第16話 六芒塔

文字数 3,508文字

 STCO本部、オペレーター室。
 大きなスクリーンに映されるさまざまな情報。作戦通りほとんどの部隊が拠点を包囲できていた。
 しかし、制圧できているわけではない。先手を打てただけだ。
 「第15KAM部隊壊滅!」
 その言葉でキサラギがどこにいるか直ぐにわかる。
 続けてポップアップウィンドウが開かれ、その声に皆が注目する。
「お前ら、今この瞬間全てが決まる。常識が覆る。全ての理不尽が反転する。俺たちが何者か教えてやれ。我々が主役だ、我らが世界だ。さあ、暴れろ。……革命の始まりだ」
 その言葉の直後、次々に部隊からの連絡が通達される。第5塔の反撃の始まりだった。

 キサラギをおびき寄せるために使うカイド株式会社本社。
 その敷地で、殿草と勝利は戦っていた。相手は大したことのないチンピラ。魔道具を持っていてもその扱い方はまるでなっていない。無数に表れる相手を無力化しながら二人は敷地の中にはいられないように注意を払っていた。
「やるじゃない。それは教わったの?」
「はい。師匠から」
「そっか。自分なりの戦い方を見つけられてよかったわね」
 戦いながらも会話の余裕がある殿草と勝利。殿草の本物の実力を眼に映す勝利は、ふとした疑問を口にする。
「なぜ。そこまでの実力を持っていながら、ランキング戦には参加しないのですか?」
 黙りこむ殿草に勝利は慌てて言葉を付け加える。
「すみません。命令で急遽組まされた関係なのに、無粋な質問をしてしまって」
「いいえ。こちらこそごめんなさい。貴方の実力を買って、この任務に採用されたのよ。Sランカー達とキサラギの戦闘に邪魔が入らないように一緒に守りましょ。相手は多いけど、今のところ素人で助かるわね」
「はい。そうですね」
 二人は侵入者がいないか確認を行いながら、また新たに迫りくる暴走族の相手をする。
「集団でいけば、捕まらない。罪が軽くなるとでも思っているのでしょうか?」
「そうね」
 そう言って殿草は拳を地面に強く打ち付ける。大きな振動がたたったのか、近くの小さな建物が崩壊する。それに恐れてか、相手は捨て台詞を吐き逃げ帰っていった。
「さっきの話だけど……」
 少しの静寂を含んでから殿草は勝利にやさしく微笑む。
「ランキング戦に出ないのは、貴方の理由と似た寄ったりじゃないかな」
 言葉の終わりと同時に彼女の背後の倉庫が崩壊した。慌てている殿草先輩の姿を見て勝利は笑った。
 Aランカー第一位と組まされる大切な任務、あのキサラギに対面するかもしれない任務に緊張していてか、心の余裕ができ勝利は海里のこと思い出す。
 今回の任務に海里が参加していることを勝利は知っている。しかし、担当している場所が違う以上、状況はわからない。
 大丈夫か、上手くいっているのか。同じ部隊員となった勝利は気づかぬ間に海里の心配をしていた。
「それにしても、まだ来ないのね」
 殿草の言葉に勝利ははっと思い返す。それが誰の事かはすぐにわかる。明らかに着ていていい時間のはずなのに、まだいない。今回最も重要な人物。
 勝利は小さくその者の名を口にする。
「キサラギ」

 STCO本部、オペレーター室。
 大きなスクリーンに映されるさまざまな情報の中に映し出される異例な事態。
 続いて、直ぐに報告が入る。
 「第13部隊壊滅!」「第8部隊からキサラギの目撃情報!」「第16、17、18、19、22、23部隊押し返されています!負傷者多数!」
 キサラギが暴れていた。カイド株式会社には眼もくれずに。
 そして、キサラギが率いる23の指定暴力団が想像以上に力を持っていた。それぞれの組長とその幹部から魔導アーマーを着用していた報告が上がっている。

