第8話 藍vs真優 テレポート
文字数 2,836文字
「お前もかー。その試合の話は知ってるぜ」
勝利とレオンの一戦について石原先輩が口を開く。
「ワーストワンなんていう汚名を着せられていた少年が、自分の信じた武器で自分の力でその名前を塗り替えた。まさに男って感じでかけぇーよな。あの優等生の彼女が惚れる理由もわかるぜ。くぅーうらやましい」
藍はため息交じりにぼやく。
「はぁ、だから殿草先輩に毎回しごかれるんですよ」
「なんで殿草の奴の話になんだ?」
「別に」
なんでこの人は自分が気になっている人への好意に気が付かないんだ。そんな思いをいつもの様に飲み込み目の前の試合に注目する。
勝利はあれ以来、未だ敗北を知らない。ワーストワンと言われていたのが嘘だったかのように圧倒的な勝利を収めていた。試合を行うたびに成長し、気が付けば勝利がランキング戦で怪我をすることはなくなっていた。相手の攻撃を一撃も食らわない。完全勝利を続けている。そして、ランキングの順位は勢いよく伸びていき、この試合でⅮランカーの一桁台へ足を踏み入れる。連戦の疲労をものともせず、その戦闘スタイルはさらに研ぎ澄まされていた。
すべての攻撃をあの鞘で受けきる勝利の本気は、恐らくあの鞘を抜く瞬間だ。誰もがそう思っているが、誰もその鞘から刀を抜く瞬間を見たことがない。
「なんで、あんなに連戦できんだよ。マジで……」
「だよな。まぁ譲れない理由があるんだろ。上に行きたい理由が。って、藍そろそろ勝利と当たるんじゃねーの」
「あの調子で勝ち上がられるとそーなりますね。まぁ、負けるつもりはないですけど、今はもう一つの試合があるんでそっちに集中することにします」
「ああ。俺も元々その試合を応援しにここに来たんだしな。頑張れよ」
「先輩もですよ。僕が先に追いついてしまうかもしれませんね。なんだって今は同じCランカーなんですから」
不敵に笑い藍はその場を後にした。
そして、始まる試合。
藍Cランカー第181位vs真優(マヒロ)Cランカー第92位。
10メートル先でで向かい合う。
「初めまして、藍。僕は石原先輩の同期の飛山先輩のチームに所属してるんだ。きっと今回のマッチも何かの縁。だから正々堂々互いに全力で戦おう」
「お手柔らかに」
「はは。やっぱ先輩に似るものなのかな。石原先輩のこう入っているのがよくわかるよ、例えばどれだけ真面目か、とかね」
声色を変え鋭い目線へと変わる。行く戦の戦場を乗り越えてきた、取りに来ている眼だ。
藍はどうでもいいように相手の威圧を受け流し、代わりにやる気のない言葉を返す。
「お手柔らかにお願いしますよ、ほんとうに」
ステージ端の立つ例の少女がぬいぐるみを強く抱き寄せ、まっすぐに手のひらを伸ばし鈴の音のようにかわいい声を鳴らす。
「はじめ」
同時に空間が光に包まれ市街地ステージへと変わる。
道路の中央にいる藍はひとまず近くの二階建ての家の屋根に乗り、身をかがめながら周囲を確認する。
そして、体の周りに五面分の壁を設置することも忘れない。以前の戦いで最大三面までしか作れなかった壁は今や六面まで作れるようになっている。
今回戦う相手は真優。能力はテレポート。メインは遠・中距離攻撃で銃を使うを得意としている。
対する藍は近距離専門だ。この戦いでは基本的に相手の能力を互いに知っている。だから、藍の所見の強みもだいぶ薄れている。しかし、藍も相手がテレポート使いで銃を使うことを知っている。
まずは相手を見つけなければ。藍は周囲で一番高い建物、一つのマンションに目線を向ける。
安直だが、高所が最も相手を見つけやすく、また狙撃手がいる確率が高い。
バンッ‼
大砲にも近いほどの物凄い衝撃波と爆音が響くと同時に藍の正面に作られた壁に衝撃が走る。大きな衝撃が壁に伝わった。だが、敵があまりにも大きな発砲音のおかげでどちらの方向にいるのか予想ができる。
そちらに目線を向ける。
バンッ‼
同様の衝撃が背後から伝わる。すると次は左、そして右。
四方から連続で発砲音が聞こえた。攻撃を防げたのはいいが、これで四面に壁を作れることを知らせたことになる。そんな時、何かが頭上の見えない壁に乗った。
それは見えない壁に触れると筒状の中にある液体が沸騰するように水泡が溢れ出す。
爆弾。
藍が気が付いた時には爆発が辺りを巻き込み吹きとばす。
崩壊する家と一緒に崩れ落ちる藍は急いでその場を離れ全身を見えない壁で包む。
四つの発砲音からして相手は対物ライフをもちこんでいる。あんなもの回避するのは今の藍には不可能だが、真優にもそう簡単に持ち運びはできないのだろう。
