第90話 七つの風 その2

文字数 938文字

春から夏へと吹く風と、出会った。
信じたことは、何でも叶う。
大きな雲が行く手を阻んでも、夢の鍵で通ってきた。
全てを受け入れてきたのだから、
夢の鍵を持っているのだから、
届かない場所なんか無い、と思えた。

強気の風は、恐れることを知らない。
奪われること、奪うこと、悩むことは無いのだろうか?
奪われた風が吹くたび、両手を拡げて叫ぶ、
信じられるもの、信じたいもの。
それは、たったひとつだけあれば十分だと思った。
だから、たくさんの言葉を捨てた。
そうしていれば、ひとつだけ、残るはずだった。

無口な風は、零れるほどの言葉を持っている。
夢の中、広げた袖で水平線を作り、蒼く、紅く、そして白く輝いた。
果ての空に置いてきた望みを、もう一度確かめ、
明日も必ずやって来ると、約束した。
夢の途中、零れるほどの言葉で、物語を始める。
大きな空に軌跡を残しながら、
ずっと、そこに居たいと、思った。

泣いている風が、漂う。
優しい気持ちを、忘れてしまった。
何でもない事に、腹を立てた。
考えて、考えても、応えてはくれない。
幸せそうな風が、振り返る。
分けること、与えること、出来ない。
それでも望むなら、追いかけ続ければいい。
泣いている風は、遠くを探しながら、戸惑う。

虹ってる風は、夕日を連れてやってくる。
降り注ぐ風が、口々に自慢し合い、消えてゆく。
憧れを空に残し、次の空は夕日を繋ぎながら、
新月を出迎える。
覚えているだろうか?
時々、思うこと。時々、出逢うこと。
冷たい風にくるまれた物語は、届かない日々を想う。

何も起こらない毎日が続いた。
だから、そこに居た。
何も思わない毎日が続く。
だから、昨日のことは、覚えていない。
終わらない悲しみ、があった。
だから、今も、振り返る。
それは、覆い尽くすまで終わらない、らしい。
長く降り続ける雨、があった。
その、重い雨の中、風は立ち止まったまま、見えなかった。
何も起こらない毎日が続く。
だから、時々、振り返った。

七番目の風は、まあるい眼をしていた。
駆け上る風が、また巡ってくる。
何度も微笑みながら、問い掛け、行き先を言わない。
どこまで行っても追いつけないのは、わかっているだろう?
それでも、日が暮れるまで走った。
そして、思う。
そして、思った。
何度も見送りながら、良い風と、
出逢えるようにと。
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