第27話 新たな生きがい。

文字数 2,423文字

 入学から一ヵ月ほどが過ぎた。先生が最後の授業をまるまる使って春のバス遠足の班決めをするように言う。それを聞いたクラスの会長が教卓に立ちそれぞれ六人班を作り班長を決めるように言った。それぞれ声をかけるために教室は一瞬で休み時間の様に騒がしくなった。それに続いて他のクラスも騒がしくなっていた。おそらく同じように班決めで盛り上がっているのだろう。ちょうど六人なので俺たちはいつものメンバーで班長の藍がクラスの会長に報告した。この行事も生徒会が行っていることを考えると忙しく大変だなと感じた。俺たちは春のバス遠足を楽しみにしながら放課後いつも通り文芸部に向かった。




 傭兵昇格試験で仲間を失いながら健は何とか無事に帰還した。健は教官にみんな戦死をしたことを伝える。教官はみんなの父親代わりだったからだ。
 教官は黙って健の話を聞き慰めた。それから、唯一父がいる誠のお父さんを訪ねた。しかし、誠のお父さん、直樹はすでにこの拠点を出て行っていったそうだった。健は直樹に謝罪と誠の死を伝えるために何とか数週間かけて手がかりを探した。そして、手がかりを何とか見つけた健は自分の気持ちにけじめをつけるためにも直樹のもとに向かった。
 直樹はまるで健が来ることを最初からわかっていたかのように簡易テントの外で出迎える。テントに入り直樹と向かい合って座る健は当時の事を赤裸々に話し、そして最後に謝った。
「ごめんなさい」
 健は顔をあげることが出来ず、ずっと机を見続けた。直樹は何も喋ることもなく、少年をただ見ているだけ。何も言わない直樹に健は恐る恐る顔を上げる。そして、そっと直樹の顔を確認するが何も表情は変わってい無かった。
「人間は簡単に死ぬ。それはあの子も理解していたはずだ。そう教えてきたからな。」
 そう言って直樹はテーブルの隅に立てかけてある写真に目線を向ける。そこには今と変わらない無表情の直樹の姿とその子供の姿が映っていた。
「関係を持てば、その分別れは辛くなる。だが、その関係に後悔だけはするな。」
 直樹の声が少しだけ優しくなっていた気した。話し終えた後は健はテントを出て新たな道を歩み始めた。その背中に直樹は声をかける。
「強く……なれ」
 直樹はそれだけを言うとテントの中へ戻っていった。健は何も言わず握った拳に力を籠め、また歩き始めた。
 直樹は被せていた布をはいだ。すると大きなパネルが姿を現す。パネルにはたくさんのタブといろいろな情報が書かれている。たくさんのタブにも顔写真や建物の写真、名前やその他情報が赤裸々に書かれていた。その一部のタブに殿草カナや石原颯来、そして小町七瀬や東京都立星川高校の写真の写ったタブが開かれていた。そして、最近新しく手に入れた情報のタブを追加表示させた。その情報は捨て駒として金で雇った低位の人間に依頼したものだった。小町七瀬がSTCOの非戦闘員であることは分かっていたが情報を取ってこれるなど期待していなかったが、どうやらうまく言ったみたいだった。
 その新しく手に入った情報をまとめる一つのタブとして真ん中に付け加える。
 直樹は誠を失って生きる意味を務失っていた。しかし、誠は亡くなってもなお直樹に新しい生きる意味を与えてくれていたのだ。
 さっき追加した真ん中のタブに映っている顔写真にターゲットとして赤丸を付ける。
 STCO部隊KSA所属、東京都立星川高校二年井坂藍の復讐、誠の敵討ち。それが直樹の新たな生きる目標になっていた。直樹は春のバス遠足の場所と日程を改めて確認した。




 いつもの部室で俺は気になっていたことを藍に聞いた。
「なあ、ぶっちゃけ藍の超能力ってなに?」
「だから教えないって」
「いいじゃねーかよ、減るもんじゃねえし」
「やだねー」
 その話を聞いていた夏希が俺に注意してくる。
「ほら、カイト。人の秘密を無理やり聞かない」
「わかったよ。…で、藍は俺よりも絶対強いだろ?俺も藍みたいに強くなりたいんだよ。なあ、わかるだろー駿」
「はい、一応…」
「うあーやっぱり超能力とかあったら、俺ももっと強くなれるのかなー」
「でも、超能力持っててもまともに使えるようになるまで、マジ大変」
「超能力使う時のパワポを動かす感覚が体の動かし方にも通じるところあるんだと思う」
「あ、そういえば駿も超能力者じゃねーかよ!ずりー」
「そうだね、魔法とか使う練習したらもっと強くなれるかもなー」
「ほんとうか?」
「パワポの流れがわかるようになると思うから、もし超能力持ってたら発動できるかもしれないですね」
「駿が言ってることはよくわからんが、強くなれるかもってことだな!よし、藍手伝え」
「え、だる。駿に聞けよー」
「どうせ暇だろ?それに、駿本読むの好きだし、運動関係は苦手だろ」
「でも、駿の超能力パワポ見ることができる能力じゃん、練習するなら駿の方がよくね?」
「たしかに!よし、駿いくぞ」
「で、でも明日遠足だよ。あんまり疲れることは…」
 藍は俺と駿に手を振りながら言った。
「おー、駿いってらっしゃーい」
「藍くん…」
「何言ってんだよ、藍も行くぞ。こん中で一番強いのは藍お前じゃねーか」
「カイト程々にしなさいよ」
 夏希が俺に注意してきた。そして、それを肯定するように藍は言う。
「ほらー」
「藍~!頑張ってね‼」
「ほら、青薔もああ言ってるしな」
「青薔ぁ…」
「駿くん無理はしなくていいですからねーカイトくんの事よろしくね」
「ああ、駿すまんな。無理はしなくていいからな」
「いいですよ、もう」
 俺は基礎の重力魔法を教えて貰った。あまり頭が良くない俺でも意外と簡単に発動できるようになった。二人の教え方がよかったから醸してない。何となくだがパワポの使い方を理解してきた俺は続けて魔法を練習した。そんなことをしている間にとっくに部活の時間は過ぎており下校時間になっていた。
 俺、藍、駿の荷物を、夏希、青薔、紗香がそれぞれ持ってきてくれた。そして、俺たちは明日を迎えた。
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