第10話 鬼ごっこです。

文字数 2,205文字

 ボートの操縦方法を教えて貰った僕は、さっそくボートに乗って港町に向かった。街の雰囲気は今までとは違いとても穏やかで自然が綺麗だった。お昼時なのにもかかわらず人はあまり多くは見えない。年寄りが多く感じた。お父さんの故郷は今までいた場所とは全く真逆でとても裕福で平和な場所に感じた。
 この港町は、僕にとってすべてが新鮮だった。世の中の、世界の広さを身を持って体験したような感覚だった。僕はまるで迷路のように複雑に入り組んだ道を探検した。見慣れない建物、見慣れない生き物、見慣れない植物。僕はスキップしながら、いろいろな道を見て回る。すると、大きな広い空間で自分と同じ年ぐらいの子供たちを見つけた。この港町に来てから子供たちを目にしたのは初めてだった。
 何をしているのか気になった僕は、足音を殺して近寄った。二人の男の子と一人の女の子が何かをしているみたいだった。もう少し近づいて会話の内容を聞こうと思った時、この港町で何を警戒する意味があるのか、自分の行動に疑問を抱いた。僕は普通に歩いて三人に近づく。
 初めに目が合ったのは女の子だった。それに続いて二人の男の子も僕の方を見る。女の子が僕の方に駆けよると右手を前に出しながら言う。
「はじめまして私の名前は新垣海未。どこに住んでるの、ここの人?」
 僕は女の子の右手をまじまじと見つめながら考えた。どこまで言ってもいいのかと…。
 すると女の子は思い出したように出した手をひこませ、頭を搔きながら笑って言った。
「あ、名前なんて言うの?」
「誠」
 女の子は僕の顔を食いつくように様に覗き込みながら言う。
「まこと?」
 そこに後から来た男の子が声を挟む。
「だれだよ」
 三人の中でリーダーを務めていそうな気の強い男の子は海未の隣に並ぶ。その男の子の隣に遅れてきた眼鏡をかけている気の弱そうな男の子が並んだ。海未は気の強そうな男の子にオーバーな身振り手振りをしながら伝える。
「誠くんだよ!」
 海未の方を見ながら聞いた気の強そうな男の子は僕の顔を見ながら言った。
「えー髪伸ばして変なの~」
 海未は気の強そうな男の子に怒った。
「そんなこと言っちゃだめだよ!」
「本当のこと言っただけだろー」
「かわいいからいいじゃん!」
 僕そっちのけで言い争いしている。目の前で起きている光景を傍観していると、眼鏡をかけた男の子が声をかけてきた。
「僕の名前はまさとで、その人が颯太」
 そう指を指しながら自己紹介をする。
「そんなことよりもさ、鬼ごっこしようぜ!人数増えたし」
 突然、颯太が大きな声でそう言った。どうやら僕も仲間に加えられてるみたい。
「いいね!」
 海未は元気よく賛同する。皆は意気投合しているみたい。僕は皆に声をかけた。
「鬼ごっこって何?」
「え~!知らないの⁉この公園内で鬼になった人から逃げるの。で、鬼が逃げてる人に触ると、次はその人が鬼になるんだよ」
「えーお前鬼ごっこも知らねーのー。友達いなんだろー」
「またそんなこと言って」
「へっへー。お前鬼だからな、逃げろ~」
「十秒声に出して数えたら追いかけていいんだよ~」
 そう海未と颯太は逃げながら言ってくる。まさとは、何も言わずにそそくさと逃げて行った。
 十秒数えた終えた僕は足音を殺しゆっくりと歩き始めた。三人とも草木や岩陰などに隠れたようで視界には映っていない。地の利は相手の方にあるが、この公園と言われている場所はそこまで広くないので覚えてしまえば、不利はなくなる。最初逃げる時に向かっていた、草木の方に向かう。お父さんとの訓練で言われてるように、自分の気配を消し、周りの気配に敏感になる。草木の揺れる音、生活音、波の音。風に揺られた草木が何かにこすれる音が聞こえる。その方向に目線を向けると背の低い木が生えていた。
 僕は足音を立てないようにゆっくりと、でも着実に進んだ。海未の後ろ姿が見えるがこちらには気づいていないようだった。風が強くなったタイミングで前に進みなるべく音をかき消す。そして、後ろまで迫った僕は逃げ出さない海未の背中を手でそっと触れた。反応がない…。僕は海未に声をかけてみた。
「うみ」
「きゃあああああああ」
 海未は悲鳴を上げまがら広場の方へ駆け出した。僕も後に続いて追いかけると海未は足がもつれて転んでしまった。地面に倒れて足を擦りむいた海未は涙目で必死に泣くのを堪えているようだった。僕が経ったまま海未を見つめていると、他の二人も集まってくる。
「海未、大丈夫?」
 颯太は海未の背中に手を当てながら言った。まさとは僕に聞いてきた。
「何があったの?」
「一人でに転んだ」
 颯太は僕を睨むと立ち上がり、両手で胸倉をつかみながら怒鳴った。
「なんだよその態度!」
 何を怒っているのか全く分からなかった。けど、胸倉をつかんでいる颯太の手が強く握られているのがわかる。どうやら戦闘の意志があるみたい。今は魔法機具は持っていないが、命ある限り全力で挑まなければならない。
 僕は胸倉を掴んでいる颯太の両腕の間に、自分の両腕を無理やり捩じり込む。颯太の腕は簡単に外れた。僕はそのまま肘で颯太の顎を殴る。颯太は何が起きたのかわからず困惑している様だった。チャンスを見逃さない。僕はすかさず颯太の足を挟み背中から地面に倒す。
「がっは…」
 唾を吐き声にはならない声を出す。目元には涙の粒が溢れ始めていた。
 僕は颯太に跨ると顔をひたすら殴り始めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み