 カイド株式会社、支店。
 一個の巨大な高層ビルで戦況を確認していたヴァジル。一際、大きな爆発と崩壊を繰り返す街並みを見下ろしていた。まっすぐに近づいてきている、それはキサラギであるのは言うまでもなかった。
 ヴァジルは苛立ちを隠せない。
 頭の悪いキサラギが、なぜここにいたのがばれたのか。
 それは言うまでもない。
「ルインの悪魔め!」
 ヴァジルは窓に背を向け、苛立ちのままに叫んだ。
「ここは捨てる!作戦変更だ、最終兵器の準備を進めておけ!」
「しかし、それはまだテスト段階で」
「ああ。そんなことはわかっている!あくまで準備だ!それから、できるだけの仕掛けをこのビルに設置しておけ!ありったけだ!全警備システムを最大にしろ!試作品もすべて使え!ただで返すな!」
 通信を終えたヴァジルはもう一度後ろを振り返り、近づく爆発を見つめながら不敵に笑う。
「いいだろう。ヴァジルが作った傑作の建造物。魔力で強化された鋼鉄のビルは外部はもちろん内部からの攻撃にも耐えれる頑丈な作りになっている。公にできない兵器や魔導機具の開発にあたって必要不可欠の配慮事項だ。いわば地獄の箱と言っても遜色ないだろう。いいだろ。貴様がどれほどのものか、このビル全てを使って被検体にしてやる」
 ヴァジルは耳に着けていた通信機を部屋に捨て、その場を後にした。
 実際に目で見るのは初めてのキサラギの馬鹿げた力。その力の前で、今まで開発した魔導器具、兵器たちがどこまでの数値を見せてくれるのか。
 苛立ちはすでに消えていた。
 新たな被検体の確保、更に進む研究にヴァジルは嫌な笑みをこぼす。

 STCO、大阪本部。 
 地下九階、総監督指令。
 津崎雅龍は状況を確認しながら焦りを感じていた。
「なぜ、おおもとに向かわん。それたせいで包囲が崩れ始めた。それにディアンの肩入れが、想定以上に厄介だ」
 そんな中、司書の菅原が一人の少女の写真を映し出す。
「なんだ。今そんなものに興味は……」
 そこで津崎の言葉が止まる。少女が映る三枚の写真。一つにはキサラギと同じ車に乗り込んだ写真が残っている。
 そして、つい先ほどの同じ車からトランクを持って降りる写真。そして、キサラギの屋敷近くで撮られた写真。
 雨芽もかという名の普通の女子高生、その腕に違和感を感じた津崎は直感で判断を下す。
 何ともない少女がキサラギと一緒にいるはずがない。恐らく少女とその手にあるトランクが今回の戦いのカギになる。 
「今直ぐに全部隊に伝えろ。彼女、もかを見つけ次第、即刻報告し捕縛しろ。それからSランカーには別に伝えろ。蓮と竜命はキサラギの相手を、加恵奈と三日月はもかの捕縛だ。本部化回線とSランカー達を共有しておけ」

 カイド株式会社、支店。
 その目の前で立ち止まるキサラギ。
 キサラギの耳元のルインの悪魔の通信音声が届く
「その建物の中でヴァジルの痕跡は止まっています。おそらく」
「わかっている。それより状況はどうなっているんだ」
「ええ。今のところは問題なく進んでいます。包囲網も貴方のおかげで崩壊を始めている」
「切り替えろ」
 キサラギの言葉に素直に応じるルインの悪魔。
 それは全ての回線に流れるルインの悪魔が要した回線。これを使えば万が一にこちら側の通信を阻害されたとしても、ロックされた回線を抜けどこからでも拾うことができる。
 全ての相手に聞かれてしまうデメリットが存在するが、聞かれる内容に損害は何もない。
「内田組、宮崎組、大野組、各尾組。魔導アーマーの使用を許す」 
 キサラギの支配する組の中でも一際は大きな力を持つ、4つの組。それぞれがAランカー5人前後の実力を持つ犯罪者が所属している。その号令で、キサラギ四天組の長が本格的に動き出す。
 キサラギはカイド株式会社の支店の前に一歩近づく。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」
 大きな雄叫びが響く。その声は通信を返し、皆の耳を打った。
 咆哮と合わさるようにキサラギの体からあふれ出す黒い霧が激しく波打ち、周りに立つ気が大きくしなる。
 同時に打ち出された拳は黒い霧を一心に放出しビルを襲う。怒りを含んだキサラギの拳は、圧倒的な爆発音を町全体に響き渡らせる。STCOのオペレータ室は完全に静まり返る。その光景を見ていたものは皆が絶句した。
 そこにあった高層ビルが木っ端みじんに崩れ、空に飛び散った。瓦礫が遠くの山にまで降り注ぐ。
 ヴァジルの作ったビルが跡形もなく吹き飛んだ。
 武力最強。圧倒的な暴力。日本最強の破壊力を持つ男。
 まさに最強の名に相応しい。
 続けてキサラギは言う。背後で落ち始める瓦礫の衝撃音を奏でながら。
「キサラギ組20勇士!この合図が聞こえたか!沈黙の時は終わった!計画通り狩りつくし、奪い取れ!」
 もし回線がジャックされた時のために用意された合図。それは言うまでもなく辺り一帯に大きな衝撃波と爆音を轟かせ、皆の耳に届いた。
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