第30話 アリスの独り言

文字数 674文字

ゴロー太は、出逢う。
もう、探さなくていい。
もう、走り続けなくていい。
空のように青く、透き通ったその瞳は、全てを包み込んでくれる。
どんなことがあっても、もう、失ったりしない。
そう、僕達を中心に、世界は回り出したのだから。

ゴロー太は、話しかける。
楽しかったこと、不思議な夢を見たこと、
そして走り続けたこと。
いっぱい、いっぱい話しても終わらない。
君は微笑んだまま、ずっと話を聞いてくれる。
もう、いいんだ。急ぐ必要なんてどこにも無い。
ゴロー太は、彼女の足元で丸くなる。
ずっと、このままがいい。
走り出す理由は、もう無い。

風の強い日、コウと出会う。
ゴロー太は、コウを連れて彼女の居る場所へ走る。
風は彼女を傷つけ、前足をさらって行く。
ゴロー太は、夢中で失われた前足を舐める。
それは、いつまでも、いつまでも、
涙が涸れるまで、ゴロー太は止めない。
コウは、それが生き物でないことを知っている。
だけど、言えない。
”もう、大丈夫だから”
コウは、ゴロー太を引きずるように、その場所を離れる。

穏やかな風の日、ゴロー太は、彼女の居た場所へ走る。
でも、もう彼女は居ない。
君の居た場所には、違う光景が広がるだけだ。
君の居た場所に、ゴロー太は、ずっと座り続ける。
そして、話の続きをする。
探したこと、哀しい夢を見たこと、
そして走り続けたこと。

ゴロー太は、そっと目を閉じて思う。
少しだけ、ありがとう。
夢を見ることができて、とっても楽しかったよ。
探してること、こんなことじゃない。
きっと、こんなことじゃない。

走り続ける理由は、いっぱいある。
だから、話飽きたら、ゴロー太は、また走ろうと思う。
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