第17話 キサラギ20勇士

文字数 2,280文字

 カイド株式会社本社
 その前で侵入者を防ぐ任についている津崎勝利と殿草カナ。
 介入される回線でのキサラギの言葉。続いて聞こえてくる大きな爆発が最悪な現状を教える。
「聞いていたよね」
「はい」
 差し迫った殿草の言葉に勝利は黙ってうなずく
「第二塔の武装車には魔導アーマーも入っていた、それも30個。恐らく……キサラギの四天組のそれぞれの幹部含め、キサラギ組の20勇士全員がAランカー相当の実力を持っていると考えていい」
「そんなに……」
 事態の深刻さ。第二塔の勢力の大きさに驚くことしかできない。
 そんな中、新たな報告が2人に届く。
 もかを発見したこと、そして各自元の任務に専念する様にとだった。そして新たな連絡が殿草カナの元に届く。
「カナ」
「その声は、七瀬ちゃん?」
 テンションと同時に少し上がった声のトーンに勝利の目線が刺さった。
 咳ばらいで冷静さを取り戻してから殿草カナは小町七瀬の声に耳を傾ける。
「そ。石原や藍の事気にしてるかなって」
「ええ。大丈夫?」
「一応何とかね。知ってると思うけど、こっちは各尾組の本拠地を相手してるの。アーマー持ち二人もいるのよ。あの二人でアーマーもち一人を相手にして戦ってるけど、まだまだ均衡状態。流石、四手組の中で一番の優良候補ね。そっちは?」
「暇です」
「知ってる。あらかた片づけちゃったんでしょ、建造物と一緒に」
「ちょっ、え?何でそれ」
「知らない。けど、いつもの事だから引っかけて見ただけ。それよりも良かった。もかに関しては苦戦はしているらしいけど、直ぐに捕縛できると思う。Sランカーの一人も向ってることだし、時間の問題でしょう」
「そうだったの」
「それと直ぐに暇じゃなくなるか、気を引き締めて。キサラギ20勇士のうちのほとんどがそっちに向かってる。止めようと思った部隊が一瞬で壊滅させられたわ」
 迫りくる脅威と二人の仲間が今頑張って戦っている事実に今一度身を引き締める。
「大丈夫。こっちには勝利もいるから」
「そう」
 小町七瀬の声が聞こえていない勝利は問いかける。
「どうされたんですか」
「もかが抵抗してるらしいけど、Sランカーの一人が捕縛に向かったからもう大丈夫。これで流れが傾けばいいね。それと」
「ちょっと待ってください」
 勝利の食い気味の言葉に押され、殿草カナは黙り込む。
「もかに苦戦してるってことですか?」
「ええ。そうなんじゃない?」
「僕はもかと同じ学校で……。彼女はそんな戦えるような人じゃ……。あの、海里につなげることできますか?」
 差し迫った勝利に殿草カナは同調する。
「だって、七瀬ちゃん」
「聞こえてるから。はい、準備できた」
 2人の回線が海里の部隊と繋がる。
「はああぁぁあああ」
 咆哮に搔き消されない声で殿草カナが声を重ねる。
「飛山!聞こえる!殿草カナよ!」
「殿草!?何で……」
 いきなりの通信に入っている殿草に困惑する飛山。彼は石原と殿草と同期で、顔見知りだった。
「いいから。海里は無事?」
「ああ」
 戸惑う飛山の声に食い気味で海里の声が響く。
「はい!阿佐美海里です!」
「僕です、海里」
「え?勝利?どうしたのって、なんで殿草カナ先輩と一緒にいるのよ」
 元気な海里に名前の通り真優(マヒロ)が優しく声をかける。
「今の回線では皆に聞こえてますから」
 その言葉で静まり返る海里に勝利は続ける。
「僕は直属の任務があるから、もかを見つけ出して連れて来て欲しいんだ。上に報告してもその可能性を信じて貰えないかもしれないし、それに敵側に聞かれているかもしれない。彼女としっかり話して会っているのは僕らだけだから」
 海里は自身に満ち溢れた声で了承する。
「任せなさい、勝利」
「うん。任せるよ海里」
 2人の空間がその通信を支配する。
 すると、七瀬が咳ばらいをして空気を壊す。
「ごめんなさい。いい空気のところ悪いんだけど、皆聞いてるから。それと、許可なんて貰ってないからここの皆が同犯。切るよ」
 飛山の部隊から何か声が聞こえた気がしたがすぐに途絶え、勝利と殿草カナと小町七瀬の耳には届かない。
「それじゃあ切るけど、もう目の前まで迫ってるから覚悟しなさい。勝利、初めましてだけど海里を信じて戦闘に集中して」
「信じてます」
 勝利に言葉に笑みをこぼす小町七瀬は、殿草カナに最後の言葉を残す。
「カナ。後のことは、こっちに任せて好きなようにしなさい」
「ありがとう」
 殿草カナの言葉を最後に、小町七瀬の通信も切れた。
 2人は無言で顔を合わせてから頷き、向き直る。
 建物の屋根を軽々しく飛び越え、7人の入れ墨を入れた男たちが現れる。スーツを着た男たち、そこから溢れるパワポに冷や汗が止まらない。
 更に後ろから11人の男たちが飛び越え、キサラギ本社の中に入っていく。
 さすがに二人だけで止められるはずがなかった。
「残りは加恵奈に任せましょう」
「一人ですよね、Sランカーでも流石に」
「信じて任せるしかない。こっちも余裕なんてないんだから」
 その直後背後から激しい爆発音と銃声音が聞こえる。
 戦闘が始まったのはこの後すぐだった。



 もかは絶望し、その場から動けずにいた。
 道路の中央に立ち尽くすもか。
 そのもかのすぐ前にいるスーツを着た男。それはキサラギの20勇士の一人だともかにはわかる。
 もかを守るように背を向けて立つ男の前に倒れる一人の美少女。
 もかはその女性をしっている。何度も自分を救おうとし、声をかけ手を差し伸べてくれた。今だってそうだった。
 もかはただトランクを抱きかかえる。
 震える声で、友達になれるはずだった彼女の名を呼んだ。
「……かい、り。」
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