とりあえず狙われたその場を離れる溜めに四か所の死角の路地を走りマンションへ近づく。
そしてとある角を曲がろうとしたとき、咄嗟に足を止めてしまう。
なぜなら先ほどまであった。目印としていたマンションが突然、姿を消していた。
呆気にとられていると、藍の頭上に大きな影が広がる。上を見上げればマンションが落下してきていた。
まさかこんなに大きな建物ごと、テレポートできるなど考えもよらなかった。何もない空間には部隊をテレポートしやすい。特に上空など何もない空間が広がっている場所がそうである。藍もそれぐらいの知識は知っていたが、まさかそれを利用してマンションごと落とすなど思いもよらない。
あんなものを壁で受け止められない。身を守るように壁を展開しても生き埋めになりいずれ窒息する。
「くそっ」
藍は安全を切り捨て、薄く広く見えない壁を空中に展開させ逃げるようにその場から全力で名晴れる。
見えない壁にぶつかるマンションは物凄い轟音を響かせ、砕け散り周りに破片をまき散らす。一瞬空中で勢いを止めるマンションだったが、久具に見えない壁が砕け自由落下を続ける。壁が壊れた衝撃が藍の腕に伝わった。
藍の頭上に迫るマンションを受け止めるようにもう一度壁を生成し、急いで遠くに逃げる。
一瞬に砕かれた壁と同時に藍はギリギリのところでマンションの下敷きにされずに逃げ切った。しかし、その衝撃と破片が藍を襲う。
壁を一面にしか作れなかった藍は抜け出る風圧に押され地面を素練り、全身で衝撃波をうけた。
何とか、意識を取り戻す藍の周りは砂煙に覆われ視界が濁っている。
立ち上がると同時に藍の後頭部に冷たい鋼鉄が触れる。
「終わりだ」
「この場で発砲したらどうなるか」
切れる息で無理矢理問いかける藍に真優は穏やかな言葉を返す、
「粉塵爆発だろ。それも狙いさ、僕にはテレポートがあるからね。これが僕が君のために用意した取って置きだよ。ほとんど能力を使い切ってしまったから、上手く言ってよかった」
「それ、ほんとか?」
藍の問いに返事はない。代わりに空しく発砲音が響く。
パンッ!
会場が砂煙の中で放たれるその銃口の音に息をのむ。そして、戦闘を中継していた映像が真っ赤な炎に包まれた。その衝撃は液晶パネルの裏で広がる会場から物凄い轟音を響かせる。
勝利とレオンの一戦について石原先輩が口を開く。
「ワーストワンなんていう汚名を着せられていた少年が、自分の信じた武器で自分の力でその名前を塗り替えた。まさに男って感じでかけぇーよな。あの優等生の彼女が惚れる理由もわかるぜ。くぅーうらやましい」
藍はため息交じりにぼやく。
「はぁ、だから殿草先輩に毎回しごかれるんですよ」
「なんで殿草の奴の話になんだ?」
「別に」
なんでこの人は自分が気になっている人への好意に気が付かないんだ。そんな思いをいつもの様に飲み込み目の前の試合に注目する。
勝利はあれ以来、未だ敗北を知らない。ワーストワンと言われていたのが嘘だったかのように圧倒的な勝利を収めていた。試合を行うたびに成長し、気が付けば勝利がランキング戦で怪我をすることはなくなっていた。相手の攻撃を一撃も食らわない。完全勝利を続けている。そして、ランキングの順位は勢いよく伸びていき、この試合でⅮランカーの一桁台へ足を踏み入れる。連戦の疲労をものともせず、その戦闘スタイルはさらに研ぎ澄まされていた。
すべての攻撃をあの鞘で受けきる勝利の本気は、恐らくあの鞘を抜く瞬間だ。誰もがそう思っているが、誰もその鞘から刀を抜く瞬間を見たことがない。
「なんで、あんなに連戦できんだよ。マジで……」
「だよな。まぁ譲れない理由があるんだろ。上に行きたい理由が。って、藍そろそろ勝利と当たるんじゃねーの」
「あの調子で勝ち上がられるとそーなりますね。まぁ、負けるつもりはないですけど、今はもう一つの試合があるんでそっちに集中することにします」
「ああ。俺も元々その試合を応援しにここに来たんだしな。頑張れよ」
「先輩もですよ。僕が先に追いついてしまうかもしれませんね。なんだって今は同じCランカーなんですから」
不敵に笑い藍はその場を後にした。
そして、始まる試合。
藍Cランカー第181位vs真優(マヒロ)Cランカー第92位。
10メートル先でで向かい合う。
「初めまして、藍。僕は石原先輩の同期の飛山先輩のチームに所属してるんだ。きっと今回のマッチも何かの縁。だから正々堂々互いに全力で戦おう」
「お手柔らかに」
