第63話 蒼き凛とした世界、そして

文字数 542文字

小さな風と遠くまで広がる草原。微かな揺れを感じて、始まろうとしている。
見えるもの全てが蒼く、空はどこまでも在り続ける。
止まり木のすぐ近く、音の無い世界で夢から覚める時がある。
終わりを告げた鳴き声も今は身を潜め、深い、深い常闇から抜けられない。
月の力、限りなく静寂の彼方に微笑みかける。それは終わる、もう終わる。
夜明けの力、及ぶことなくまだ蒼く、影を見せない。
それは、それはとても素敵な世界。

失うことも、得ることもない。そんな望みを忘れさせてくれる。
急ぐことも、見失うことなく、ただその中の一部のように在ればいい。
そうすれば、ひとつになれる。そんな思いだけが漂い、いくつかの、
遠い瞬きさえも近づいてくる。手を伸ばせば届きそうなくらいに。
それは、とても穏やかな世界と呼べるもの。

小さな物語と、忘れられた人達の命を語り継ぐ物語。
もう、望んではいない。ただ言葉の橋に訪れればいいと、
消えることのない名を、繰り返し思い出す。
ずっと終わらないまま続けばいい。その一瞬はきっと永い。
それは、とても静かな世界を迎える。

走り始める先に必ず待っていてくれる。
世界は溶け始め、虚ろな夢も光を受け入れる。
輝くのはひとつずつじゃない。走り続けていたんだ。
等しい世界と、ひとつの世界。
そして、また日は昇り始める。
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