出しながら自部たちのテントへ向かった。途中、逃げ遅れている人々がテントの下敷きになっているのが目に入る。しかし、私にはどうでもよかった。ただ目的のために、助けを求める声を無視し駆け抜けた。案の定、テントは焼かれ、ほとんどの資料や武器は残っていないようだった。特に魔法機具の中でも魔導アーマーⅤⅢは、魔法機具の中でも第三世代と呼ばれる。まだ試作機だが、新世代の魔法機具でかなり高価なものであった。しかし失ったものは仕方がない。
 私はテントから少し距離おとり、開けた場所に移動する。ここを襲ったのはおそらく同じ傭兵業を生業としている者たちの仕業だ。しかし、目的がはっきりしていない。雑に荒らされ、その後に放火。騒ぎを大きくするメリットが見えない。一応を隠れてはいるが、一切気配を消していないおおざっぱさ。
 目的は、私への嫌がらせか。
 すると、煙の中から一人の男が現れた。
「あれ、あの子どもは一緒じゃないのか?………おい、おーい、聞こえますかー」
 片手をグー、パー、グー、パーさせながら聞いてくる。
「まあいいよ…お前の普段の態度からしゃべんないやつって知ってたし」
それから男は首にかかっているタグを見せながら、上から目線で声をかけてくる。
「俺は、λC+(ラムダシープラス)だ。あんたは?」
 正式に傭兵と認められるとき、傭兵はそれぞれタグを渡される。そのタグが身分証明となり、いろいろな仕事を受けることができる。時にそのタグは自身の実力を示す指標としてもつかわれる。ガンマ、デルタ、ゼータ、ラムダ、シグマとランク付けされる。またランクごとにA~Eと、五段階に細かく分けられている。細かく分けられているが、男の実力がかなりあることがこれで分かった。私は黙ってタグをかざした。
「あ?ンな奴がこんなところにいるわけないだろ?お前、偽造したな?それとも…あ、売買だろ。お前こんないいもん持ってるもんな」
 そう言って、男は内側に着込んだ魔導アーマーⅤⅢが姿を現した。λⅭ+の実力で魔導アーマーⅤⅢを着られるのはかなり危ない。油断したら確実に死ぬ。
「これってレアなアーマーだろ?噂で聞いたことあるけどよ、完成してたんだな。さすが金持ちは違うね~…あの子供もすごく高値で売れそうだしな!……このアーマーも試してみたいし、決闘しおうや。さっさと殺して、あの子供も捕まえないとな。船にいるんだろ」
ニヤッと笑い、飛び込んでくる。私は横に飛び回避しつつ腰から、ハンドガンの魔法機具VF—807を通り出した。武器も魔弾も高価で普段は敵を選んでしか使わないが、今回は躊躇する理由などなかった。
 相手から一定の距離を保ちながら発砲する。一マガジンの魔弾は十二発。続けて四発発砲した。しかし、そうそうヒットはしない。体が揺れ動くため、以下に魔法機具であっても当てるのは難しい。だからと言って止まって狙ったとしたら、一瞬で間合いを詰められてしまう。それに何といっても、あのアーマーが厄介だった。
「おおすげーなこれ、かるいかるい。それにしても、お前何逃げてるんだよ」
 続けて、五発撃ちながら森の中に飛び込んだ。直樹は、木に銃口を当て固定する。そのまま飛び込んでくる男に素早く三発、発砲した。そして素早くその場から離れ、また距離を保つ。最後の魔弾が、男を捉えていたがアーマーに阻まれた。魔弾が男にあたる瞬間、薄い透明な障壁が現れ魔弾をはじいた。走って逃げながら次の策を考えていると、後ろから追いかけて来ている男が魔導アーマーⅤⅢを見ながら感心した声で言う。
「おお。すげーなこれ」
 その間にスモークを地面に置きあたり一帯の視界を奪う。そして加熱製魔高溜りを捨ててから、しゃがみこみ斜め上に大きく跳躍する。熱製魔高溜りはスモークに反応し、赤色の水泡が浮き出ると爆発した。爆風に乗って四メートルほど飛んだ直樹は、近くの木の枝に着地する。この爆発は完全に油断しきっていた男に確実に当たった。
 しかい、砂煙の中から楽観的でただただアーマーの力に感心している男の声が聞こえる。
「なんだよこれ、めちゃくちゃつえーじゃねーか」
 誠にいつか譲り渡そうと思っていたアーマーがここまで強力だと正直思ってもいなかった。ランク差など白紙に変えるほどの魔導アーマーⅤⅢの強さ。試作機のため危険もあり、師匠から譲り受けたものだった。本当に危険な時、命を捨てる覚悟ができた時のみ使えと助言されていた。
 だがここで諦めるわけにはいかない。私は電流砲圧グレネードを取り出し、三つすべてに電源を入れ投げ込んだ。かなり高価なアイテムを使っているが仕方がない。妥協しては絶対にいけない。3・2・1。
 そして心の中でカウントダウンをし、跳躍する。鋭い光が砂煙の中で三回ひかり、続いて電気の音が三回なった。周囲の木に雷の柱が飛び散る。
「おいおい、ぜんぜきかねーぞ」
 男はもはや戦闘態勢もやめ、完全に油断しきっていた。
 跳躍していた私は男の頭上に、そのまま飛び降りる。砂煙が漂う今しかもはやチャンスはなかった。展開された魔法障壁が消えたと同時に攻撃できれば。もしくは試作機ゆえの不備かエネルギー切れを狙うしかない。砂煙の先に見える男の周りには障壁は展開していなかった。
 その時、残留していた電気がアーマーへと伝い魔法障壁が男の全体を包む。私は男の頭の上に出来た魔法障壁の上で着地した。
 男は上を見上げ、私と目線を合わせる。にやりと笑うと言った。
「残念」
 男は腕を伸ばし私の足を握ろうとする。私はとっさに魔法障壁を蹴り、離れようとした。
 しかし、男も同じように跳躍し腕を伸ばしてくる。ギリギリの所で片足を掴まれた。男は地面に着地すると同時に、大きく腕を振り私の体を地面にたたきつける。むやみやたらにいろいろな方向へ腕を振り、何度も何度も地面にたたきつけた。
「ははははは、スゲーなこのアーマーはよおおお」
 叩き着けられるたびに体を捻り受け身を取って、なるべくダメージを分散させた。しかし、防戦一風で何も抵抗することができない。受け身を取ることだけは何とか続けるが、意識が朦朧とし始めた。
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