「はは。やっぱ先輩に似るものなのかな。石原先輩のこう入っているのがよくわかるよ、例えばどれだけ真面目か、とかね」
声色を変え鋭い目線へと変わる。行く戦の戦場を乗り越えてきた、取りに来ている眼だ。
藍はどうでもいいように相手の威圧を受け流し、代わりにやる気のない言葉を返す。
「お手柔らかにお願いしますよ、ほんとうに」
ステージ端の立つ例の少女がぬいぐるみを強く抱き寄せ、まっすぐに手のひらを伸ばし鈴の音のようにかわいい声を鳴らす。
「はじめ」
同時に空間が光に包まれ市街地ステージへと変わる。
道路の中央にいる藍はひとまず近くの二階建ての家の屋根に乗り、身をかがめながら周囲を確認する。
そして、体の周りに五面分の壁を設置することも忘れない。以前の戦いで最大三面までしか作れなかった壁は今や六面まで作れるようになっている。
今回戦う相手は真優。能力はテレポート。メインは遠・中距離攻撃で銃を使うを得意としている。
対する藍は近距離専門だ。この戦いでは基本的に相手の能力を互いに知っている。だから、藍の所見の強みもだいぶ薄れている。しかし、藍も相手がテレポート使いで銃を使うことを知っている。
まずは相手を見つけなければ。藍は周囲で一番高い建物、一つのマンションに目線を向ける。
安直だが、高所が最も相手を見つけやすく、また狙撃手がいる確率が高い。
バンッ‼
大砲にも近いほどの物凄い衝撃波と爆音が響くと同時に藍の正面に作られた壁に衝撃が走る。大きな衝撃が壁に伝わった。だが、敵があまりにも大きな発砲音のおかげでどちらの方向にいるのか予想ができる。
そちらに目線を向ける。
バンッ‼
同様の衝撃が背後から伝わる。すると次は左、そして右。
四方から連続で発砲音が聞こえた。攻撃を防げたのはいいが、これで四面に壁を作れることを知らせたことになる。そんな時、何かが頭上の見えない壁に乗った。
それは見えない壁に触れると筒状の中にある液体が沸騰するように水泡が溢れ出す。
爆弾。
藍が気が付いた時には爆発が辺りを巻き込み吹きとばす。
崩壊する家と一緒に崩れ落ちる藍は急いでその場を離れ全身を見えない壁で包む。
四つの発砲音からして相手は対物ライフをもちこんでいる。あんなもの回避するのは今の藍には不可能だが、真優にもそう簡単に持ち運びはできないのだろう。
とりあえず狙われたその場を離れる溜めに四か所の死角の路地を走りマンションへ近づく。
そしてとある角を曲がろうとしたとき、咄嗟に足を止めてしまう。
なぜなら先ほどまであった。目印としていたマンションが突然、姿を消していた。
呆気にとられていると、藍の頭上に大きな影が広がる。上を見上げればマンションが落下してきていた。
まさかこんなに大きな建物ごと、テレポートできるなど考えもよらなかった。何もない空間には部隊をテレポートしやすい。特に上空など何もない空間が広がっている場所がそうである。藍もそれぐらいの知識は知っていたが、まさかそれを利用してマンションごと落とすなど思いもよらない。
あんなものを壁で受け止められない。身を守るように壁を展開しても生き埋めになりいずれ窒息する。
「くそっ」
藍は安全を切り捨て、薄く広く見えない壁を空中に展開させ逃げるようにその場から全力で名晴れる。
見えない壁にぶつかるマンションは物凄い轟音を響かせ、砕け散り周りに破片をまき散らす。一瞬空中で勢いを止めるマンションだったが、久具に見えない壁が砕け自由落下を続ける。壁が壊れた衝撃が藍の腕に伝わった。
藍の頭上に迫るマンションを受け止めるようにもう一度壁を生成し、急いで遠くに逃げる。
一瞬に砕かれた壁と同時に藍はギリギリのところでマンションの下敷きにされずに逃げ切った。しかし、その衝撃と破片が藍を襲う。
壁を一面にしか作れなかった藍は抜け出る風圧に押され地面を素練り、全身で衝撃波をうけた。
何とか、意識を取り戻す藍の周りは砂煙に覆われ視界が濁っている。
立ち上がると同時に藍の後頭部に冷たい鋼鉄が触れる。
「終わりだ」
「この場で発砲したらどうなるか」
切れる息で無理矢理問いかける藍に真優は穏やかな言葉を返す、
「粉塵爆発だろ。それも狙いさ、僕にはテレポートがあるからね。これが僕が君のために用意した取って置きだよ。ほとんど能力を使い切ってしまったから、上手く言ってよかった」
「それ、ほんとか?」
藍の問いに返事はない。代わりに空しく発砲音が響く。
パンッ!
会場が砂煙の中で放たれるその銃口の音に息をのむ。そして、戦闘を中継していた映像が真っ赤な炎に包まれた。その衝撃は液晶パネルの裏で広がる会場から物凄い轟音を響かせる。