第57話 失われた名前を探して

文字数 337文字

河の畔で積木を投げ入れながら、その響きを聞き比べて。
流れる時をここで待ちながら、繰り返している。
名前を失ったことは、
その存在まで消えてしまったように振る舞うのだろうか。
記憶だけの存在は、本当の名前まで知らない。

君は言う。
静寂の向こうにある幾千もの言葉よりも、
日々を重ねるごとに伝わる想いは、時を越える。
急ぐことなく、悩むことなく、諦めることなく、
同じ、全ては同じ時と場所を示すまで。

僕は呼び続ける。
きっと見つかる。信じた先に約束は無くても、
失うことなく、留まることなく、諦めることなく。
めぐる時代の中で、失われた名前だけを頼りに、
探し続けることは無駄じゃない。
流れる波紋をここで待ちながら、
その翼が開く時を、その両翼のカケラを拾いながら、
その空はいつまでも待っていてくれる。
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