第97話 歌う山

文字数 369文字

失った記憶を取り戻すために、流れる風に吹かれ、
その先の代償を希望に替え、挫けそうな気持ちを支え合う。
消えそうな夢が、時と共に薄れゆく感覚に惑わされながら、
不思議な月の影が写し出す、根拠の無い誘惑と、無心の魂が、
きっと届く想いとなって伝わって行く。

不毛の峠は、拒むことなく、受け入れもしない。
ただ、繋ぎ止めることだけが、前へ進むことができる。
竜の谷で聞こえる、叫び声のような風の音。
凍りつく川の上を、ひとつもない枝をたよりに、
自分に約束したことを果たしたくて、
ずっと、ずっと信じ続ける。

見ることのできない未来は、暗闇に、
知ることのできない未来は、不安と、
聞くことのできない過去は、迷路。

話す声は、誰も答えず、ただ響くばかり。
時折、吹き抜ける風は歌う。
優しさと引き換えに、戻ること。
虚しさと引き換えに、夢を。
そして、山は歌う。こころつよくと。
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