第24話 「もう殺したくない」

文字数 1,357文字

 しばらくして屋上に付いた海里。その正面にはもかがいた、キサラギの戦いの衝撃がもかの髪をたなびかせる。
「もか」
 海里の言葉に振り返るもか。
 5m程離れた場所で立ち止まる海里。地面からうっすらと覗かせる黒い悪魔の手がもかを覆うようにいくつも顔を覗かせる。
「私たちは見捨てない、裏切らない。恐れなくていいの」
「それがどうしたの」
 冷たい生気のない声が帰ってくる。
「私たちは貴方をただ助けたいだけ……そう。友達になりたいだけなの。私のたった一人の、最初、一人目の友達に」 
 もかと同じように海里は家族を知らない。友達だと思える人はいない。そんなもの不要だとすら思っていた。その本心はもかに恐らく筒抜けている。それは、もかに取り付いている悪魔の体の一部が目に見えるほど力を取り込んでいるからだ。
 もかは言葉をは続ける。
「貴方に取り付いている悪魔の力はしってるし、その力も少しは知っている、だから隠さない。……これは任務だし、もちろん仕事で始めたこと。今だって半分はそれで動いている。けど、もう半分は違う。気づいてるでしょ。貴方と本気で友達になりたいと思った。助けたいと思った、どこか似てて大切なものを捨ててきた私と」
 沈黙するもかの言葉を少し待ってから海里は続ける。
「ほんとは気づいてるんでしょ」
 海里は唇をかみ唾を飲み込んでからもかに怒鳴る。
「自分から目背けてなんかいないで向き合いなさいよ!逃げんじゃないわよ!思いっきりぶつけなさいよ!」
「うるさい!うるさい!うるさい!そんなこと望んでない、そんなこと思ってない」
「なら何で泣いてるの。その涙の意味はなんなの」
 絶叫するようにうっすらと悪魔の体がもかの背後に浮き上がる。霧のように薄いが確かに悪魔がそこにいた。
「貴方に何ができるの、このちからを誰が抑えられるの、私が暴走したらどうなるの!もう死にたいの、誰も不幸にしたくない!死なせてくれる、楽にしてくれる。あの人だけが私を止められる本当の力を持っている。だから、わたしは。何の価値もないこの不幸の塊を外に出さない!私を背負ってくれた、その背中を知っているから」
 もかの記憶に蘇るキサラギの背中。始めて感じた温もりにどうしようもない安心感を感じた。この人はもかを見捨てない、裏切らない、逃がさない、離さない。この手が、悪魔の手が彼の、キサラギの背中に触れている。
ドォォオオオオン!
 ものすごい轟音と同時にキサラギの前でSランカー達が倒れ込む。スタミナ切れを知らず、常に全力でその力は増していた。
 海里は自分の命を懸け一歩前に進む。地面をただよう悪魔の手に触れれば残りの力を持っていかれ、今の海里なら簡単に死ぬ。それでも海里は前に進んだ。
 海里の行動に戸惑い、やがて恐れる表情にかわり叫ぶ。
「止まって!来ないで!」
 また一歩、ゆっくり着実に進んでいく海里にもかは嘆願するように弱々しい言葉をこぼす。
「もう殺したくない」
「海里!」
 突然の叫び声と同時に海里の背中を引きよせ、もかから距離をとる勝利。
 海里を優しく抱き寄せる勝利は、安心させるように暖かな声色で言葉を続ける。
「もう大丈夫。貴女が守りたかったものを、僕にも守らせてください」
 勝利は優しく微笑むともかに向き直り鞘に手をかける。
「もか。僕は君を守り、君を助ける」
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