第20話 君を守ると誓ったから

文字数 1,649文字

 負傷したからだを無理矢理に起こす海里。
 もかはその姿に思わず手を伸ばす。お願いそれ以上傷つかないで。私のために傷を増やさないで。
 心の声に応えるように体に取りついていた悪魔の体が一瞬動いたような気がした。
 その瞬間、勇士の男の回し蹴りが海里の頭を打ちぬいた。海里の両手でダメージを相殺しようとするが、両手ごと持っていかれる。地面にたたきつけられる海里だが追撃はなかった。
 勇士は体勢を崩し、自分の体に振り回されるように地面に倒れる。
 海里は勇士を睨みながら、勝ち筋を考えていた。自分に向けられる攻撃戦、光の筋。その筋に海里側からパワポを流し込み、力を増幅させる代わりに軌道をずらす。
 相手からしたらいきなり自分の力が増幅するのだから、バランスを崩すのは必然。
 この窮地に海里は超能力の新たな応用が可能になった。しかし、現状を変えるにはあまりにも攻撃を受けすぎた。
 勇士は直ぐに立ち上がると、体とパワポの力を確認し海里に向き直る。恐らく今ので海里の新たな力もばれている。
 そんな時、海里の体が薄く光り始めた。その場にいる3人が驚いていた。今まで見たことのない現象に誰しもがその光景を見届ける。
 海里のする傷がたちまちふさがっていき、痛みが和らいでいく。さらに、上がっていた呼吸も落ち着き、消費していたパワポが戻っていくのがわかる。
 立ち上がり自分の体を確認する海里。
 海里は驚くように見つめるもかを見て、勇士がもかを見ているのを見て察した。
 彼女がキーである理由。彼女が特別であり、護衛を付けられた意味も。
 何とかして、現状を皆に報告したいが先ほど勇士に機械を破壊されそれはかなわない。探知系の能力を持つ目の前の勇士は海里に臨戦態勢をとる。
 先ほどとは違い確実に殺すつもりだろう。恐らく、パワポの出し惜しみはせず最短で決着をつけてくる。
 その予想通り、海里の体に複数の黄色い線は伸びる。勇士の右手に握られているハンドガンの魔導機具。
 すぐに横にずれながら距離を詰める海里。勇士はわかっていたように右手の機具を捨て、懐に入った海里を襲う。
 光の戦で軌道をずらすが、スーツで圧倒的な機動力の勇士に反応できない。直ぐに打ち出された追撃をくらい、地面をはねながら押し返される。口から血を吐きながら地面を引きずった海里は、体の骨が今の攻撃でいくつも折れているのがわかる。
 体を起こす前に既に勇士は目の前にいた。
 死を察したからか、変に時間が遅く感じる。いつの間にか拾われていた魔導器具を構え、発砲する。黄色い光の線がまっすぐ自分の瞳をとらえている。
 ——ごめん。助けなきゃいけない人に助けられて、約束も守れなかった。
 静かに目を閉じると、甲高い金属音が数発聞こえ眼を見開いた。
 死んでいなことにも驚いたが、現状にも驚いた。暖かなぬくもりが体を支えてくれている。
 男に体を抱きかかえられる海里は安心感で痛みは消えていた。
 彼の顔を見上げながら赤くなった頬からためらいもなく涙を流す。
 なぜここにいるのか、そんな海里の問いに答えるように勝利が優しい声をかけてくれる。
「君を守ると誓ったから」
 勝利は鞘を付けたままの刀を構え、勇士にまた一歩また一歩と近づいていく。
「海里を連れて、はやく逃げて!」
「大丈夫。この戦いにも勝利するよ」
 その言葉と同時に動き出した勝利、アーマーを来た勇士の攻撃に一切後れを取らずにさばいていく。しかし、流石キサラギの20勇士の一人。更に魔導アーマーを着ているだけあり、勝利が少しずつ押され始めた。
「海里!ここは僕に任せてもかを連れてって!」
「ええ」
 海里は痛む体を無理矢理に起こし、もかの震える肩に手を添える。同時に体の傷がまた修復されていくのを感じた。しかし、今回はその効力はすぐに切れ、代わりパワポがゆっくり吸われていくのを感じる。
 しかし、海里はもかから手を話すことはなかった。
「大丈夫。彼なら勝てる、私たちを信じて」
 もかは頷くことはなく、トランクを抱え黙って海里についていく。
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