第48話 目力!

文字数 1,795文字

「まじで、そんなことになってたのかよ……この学校も物騒だな」
 藍は含みを持った声で言い捨てる。
 部室に六人勢揃いでいつも通りの放課後を過ごすなか、カイトが駿にフォローされつつ藍が学校にいなかった間の話を説明した。
 藍は駿を部活に誘った時にしか、孝蔵と周磨を見てはいない。その為か、孝蔵がどんな人物なのか何も知らなかった。
コンコン
 扉をノックする音にみんなが反応し扉を向く。今まで扉をノックする人がいなかったためか、皆へんに警戒してしまっていた。
 もちろんただ一人を除いてだが、その青薔が扉に向かって大きな声で言う。
「どーぞー!」
 扉が開くといつみても凛々しく容姿の整った生徒副会長の麗華さんが姿を現した。
「失礼します」
 そう言って頭を下げる姿からも育ちの良さが滲み出ている。
 それに続いて入ってくる女性は、麗華さんに引けを取らないほど美しく可憐だった。
「ちょっとお邪魔するわね」
 顔の近くで可愛らしく小さく手を振る彼女は、生徒会長の真理愛さん。
「いえいえ……どうしてこちらに?」
 夏希の問いに真理愛さんは言葉を返すのではなく深々と頭を下げ、謝罪を返した。 
 どよめきと焦りがひしめき合い慌てる六人を気にする様子もなく。ゆっくりと顔を上げる真理愛さんは続けて謝罪の理由を説明してくれた。
「ごめんなさい迷惑かけちゃって……。孝蔵くんと周磨くんの件は本来私たちが対処しなければいけないのに、迷惑をかけてしまったわ」
「いえいえ、全然そんなことないです。迷惑なんてそんな」
 慌てた様子で否定する夏希に、真理愛さんは続けた。
「この謝罪は、生徒会校風兼風紀委員長の感謝も含まれているのよ、受け取って。それから、もう一つの意味もあるのよ」
 真理愛さんは麗華さんに目線を向けると、無言でうなずき説明をしてくれた。
「私たちは孝蔵と周磨が以前から学校を裏で牛耳っているということは耳にしていました。それは少なからずあの二人が裏社会とつながりを持っていることが分かっていたがためです。私たち生徒会でもとても入り込める内容ではありません、それに変な厄介事を買ってしまい生徒の皆さんに迷惑をこうむってしまっては、元も子もありません。しかし、今年のバス遠足で大きな事件に巻き込まれ、孝蔵と周磨がより深く裏社会との繋がりを持ったことを確信しました。それから……」
「麗華」
 真理愛さんが真剣な眼差しで離為火さんの言葉を止める。一つ上の先輩とは思えないほどの目力を感じ、目線を向けられていないみんなも思わず唾を飲み込む。
「すみません」
 頭を下げ謝罪する麗華さんは、一歩下がり身を引いた。
「これ以上深く関わらなくていいのよ。私たちがなるべく対処して、穏便に済ませるから」
 これは要するにこれ以上関わるなという、警告だろう。生徒会にとっても、俺たち六人は子どもで守るべき存在と。
 カイトは心の中でそう理解はするもいのの納得はできない。
 皆じっと見ていられない真理愛さんの瞳を、カイトだけは負けじと見つめ返していた。
そのカイトの眼差しを誰よりも知っている夏希は、止めようとするが真理愛さんに注がれる視線の前で言葉が出ない。
「それは、目の前で困ってる人がいたとしても見て見ぬふりをしろという事ですか?」
 その言葉に真理愛さんの返事はなかった。
「嫌です。困ってる人がいたら助けます。たとえどんなに絶望的でも……絶対、諦めたくはないんで」
 カイトの熱い言葉を聞いてもなお、表情を崩すことなくじっと真理愛さんは見つめてくる。気付けば力こぶしをぎゅっと握っているカイトの手に汗がじみじみと染み出ていた。
 この静寂を破ったのは真理愛さんだった。
「そう、覚悟は……できてるのね」
 真理愛さん頬を崩すとこの言葉を最後に部室を出て行った。その後に続き麗華さんも出で行くところで、ふと足を止め振り返った。
「これは独り言です。裏には裏があります」
 麗華さんはそう言うと教室を出て行った。
 それと同時に一気に緊張感から解放されたみんなは、ぷはーと息を吐き体の力を抜いた。
「目力。やば」
「ね、すごっかったねー!」
「あんた良く言い返せたわね、ほんとすごいわ」
「ああ、でも半分勢いだったから言った後はすっごい緊張したぜ」
「それでも十分凄いですよー」
「本当ですよね、熱血おそるべしです」
 それぞれが思い思いの言葉を抑圧されていた反動からか、次々と言葉が飛び出した。
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