第112話 朝と夜と

文字数 616文字

朝日を浴びて、ゴロー太は走る。
昨日を捨てて、明日に向かう。
些細な事は吹き飛ばし、あてはなくても、真っ直ぐ走る。
少し冷たい風を、気持ちが良いと思ってみる。
同じ背丈の草が身体をさすれば、勢いがつく。
追い風に乗って、柔らかい地面を蹴って、
止まることを、考えない。

肩越しに日の光を浴びて、ゴロー太は走る。
浮いている雲よりも、昼寝をしている鳥よりも、
こころは醒めている。
どんなに遠くても、どんなに高くても行けそうだ。
花が散ってしまう前に、見上げることができる。
ゆっくりと考えている時間は、無い。

夕日に背を向けて、ゴロー太は走る。
伸びる影を追いかけ、沈む太陽から離れる。
誰も居なくなった公園を、誰も歩かない道を、
懐かしむ余裕がある。
この色を、覚えている。
この光を、覚えている。
そして、影が消えると、ゴロー太は、立ち止まった。

ただ真っ直ぐな道が、幾つにも分かれ、ゴロー太は迷い始める。
背中を向けていた方向が、わからない。
小さな鐘の音が回り出し、急ぎ足で暗くなる。
奪われたこころは、どこにも無い。
暗闇が牙を向け、道は、長いトンネルになってしまった。
脚は震えるばかり、痛みは、世界を蝕むことに夢中だった。

そよ風を耳に受け、ゴロー太は走る。
月明かりが足元を照らし、道を創った。
星の瞬きを頼りに、昨日の夢の続きを追いかける。
噛んだ唇を開き、沢山の言葉を、思い出す。
丸い月と眼を合わせ、明日の方角を確認した。
そして、朝日が昇ると、ゴロー太は、眠りについた。
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