第39.5話 契約

文字数 1,439文字

 直樹はその言葉を黙秘した。
「分かっておるわ、喧嘩など売ったらわしらがゼティスに消されてしまうは…………今はじゃ」
 後半はほぼ消えそうな声でつぶやいた。
「おぬしの目的は井坂藍の抹殺じゃろ?」
 直樹はただ頷くだけ。流石は情報の闇市だ……。全てを知られていることを直樹は悟った。
「少しぐらいなら、援助してやらんこともないがのう。その巻物は出雲大社の悲願である天照大神の降臨せしめる鍵となるものだ。おぬしもそれは知っているのだろう?まあだが実際は、ほぼ未知の領域じゃ。パワーポイントの発見で、世の中には蔓延っていた神話やオカルト、それこそ霊や妖怪、神道が目に見えるものとして存在可能であると言う推論が各地で出始めているからの。海外ではその証明がとっくに行われておるわ、だから我々もと伊吹は考えているのじゃ」
 立ち替わり息吹は前に出てから一礼すると説明をはじめる。
「はい、その為にもぜひ協力させていただきたい。まず第一歩として、東京大神宮での神降ろしを……東京大神宮の方々には供物となっていただきます。無垢な少女である必要はないと考えておりますが、東京大神宮での神降ろしは、あくまで試験的な物であります。零体として神降ろしをするための柱の用意が必要になりますが、なるべく替えのきく人物がいいと思われます。ぜひ零体を召喚できた場合には直樹様の目的に使っていただきたい。かなりの戦力増強を見込めますし、われわれ六芒塔第四塔の勢力増強になりえます」
 土御藤十郎もその言葉に続ける。
「召喚された英霊は物凄い力を宿すんだ、それは、地位が高ければ高い程な。その分大きなエネルギーと技術が必要だが……。協力術式ができるから問題はないだろう。個人個人の術式を合わせて大きな魔法を発動するならわかるが、一つの巨大術式を協力してできるのは伊勢神宮の一番の力を持っている部分だ。その協力術式と零体の天照大神を、土御門家の魔法と組み合わせれば土御門家の悲願……死者蘇生も可能だ」
「私に何を望む」
「そうじゃの、わしが欲しいのはおぬしじゃ。一応、わしは陰陽師なんじゃ藤十郎から教えて貰ってな、じゃからのわしの式紙となれ」
「なっ!」「本気ですか?」
 二人は驚いている様子だが直樹には式神が何なのかいまいち理解をしていなかった。それを察したのか、藤十郎が補足をする。
「陰陽師は使い魔のような零体召喚を得意とする。その召喚する零体を式神と呼ぶ。式紙とは式神の違いは、神域の生き物であるか、単なる自分の分身体であるかだ。式神にとって主人の言葉は絶対命令となり体に刻まれるが、神域に住むために絶対に死ぬことはなく、主人が召喚すれば零体とし何度でも生き返ることができる」
 直樹は藤十郎の言葉半場でだいたい意味を理解していた。直樹は個人だ……だが、相手は団体。どうやら直樹は、単体でこの国の中枢へと入り込んでしまったようだ。
「要するに、私に死ねということだな」
 直樹は鋭い眼差しでアービスの目を指す。
 しかし、異様な笑みを浮かべるイージスはその鋭い指針すら飲み込むようにニヤついた口を開く。
「ひっひっひっ。そうじゃのぉ~、誠をその目で見れるまで待ってやっても良いぞ。じゃが契約は今澄ませるのが条件じゃ」
 契約――それはおそらく陰陽師に伝わる絶対服従の誓。
「いいだろ」
「契約成立じゃ」
 その言葉と同時に魔法陣が直樹を中心に床に広がった。とても複雑な魔法陣からあふれ出す光がアービスのしわのよった顔におぞましい笑みが浮き上がらせた。
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